今を生きる

「試されるは スピード!条件達成者、先着100名を通過とします」


ヒーロー公安委員会の目良から伝えられた内容―――例年とは比較にならない倍率の高さに、1540人の受験者たちは狼狽し、試験会場がざわめいた。


「で、その条件というのが―――」


目良の説明を一言も漏らさぬよう聞きながら、強子は頭の中で整理していく。
まず、受験者は3つのターゲットマークを 体の好きな場所(ただし常に晒されている場所)にセットする―――それなら強子は、自分の急所となる 胸、腹部、額にセットしよう。
次に、手渡されるボールは 一人あたり6つ―――だが、ボールの数はあまり考えなくていい。足りなきゃ、他者からボールを奪うまでのこと。
このボールが当たると、ターゲットが点灯する仕組みになっており、3つともターゲットが光った時点で、脱落となる。


「そして、“二人”倒した者から、勝ち抜きです。ルールは以上」


―――うん、強子の知ってた通りのルールだ。なんら問題はない。


「えー・・・じゃ、“展開”後、ターゲットとボールを配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートとします」


“展開”・・・?と 受験者たちが首を傾げていると、部屋の四方の壁が開いて、“フィールド”が受験者たちの目の前に現れた。
受験者たちに与えられた猶予は、ボールが行き渡ってから 1分間。
1秒たりとも時間を無駄にしないよう、ボールが配布されている間も、他校の受験者たちはきょろきょろと周囲を見回している。
自分たちに有利な地形のフィールドに目星をつけるため・・・そして、“どこを狙うか”を見定めるため。


「各々 苦手な地形、好きな地形、あると思います。自分の個性を活かして頑張って下さい」


ボールが全員に行き渡ると同時、受験者たちは、一斉に駆け出した。
A組の生徒も遅れをとるまいと、慌てて移動を開始する。


「先着で合格なら・・・同校で潰し合いは無い・・・むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋!―――皆、あまり離れず、ひとかたまりで動こう!」


さっそく この試験の構造に気づいた緑谷がA組に向けて提案するが、


「フザけろ 遠足じゃねえんだよ」


爆豪は単独行動を選び、タッタカターと勢いよく走り去ってしまった。
切島と上鳴が慌てて追いかけていったので・・・まあ、彼らは彼らでチームアップするから問題ないだろう。


「俺も、大所帯じゃかえって力が発揮できねぇ」


続いて轟も、タッタカターとA組の集団から離れていき・・・


「ごめん、私も一人で行くわ」

「身能さんも!?」


緑谷が不安そうな顔をして強子を見た。八百万や耳郎、他のクラスメイトらも、心配そうに顔を曇らせて強子を見る。
強子のことを案じているらしい彼らに向け、強子はニタリと不敵な笑みを見せた。


「私はね、ただ“通過”することだけを考えてるんじゃない―――“1位”だよ・・・私は、1539人 全員を出し抜いて“1位”で通過したいの」


そう・・・ここにいるクラスメイトたちさえ、出し抜いて。
強子が、この試験会場にいる誰よりも凄いのだと、受験者全員に思い知らせてやる。
クラスメイトと協力して1位をとっても、それじゃ足りない。群れなくても 強子一人でも勝てるのだと、証明するんだ。
それくらいしないと、強子を見くびってる連中に一泡ふかせるなんて出来ないだろうさ。


「悪いけど、一人で好きなようにさせてもらうよ!それじゃ 皆・・・二次選考で、また会おう!」


強子はキメ顔で自信たっぷりに言い残すと、クラスメイトたちに背を向け、タッタカターとその場から走り去った。


「(早いとこ、ズラかろう!)」


クラスメイトたちには言わなかったが、強子がこの場を離れたがる理由は、もう1つあった。
今、A組が固まっているこの場所は、“雄英つぶし”をもくろむ 不特定多数のライバルたちに周囲を囲まれている。
スタートの合図とともに、この場は乱戦・混戦となるだろう。ともすれば、顔も名前も個性も知れ渡っている強子は格好の的となり、一斉に狙われるだろうが・・・


「(多対一は なるべく避けたい・・・)」


強子の個性は、範囲制圧に長けていない。
一対一、タイマンでの近接戦こそ、強子の力をもっとも発揮できる戦闘スタイルと言える。
それを考慮するならば、


「(私にとって最大のチャンスは、試験開始直後――各校がフィールド移動や陣形を完成させる前が、勝負どころ!)」


一つ、例え話をすると・・・狼という生き物は、群れの中心からあぶれた無防備な羊をねらって狩り、喰らうらしい。
それが 自然の摂理。ならば強子も、それに倣おうじゃないか。
つまり、ライバル校たちが体制を整えて連携を固めてしまうより早く・・・集団からあぶれた不用意な奴の隙をつき、討つ―――これが、強子の勝ち筋!


「(とにかく、ここからはスピード勝負だな・・・本来は1位で通過するはずの 夜嵐イナサ―――あいつより先に、私が条件を達成させてやるっ!)」


目指すは、“1位”だっ!!





A組がいた場所からスタコラサッサと駆け出した強子の行き先は、自然豊かな森のように作られた区画だった。“狩り”をするには もってこいの場所である。
そんな彼女の背後に、“雄英つぶし”を狙う多くの者があとを追ってきていたが・・・機敏に駆け回る強子のスピードに、追っ手が 一人、また一人と、振りはなされていく。
そうして強子が、周囲の追っ手をまきながら走っていると、


『4・・・3・・・2・・・1―――』


試験スタートまでのカウントダウンが、フィールドに響きわたる。
今、強子がいる場所は、木が生い茂って人目につきにくい、森の奥。ここまで移動してくる間に多くの追っ手を振り切ったおかげで、今や 強子を狙う者は―――


「たったの 1人」


冷静に状況を確認すると 強子は走ることをやめ、その場で立ち止まる。
くるりと後方へと振り返れば、タイミングよく、フィールドに合図が響きわたった。


『スタート!!』


合図と同時、ビュンと勢いよく、強子の胸元のターゲットマーク目掛けてボールが飛んでくる。
だが強子は、危なげもなくボールをパシッと掴んで止め、それを投げてきた相手を見やった。


「雄英の身能!悪いが、アンタにはここで脱落してもらう!」


偉そうにふんぞり返って、強子に挑戦的な笑みを見せる男。角が生えた頭部に、大きな蹄のある脚――その風貌はまるで、


「・・・牛?」


牛と人間を混ぜ合わせたような風貌から察するに、個性は『牛』といったところか。
“羊”を狩るつもりが、どうやら“牛”を狩ることになりそうだ。


「まあ、いいか・・・牛乳は嫌いじゃないし」

「牛は牛でも、オレは乳牛じゃなく 闘牛なんだよっ!」


強子の独り言に律儀にツッコんだかと思えば、牛の男は鼻につく笑みを浮かべた。


「体育祭を見てアンタの実力を知ってるけどな・・・アンタより、オレのほうがパワーは上だぜ!パワー増強型なのに、残念だったな・・・オレとアンタが戦えば、勝つのはオレだ!!」

「・・・なるほど」


自分よりパワーが劣ってる奴に狙いを定めて、確実に脱落させる――それが彼の勝ち筋か。どうりで執拗に、こんな森の奥まで強子を追いかけてきたわけだ。
確かに、牛は筋肉量もあるし、体も大きいし・・・パワーに秀でているというのはウソじゃないだろう。そして意外にも、牛って、気性が荒い生き物なんだよなぁ。
けっして油断はできないと判断すると、強子は、自分よりパワーが勝る相手に抗うための 策に出る。
深く息を吸い込み、集中力を高めて・・・


「―――超反射(リフレクスビヨンド)」


それは、エクトプラズムの指導のもと、“必殺技”と呼べるまでに鍛えあげた 新技だ。
出し惜しみなんかしてられない。初戦からぶっ放していく!


「何をする気か知らねーが 無駄だ!オレが、アンタを、力ずくでねじ伏せてやる!!」


彼は蹄で土を強く蹴り上げ、猛スピードで強子に向かって突進してきた。
だが、強子は表情ひとつ変えないまま、ひらりと彼をかわした。
すると彼は、また強子に向き直って突進してくる。強子も、再びそれをかわす―――その攻防は、さながら 闘牛と闘牛士のよう。


「おい!逃げてちゃ勝負になんねーだろ!オレと戦え!!」

「やだなぁ、ちゃんと戦ってますよ?」


強子が笑顔で、牛男の体を指さした。
牛男は自分の体に視線を落とすと、ぎょっと顔を青ざめさせた。なんと、牛男の左胸と腹部についているターゲットが、2つとも光っているではないか。
光が点灯しているということは・・・ターゲットにボールを当てられたということ。


「なんっ!いつの間に・・・!?」


ターゲットが3つ光ったら脱落なのに、もう、2つも光っているなんて!
慌てた牛男は無意識のうち、残る1つ――後頭部につけたターゲットの無事を確認しようと視線を背後に向け・・・


「とあるヒーローいわく、」


牛男のすぐ背後から、聞こえた声。
勝負中に敵から目を離す――そんな初歩的な失態をしてしまったことに気づいたときには、トンと 彼の後頭部に軽い衝撃が走っていた。
そして、最後の1つ、後頭部につけていたターゲットも点灯する。


「・・・“疾さ”は“力”に勝るんだ ってさ」


手元にあるボールを弄びながら、強子はニッコリと得意げな笑みを浮かべた。

超反射(リフレクスビヨンド)―――この技は、一時的に強子の動体視力と反射神経を強化する。
これにより、強子の体感速度は 格段に変わる。
強子の見る世界が、スローモーションのようにゆっくりと流れていく。通常よりも5倍くらいは 遅く見えている。
一流の野球選手は、ピッチャーの投げたボールの縫い目まで見えるという話を聞いたことがあるが・・・今の強子は、まさにその状態だ。

イノシシみたく直線軌道で向かってくる牛男を避けるのなんて、朝飯前。避けるついでに、手に持っているボールを牛男のターゲットに当てるのも、容易いこと。
だって強子には、牛男の動きがスロー再生に見えるんだから。彼のパワーは凄いけど・・・単純に、遅いんだよ。
“疾さは力に勝る”の、言葉の通りだ。
たとえパワーでは勝てなくても、反応速度、俊敏さで相手に勝っていれば、何もこわくない。
パワー勝負で挑んでくる相手に、わざわざ律儀に パワー勝負で付き合ってやる義理もない。
まあ・・・パワー勝負でも、牛男に勝ってた自信はあるけど。





さて、条件を達成するには、あと一人脱落させないといけない。
1位をとるため、次の標的を探すのに時間をかけてはいられないのだが・・・早々に脱落して絶望している牛男のほか、近くに人の気配はない。オマケにここは、視界の悪い 森の中。
けれど強子は、“索敵”に関しては、腕に覚えがあった。
強子は深呼吸を何度か繰り返し、全神経を研ぎ澄ませる。


「感覚強化―――完全掌握(パーフェクトリーグラスプ)!」


そう唱えると、強子は ぐっと固く拳を握った。
そして、発動する―――聴覚強化、嗅覚強化、視覚強化と触覚強化、その全てを一体化させた 最強の必殺技を!
まだ、かなり集中しないとうまく発動しないし、把握できる範囲も狭いが・・・今、これを使わない手はない。
目では捉えられない敵も、音を立てずに隠れる敵も・・・強子の前では その姿がまる見えとなる。
その上、“触覚”の強化によって、肌に触れる空気の揺らぎから、周囲にある物体や配置、動きまで察知することが可能となった。
すべての感覚を複合的に強化した強子は、周囲の状況を立体的に、完全に、把握できるというわけだ!

ほら―――周囲の木々や岩といった障害物の、数も、形状も、位置も、手に取るようにわかる。
木の上で身を潜めている鳥やリス、岩影に隠れている虫たちも・・・すべて、強子の 手のうちだ。
さらに集中し、掌握範囲を拡げていく。強子の半径5メートル、10メートル、20メートル、30メートル―――


『・・・くそっ、はぐれちまった!早くあいつらと合流しねーと』


誰かの切迫した声が聞こえた。
強子はぺろりと舌なめずりし、捕食者のようにぎらりと眼を光らせて、声の方に向けて駆け出した―――


「ぐあっ・・・え!?お前っ・・・!」


仲間とはぐれたようで 一人きりのその男に、死角から接近し、地面にねじ伏せた。
強子は男の上に乗って、手際よく男の手足を押さえると、暴れる男に構わず 問答無用でボールをターゲットに近づけ・・・


「待て!待ってくれ!」


男が抗議の声を上げながら、必死に抵抗する。


「背後から襲うなんて卑怯だぞ!?こっちは仲間と分断されて、戦う態勢じゃなかったってのに!こんなのっ、フェアじゃない!そうだろ 身能!?」


その言葉に、ぴたりと強子が動きをとめた。
強子が怪訝そうに男を見ると、男は必死な様子で懇願する。


「た・・・頼む、俺を見逃してくれ!お前ほど強い奴なら、他の誰が相手だろうと勝てるだろ!?」


目を細めてじっと男を見つめていたら、強子の足元の地面がぐらぐらと僅かに揺れた。
おそらくは、傑物学園の真堂の『揺らす』個性によるものだ。今ごろ、フィールドのあちこちで、敵味方が入り乱れての戦闘が勃発しているんだろう。


『はい、ようやく1人目の通過者が出ましたー』

「ええっ!?」


アナウンスを聞いた強子が、思わず素っ頓狂な声をあげる。
だって、嘘だろ・・・?強子が狙っていた“1位”の座が、もう奪われたのか!?
夜嵐が条件達成するまでの時間は、予想以上に早かった。


「なあ、せめて 勝負を仕切り直しにさせてくれないか!?お前なら、“フェアプレー”で戦ってくれるよな・・・!?」


煩く喚いている男を、ギロリと見下ろす。
お前にのんびりと構っていたせいで、強子は 1位の座を逃してしまったじゃないか。
むしゃくしゃした思いを抱えて、強子はボールを握る手にぎりぎりと力を込めた。


「・・・わかってないんですね」

「?」

「あなたが仮免試験に“落ちる”理由ですよ」

「っ、は!?落ちるって、テメェ!」


強子の言葉の意図に気付いて 暴れようとする男を押さえつつ、強子は呆れたような口調で続ける。


「まず初めに―――同じ試験を受ける身で、同じフィールドに立つ者どうし・・・私たちの立場が“フェア”だってことを理解してないんだよなぁ」


フェアじゃない なんて、とんだ言いがかりだ。
準備時間(1分間)なら、全員に平等に与えられていた。
開始の合図もフィールド全体に届いてた。そもそも実戦では 開始の“合図”なんか無いんだって・・・雄英の入試を受けた者なら、入試時に学んでいる。
あげくに、開始したらフィールド全体が戦場になるってのに、臨戦態勢になっていないコイツに落ち度がある。仲間と分断されたのも、コイツ自身の責任だろ。
強子は、未だに抵抗を続ける男のターゲットマークの1つに、躊躇いなくボールを押し当てた。


「それにね―――ヒーローってのは 常に、理不尽や逆境を覆していくものなんだよ」


どれだけフェアじゃない状況だろうと、必ず打ち勝つのが ヒーローだ。
それくらいのこと、A組の生徒なら、入学初日に相澤から指導されてるというのに・・・。
もう一つ、ボールを男に押し当てた。


「なによりさ―――」


げんなりと「まだあんのか・・・?」と口答えする男を見下ろしながら、手元のボールを、3つ目のターゲットに押し当てた。
『通過者、2人目です』というアナウンスを聞きながら、強子が言葉をこぼす。


「雄英生を なめすぎだ」


―――お前なら“フェアプレー”で戦ってくれるよな・・・!?

男に言われた言葉を思い返し、強子は内心で舌打ちした。
先の言葉は、体育祭トーナメントでの芦戸戦を観たから出るものだ。この男は、芦戸戦で強子が見せた“フェアプレー”を知っていて、強子が手を抜くように頼んできたのだろう。
まったく、なめられたものだ―――これは、さっきの牛男にも言えることだけど、


「“体育祭”って、いったい、いつの話をしてるんだか・・・」


そんな古い、過去の話を持ち出されても 困る。
強子たち雄英生は、体育祭を終えてから・・・職場体験や期末試験やらを経て、林間合宿からも 圧縮訓練を積んできた。
いくつも高い“壁”を置かれては、乗り越えるか、ぶち壊すかで、突破してきた。
今の強子は、もう、あの頃とは違う。フェアプレーなんかに拘らないし、勝つためなら、相手の弱点さえも容赦なく利用する。
体育祭の頃と比較して 同じレベルでとどまっている奴なんて・・・雄英には一人もいないぞ。
根拠を持って言うよ―――天下の雄英生が、他校生にそう簡単に負けるわけがないのだと。
他校の連中とは、鍛え方が違う。成長速度が違うんだ。他校生の成長の歩みなんて、雄英生からしてみれば・・・強子が超反射(リフレクスビヨンド)で見ている世界並みに、遅いんだよ。
雄英生――それも 特例入学者である身能強子が、他校の愚鈍な奴らに負けるかってんだ!







『通過者は、控室へ移動してください』


ターゲットマークから流れる音声案内に従い、強子が控室へと向かっていると―――『脱落者 120名!!一人で120人脱落させて通過した!!』と、驚いた様子のアナウンスがあり、強子は首を傾げた。
そんな大勢を一斉に脱落させるなんて芸当、夜嵐くらいしか出来ないだろうと思っていたが・・・夜嵐は、すでに1位で通過したのではなかったか?


「(・・・あ、相澤先生だ)」


控室に入る直前、フィールドを囲むように設置された観覧席に、相澤とMs.ジョークの姿を見つけて強子は足をとめる。
「おーい!」と大きく手を振れば、二人が強子に気づいたので、強子は二人に笑顔を向け、ブイっとピースサインを掲げた。


「(どーだ!蹴落とされずにここまで来てやったぞ!)」


強子の得意げな顔を見て、ブハッと吹き出したMs.ジョークは、強子にブンブンと手を振って応えてくれた。いい人だ。
一方、担任の相澤はというと、顔をしかめて、シッシと 犬でも追い払うような仕草で返してきた。
なんとも、つれない態度である・・・本当は強子のことが心配でたまらなかったくせに。
そうして二人に見送られながら、強子は控室へと足を踏み入れた。


「早かったね!さすがは優秀な雄英生だ」


強子を出迎えたその人物が爽やかな笑顔なのに対し、強子は苦々しく顔をしかめている。


「・・・やっぱり、瞬だったか」


控室でただ一人待機していたその人物は、強子の知人――移道であった。
彼の個性なら、確かに、強子より早く通過していてもおかしくはないが・・・納得がいかず、強子は頬を膨らませる。
彼は中学のときから優秀だったけど、勉強も運動も 個性伸ばしの授業でも、何をやっても1番優秀だったのは 強子。
彼に“負けた”ことなど無かったのに・・・まさか今になって、こんなところで彼に出し抜かれるとは。
予想外の伏兵に1位を奪われ、強子は悔しげな表情で、地団駄でも踏みそうな様子である。
そんな彼女に気付き、移道は困ったような笑みを見せた。


「そんなに悔しがることないだろ?2位でも十分すごいじゃないか。一次選考“通過”には変わりないんだし・・・」


慰めの言葉なんか要るものか。なんと言われようと、1位と2位じゃ エライ違いだ!強子は移道に負けて2位、その結果がすべて―――だが これでは、1位をとって受験者全員を見返してやろうという、強子の野望は叶わない。
その失意に涙をのんでいると、控室のドアが開き、うるさい声が響きわたった。


「ここが控室っスか!それでっ、俺より早く通過したっていう人たちは・・・!?」


控室に入ってきた夜嵐が、移道と強子の二人を目にとめ、ぱっと顔を輝かせた。


「瞬!!やっぱり!瞬ならもう通過してると思ってたぞ!!」


控室が、一気にやかましくなった。
強子は思わず一歩さがり、彼らから距離をとる。
声がバカでかくて煩いというのを抜きにしても・・・雄英を蹴って他校に行った夜嵐には、勝手ながら、苦手意識のようなものを感じていた。
それに、夜嵐が目の敵にしている轟は、強子にとっては 大親友。大切な友人を良く思っていない夜嵐と、あまり 仲良くしようという気にはなれない。
しかし、そんな強子の心情など知る由もなく、夜嵐は強子に人懐っこい笑顔を向けた。


「どもっス!!俺は夜嵐イナサ!身能さんのことは瞬から話を聞いてたし、体育祭のときも神野事件のときも・・・スゲェ熱い人だなと思ってて!俺、熱い人が好きなんで、仲良くしてくれると嬉しいっス!!」

「!」


制帽を外し、地面に頭を叩きつける勢いでお辞儀した夜嵐に、強子はハッと目を見開く。
移道が「イナサとはクラスが一緒で、仲良いんだ」と説明するのを聞きながら、強子は 自身の考えを改めた。


「(なんだよ・・・めっちゃ話のわかる奴じゃん、夜嵐イナサ!!)」







その後、他の受験者たちも続々と控室にやってくる中で、強子と夜嵐、そして移道も含んだ三人の会話は、弾みに弾んだ。
強子のその盛り上がりようときたら、ほんの数秒前まで、“仲良くしようという気になれない”などと言っていた人間とは思えぬほど。
話してみると存外、夜嵐は気のイイ奴であった。それに何より、強子の良さも雄英の良さも、彼はよく心得ているので 話が合う。


「―――だからね?私を甘く見てる人たちをギャフンと言わせるには、一次選考で1位をとるくらいしなきゃダメだったんだよっ!」

「さすが身能さん!負けず嫌いで激アツな考え方っス!!」

「うーん・・・そんな1位にこだわらなくても、1年生の俺たちが、上級生を差し置いて 早々に通過したってだけでも凄いことだと思うけど」

「・・・瞬は自分が1位だから、そんなことが言えるんだよ」

「俺も、順位はあんまり気にしてないっスよ!?」

「そりゃね、夜嵐くんみたいに120人一斉脱落なんつう快挙を成してたら、順位は気にならないでしょうけども!」


なんだか、士傑のこの二人と話していると・・・だんだん自分が凡庸な人間に思えてくる。
強子はどんなに頑張っても 所詮、1位には届かない人間だ。多数を一斉に脱落させるような技量もないし。


「だけど、身能さんの2位通過も、マジで凄いっスよ!!だって、『瞬間移動』する瞬と、そう変わらないタイミングで通過してたじゃないっスか!」

「・・・まあ、そう、かもしれないけど・・・」


士傑高校の、移道 瞬――彼の個性は『瞬間移動』だ。
この超人社会でも希少な、テレポーター。生まれながらの勝ち組である。
チート個性を持って生まれた彼が、めちゃくちゃ羨ましい。その個性があれば、こんな仮免試験、1位通過は楽勝だろうよ。


「(くそー・・・世の中、不公平だっ)」


移道がいなければ、1位の座は強子のものだったのに!恨みがましく移道を睨みつけるも、強子を見る彼の顔には 余裕ぶった勝者の笑みが浮かんでいる。
悔しいけど・・・人は 生まれながらにして平等じゃないのだ。どこかの誰かも そんなことを言っていた。
それにしても―――腑に落ちない点がある。


「(なんか、原作と話が違わないか・・・?)」


本来、原作では夜嵐が1位だったはず。
そもそも、原作に登場してきた仮免試験の受験者の中に、移道はいたんだろうか?少なくとも強子の記憶では、彼が原作に登場した覚えはない。


「うーん・・・?」


強子が頭を悩ませていると、その場がピリピリとした 不穏な雰囲気に変わったことに気づく。
ふと夜嵐を見ると、今までの快活な雰囲気からガラッと一変し、冷ややかな表情で、ある一点を見つめていた。
急にどうしたのかと強子もそちらを見ると、


「あっ、轟くん」


一次を通過して控室にやってきた轟に気づき、夜嵐の態度の変わりようをすぐに理解した。
夜嵐が嫌っているエンデヴァーの息子。そして、雄英の推薦入試で、エンデヴァーと同じように 夜嵐を冷たくあしらった男だ―――轟に対して、夜嵐がいい顔をしないのも、仕方のないことかもしれない。


「えっと・・・一次選考通過 おめでとう、轟くん」

「・・・ああ。身能もな」


緊張感ただよう空気の中、強子が気づかわしく声をかけると、返ってきた轟の声音は優しいもので、強子はホッと肩の力をぬく。
・・・だが、その優しい声とは裏腹に、轟の目はとげとげしく、鋭い眼光で移道を射抜いていた。


「(ん!?どうして 瞬を睨んでるんだ?)」


ガン飛ばす相手が夜嵐ならまだしも(夜嵐のほうは轟にガン飛ばしているし)・・・なぜか、彼が睨む相手は移道である。夜嵐なんか眼中にないという感じだ。
なんだろう・・・移道に恨みでもあるのだろうか?それか、実は轟も1位通過を狙ってて 1位の座が妬ましいとか?
そして、移道本人はというと・・・轟の様子を気にとめるでもなく、強子を見てニコニコと楽しげに微笑んでいる。


「(・・・なんだ、この状況?」」


困惑した強子が、視線を夜嵐に向けてみれば―――強子が夜嵐を見て、夜嵐が轟を見て、轟は移道を見て、移道は強子を見て、強子は夜嵐を・・・という、奇跡のループが出来上がった。
わぁすごい、近年稀に見る四角関係だ!こんな、ギスギスと険悪で複雑な四角関係は、なかなかお目にかかれたもんじゃない。
昼ドラでも見ないような今の状況に強子が当惑していると、


「強子さんっ!よかった・・・通過されていたんですね!」


控室にやって来た八百万が、強子との再会に喜びの涙を浮かべている。彼女の後ろには、耳郎や蛙吹、障子といった見慣れた顔ぶれもあった。
それを機に、緊張感のある睨み合いを抜け出すことができ、強子は彼女たちに心から感謝した。


「強子も轟も、単独行動で よく無事だったね・・・」

「A組の通過者はこれだけか・・・?」


耳郎は感心したように呟き、障子は驚いたようにあたりを見回す。
通過者の枠が残り30名をきったというのに、他のクラスメイトたちはまだ来ていない。
なんでも、試験開始早々に真堂の個性によって分断されて、敵も味方も入り乱れてのバトルが 熾烈を極めているらしい。
そんな中で、八百万たち4人は、印照才子が率いる 聖愛女学院の生徒たちを負かして、一次を通過したのだそうだ。
なんだ、アイツは強子が負かしてやろうと思ってたが・・・やるじゃないか、百ちゃん!!
一次選考がいかに大変だったか、強子たちが苦労話に花を咲かせていると、


「皆さん、よくご無事で!」


上鳴や緑谷たち、クラスメイトらが数人まとめて控室にやってきた。
そうして強子たちのもとに雄英生たちが集ってくる一方で、士傑の生徒たちも 控室の入り口付近に集まっていた。それに気がつき、移道が口を開く。


「さてと・・・士傑(うち)はあっちに集まってるみたいだから、俺らも行こうか イナサ」

「おう!!それじゃ身能さん、話せて楽しかったっス!また、熱く語り合いましょー!!」


去っていく二人にひらひらと手を振っていれば、強子の背中にドンと衝撃が走り、思わず「アイタッ!?」と声が漏れた。


「・・・テメーも通過してたんかよ、色ボケ女」


背中にぶつかってきた爆豪は、ケッと悪態をつきながら、強子の横を通り過ぎていく。
背中の残る痛みを感じながら、強子は眉間にしわを寄せ、爆豪をギッと睨みつけた。


「誰が、色ボケ女だっ!なんなの!?いつまでそのネタ引きずってんの!?“元カレ”とか、過去の話じゃん!私のほうが一次通過するの早かったからって、ひがんでるんじゃないのォ!?」


爆豪の腹立たしい態度に憤慨していると、強子の頭の上に、ぽん と手が乗せられる。


「爆豪の言葉なら、気にすんな・・・お前にとっては“過去”の話なんだろ?」


そう言った轟はいつも通りのクールな表情。けれど、どこか不機嫌なオーラを纏っているような・・・?
怖いもの見たさで轟の視線を追ってみると、視線の先には、強子の“元カレ”である 移道がいた。


「・・・“過去”、なんだよな?」

「あ、はい」


無表情のまま念押しする轟に気圧され、思わず敬語で返してしまった。
すると、轟からは不機嫌さが消えて、「そうか」という言葉とともに、彼の表情がふっとやわらぐ。


「なら、気にすることねぇよ・・・少なくとも俺は、“今”の身能が 好きだしな」

「・・・っ!」


ひゅっと息をのむ。
いつものことだけど・・・轟の友情表現って、ちょっと 世間とズレている。異性に軽々しく“好き”とか言っちゃうのが何よりの証拠だ。まったく、心臓に悪い・・・。
轟のその天然っぷりを知っているA組の面々は、微妙な表情のまま聞き流したが―――他校の皆さんの反応は、違う。
完全に、轟と強子を恋仲だと勘違いしただろう。
さっきまで轟にチラチラと視線を送っていた他校の女子たちが、一斉に強子を睨みつけてきた。
この後に行われる救助演習・・・彼女たちと、うまく協力できるだろうか・・・。
なんてことをやってる間に、一次試験は佳境をむかえ―――


「・・・っしゃああああ!!!」

「スゲェ!!こんなんスゲェよ!」

「雄英全員、一次通っちゃったあ!!」


定員に至るまで残りわずかという終盤、A組のみんなが一丸となり、条件を達成させたのだ。
控室のモニターを通して見守っていたA組の面々は、思わず興奮したように声をあげた。


「私はわかってたけどね、A組全員 通過するって」

「なんで身能が偉そうなんだよ」


ふふん、と得意げに言う強子に、瀬呂が呆れたような視線を向けた。


『―――えー、100人の皆さん・・・これ ご覧ください』


全員が控室に揃ってしばらくすると、先ほどまで戦闘を繰り広げていたフィールドがモニターに映し出された。
直後、あちこちが爆発し、フィールドが見るも無惨に破壊されて、受験者たちは言葉を失う。


『次の試験でラストになります!皆さんにはこれから、この被災現場で、バイスタンダーとして救助演習をやってもらいます』


最終試験では、仮免許を取得した者として 適切な救助を行えるかが試される。
要救助者のプロ―――HUC(Help Us Company)の人たちが傷病者に扮してフィールドにスタンバイする間、受験者たちにいっときの休息が与えられた。







「なあ身能、聞いてくれよォ!」

「うん?」


強子に話しかけてきたのは、峰田だった。
峰田は眉をつり上げ、憤慨した様子で緑谷を指さした。


「緑谷のやつ!試験中だってのに、士傑のボディスーツの女と素っ裸で“お楽しみ”してたんだとよ!ありえねーだろ!?身能からもガツンと言ってやれ!!」


峰田が言っているのは 現見ケミィのことだ。彼女の方を見てみると、ちょうど彼女は 緑谷に向けてにこやかに手を振っているところだった。
それに対し、緑谷は戸惑った様子で、どう返せばいいのかと躊躇っている。


「・・・良い仲に進展した後 男女がコッソリかわす挨拶のヤツをやってんじゃねーか!」

「見損なったぜ ナンパテンパヤロー!」


峰田と上鳴が緑谷に睨みをきかせるのを 面白そうに眺めていた強子は、


「あれ?・・・心なしか、デクくんの肌がツヤツヤしてるような・・・?」

「「緑谷ァ!!」」


意味深なことを言って煽ってみれば、案の定・・・彼らは緑谷に掴みかかって怒り狂った。
ぎょっと目を見開いた緑谷は、誤解されている現状を理解し、慌てて口を開いた。


「なッ!?ちょっ、違うよ!そういうんじゃなくて!!アレは、あの人の個性の関係でっ!もう、身能さんも、かき回すようなこと言うのやめて・・・!」


誤解を解こうと必死に弁明する緑谷を見て、強子は肩を揺らして笑った。
まったく、イジりがいがあるなぁ緑谷は。そう必死にならんでも、あの緑谷が試験中に色ボケするはずがないって、A組は皆わかってるだろうに。

そんな、まるで普段と変わらない、いつも通りの何げない会話―――の、ように見せてはいるが・・・強子の心の内は、息が詰まるような思いだった。
だって、現見ケミィの正体は・・・ヴィラン連合の一人、トガ ヒミコなのだから。


「(ここでは、目立つような行動しないはずだけど・・・)」


現見の姿に扮して 士傑の集団に紛れている手前、さすがに怪しまれるような行動はできないはず。
それでもトガがここに来たのは、気になってる人物――緑谷出久の様子見 といったところか・・・?
この状況で彼女が何かを仕掛けるわけないのだが、そうとわかっていても、すぐ近くにヴィランがいると思うと・・・心穏やかではいられない。


「強子ちゃん、」


考えにふけっていると名を呼ばれ、顔をあげた強子は ハッと息をのんだ。
強子の目の前に現見(の姿をしたトガ)がおり、彼女の鋭い眼光が 強子の目をまっすぐに射抜いている。


「(いつの間に・・・!?)」


近頃 感覚強化の特訓ばかりだった影響で、周囲の物音には敏感になっていた。近くに人の気配があれば察知できるようになっていた。
けれど・・・彼女の接近には、まったく気付けなかった。
度肝を抜かれた強子が 蛇に睨まれた蛙のごとく固まっていると、現見(トガ)はうっとりと妖しげな笑みを浮かべ、


「ふふっ、会いたかったぁ」


その一言を耳にする同時、強子の唇に、柔らかな感触が襲う。


「(・・・んえっ!!?)」


強子の目の前に、どアップの現見(トガ)の顔。
もしかして、もしかしなくても・・・キス、されている!!?
あまりに突拍子もなく、大胆かつ信じがたい彼女の行動に、おそらく控室にいるすべての人間が、目を疑った。
なかでも1−Aの20人にいたっては、天変地異にあったような表情で、「はぁあ!?」と驚きの声を全員が揃えていた。
そんな観衆を気にもとめず、彼女のプルッとした唇が、無理やり強子の唇をこじ開け―――


「っ、に、してんだゴラぁ!」


脊髄反射で彼女に右腕を振り上げるが、自慢の拳がするりとかわされ、強子の腕はむなしく空を切った。
拳が届かないよう距離をとった現見(トガ)を睨みつつ、強子は混乱する頭で考える。


「(マジかよこいつ!なんてことしてんだ!?)」


いや 待って、本当に、何してんの!!?
目立つようなことは、怪しまれるようなことは、しないんじゃないのか!?
まわりの目も憚らず、初対面の相手にキスぶちかますって、どゆこと!?それも、他人になりすました状況下なのに!しかも同性どうしって!
現見(本人)の気持ちも考えてやれよ!
なにより、今、控室にいる全員に奇異の目で見られている強子の気持ちも考えてくれ!!


「いきなり殴るなんて、ひどいなぁ」

「初対面でいきなりキスするそっちこそ、非常識でしょ!」


彼女はぺろりと唇を舐め、悪びれる様子もなく笑顔を見せた。


「強子ちゃんがかわいいから、つい ね」


現見(トガ)の言い分に、強子の顔がひくりと引きつった。


「“かわいい”なんて理由で奪えるほど、私の唇は 安くないんだけどっ!?」


その言い分がまかり通るなら 強子はこの場にいる99人から唇を奪われる羽目になってるだろうよ。
腸が煮えくりかえる思いで、彼女に向けて一歩踏み出そうとすると、


「あなたっ!何をなさっているのですか!!」


強子の前に八百万が立ちふさがり、目をつり上げて現見(トガ)を睨んだ。同時に、


「何してるんですか ケミィさん・・・ちょっと、こっちに来てください」


移道が彼女の前に立ち、低い声で彼女を諌めていた。
二人の勇ましい姿に胸を打たれていると、移道に続いて、士傑の人たちが慌てて現見(トガ)を引き戻しにやって来た。
士傑生が申し訳なさそうに強子に謝罪する中、彼女はノンキなもんで、


「じゃアまたね、強子ちゃーん」


“また”があってたまるか!
手を振りながら士傑生に引きずられていく彼女を、強子はしかめ面で見送った。


「身能、」


真剣な様子で強子に声をかけたのは、上鳴だ。


「俺・・・入学当初からのお前に対する認識を、改めるよ」


彼はいつになく真面目な表情だが、いったい何を言い出す気だろうか。


「お前を“男たらし”だと思ってたけど・・・そうじゃない。お前は、“人たらし”だ!!」


身能が誑すのは男だけじゃないからな――と、キリッとした表情で告げた上鳴。
コイツは本当にろくなことを言わないな――と、入学当初からの上鳴に対する強子の認識が、改まることはなかった。










==========

ひたすら士傑生に振り回される 仮免試験編。

トガちゃんの行動をここまでフリーダムにしていいものか悩みましたが、彼女は刹那的に生きてそうなので、きっと衝動的に動いちゃうこともあるでしょう。
あのままトガちゃんに抵抗してなかったら、夢主の舌を噛んで、血を啜るくらいのことはやってたんじゃないかな・・・?

そして、夢主の必殺技の初お披露目!
かっこよく書いてあげたいのですが・・・必殺技名からすでにダサい(笑)原作みたいにかっこいいネーミングにできずゴメンね、夢主よ。




[ 62/100 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -