全員そろって、喧騒ロード

「A組のバスはこっちだ!席順に並びたまえ!」


林間合宿、初日の朝。
A組委員長――飯田天哉の いつも以上に張りきる声が雄英高校のバス乗り場に響きわたる。
強子にもその声が聞こえてはいるものの、彼女はまだ、A組のバスから少し離れた B組のバス付近にいた。


「・・・えぇ?なになに、A組 補習いるの?」

「(あ、やべっ・・・)」


強子は自分の失言に気づき、頬を引きつらせた。


「つまりA組に赤点とった人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!!?」


わっ と勢いづいて嬉しそうに畳み掛けてくるのは、B組の物間寧人である。
朝の集合時間中、彼と世間話をしていたのだが・・・A組に補習者がいると強子が口を滑らせたら、この通り、水を得た魚だ。


「ええ!?あり得ないでしょ?身能さんが在籍するA組は、B組よりもずっと優秀なハズだろう!?あれれれれえ!?」


しかし、それもすぐに静かになる。
B組のクラス委員長 拳藤が、物間に手刀を叩き込んだのだ。


「・・・ごめんね、身能さん」


笑顔を引きつらせている拳藤は、地面に崩れ落ちた物間をずるずると引っ張り 強子の前から撤去させた。


「物間、怖っ」

「キミも、無理して物間に付き合わなくていいよー」

「ん」


拳藤に続いて強子へと声をかけたのは、柳レイ子に、取蔭切奈、そして小大唯―――B組の女子たち。
ご存知のとおり、林間合宿はヒーロー科であるA組とB組で合同なのだ。
クラスが違うと 普段はなかなか話す機会がないのだが、この合宿中はB組と交流する機会も多いことだろう。


「A組とは、体育祭じゃ なんやかんやあったけど、まァよろしくね!」

「私、前から身能さんと話してみたかったんだよ!」


友好的に声をかけてくれるB組女子の面々に、強子はぱぁっと笑顔になる。
初期は塩対応だったA組と比べて、なんと温かい歓迎ムードだろうか。彼女たちとは 仲良くなれる気しかしないぜ!


「うん、うん・・・!AB合同だもんね!こちらこそ よろしく!一緒に合宿できるの、すっごく楽しみーッ!」


B組に受け入れてもらえた嬉しさと、B組と過ごす合宿への期待から、思わず笑みがこぼれる。B組女子たちも、そんな強子につられるように笑顔を見せる。
場の雰囲気がほんわかと和んだところで、強子の背後から声がかかった。


「身能さんがそこまで言うなら仕方ないな!」


物間だ。もう復活したらしく、気どった笑みを携えて、偉そうに強子を見下ろしている。


「この僕が!特別に!身能さんのために時間を割こうじゃないか!!」

「え?」

「そうだな・・・夜 二人でこっそり宿を抜け出して、ロマンチックな満天の星のもとで 心行くまで語り合うなんてのはどうだい?」

「いや、やめとくよ」


うっとりと 浸るように語りはじめた物間の誘いを、即座に強子は断った。


「は!?なんで!!?女子はそういうの好きだろ!?」

「なんでと言われても・・・」


物間の勢いに、戸惑いがちに視線を泳がせる。
きっと彼も、高校生活で初めての合宿とあって、内心かなり浮かれてるんだろう。大胆にも強子をデート(?)に誘い、それも、B組女子全員の前で理想のデートプランを暴露しちゃうくらいだ。
物間よ・・・お前は、ハシャぎすぎた。


「物間、キモッ!うざっ!」

「何 そのピンポイントに狙ったシチュエーション、ウケる!」

「厚かましいでしょ・・・身能さんの彼氏でも何でもないんだから わきまえなってぇ」

「ん」


当然のようにB組女子たちから容赦ないイジりを受ける。顔を赤くした物間は、負けじと声を張り上げた。


「う、うるさいなぁ!お前たちには関係ないだろ!?僕は、身能さんを誘ってるんだよ!」

「秒で断られてたけどね」

「ぐっ・・・!」


物間は知らないだろうが・・・強子は、この合宿がいかにスパルタなものか 知っている。夜の自由時間なんてクタクタに疲れていて、夜空を見に行くほどの余裕は無いはずだ。
ここで物間の誘いに頷いても、実現できない可能性が高い。
それに、もう一つ。
物間は知らないだろうが・・・彼の背後に立つ拳藤の、その表情が、不機嫌そうに歪んで怖いことになっている。
おそらく拳藤は物間に対して想いを寄せているのだろうし、彼女の目の前で物間の誘いに乗るなんて、そんな可哀そうなこと 強子にはできない。
そんなわけで、強子は物間の誘いを断ったわけだが・・・


「彼氏じゃないから何だっていうのさ・・・!現に身能さんは、轟と いつもベタベタしてるじゃないか!あいつは君の彼氏じゃないんだろ!?」

「え!私、ベタベタしてる・・・!?」

「ああ、目に余るくらいしてるね!彼氏じゃない男とベタベタできるんだから、僕とだって―――」

「コラ物間!やめなって!!しつこい男は嫌われるよ」


再び、拳藤の手刀に 物間が沈んだ。
そして、拳藤は強子に向けて、取り繕うような笑みを浮かべた。


「ごめんね、身能さん・・・こいつの言うことは忘れていいから」

「(・・・嫉妬、かな?)」


強子も取り繕うように笑みを浮かべていると、A組のバスの方から飯田が足早にやってきて、早急に乗車するようにと叱られてしまった。







「・・・出たよ、このパターン」


バスに乗車した強子は半目になって、げんなりと呟いた。
車内は左右に二席ずつに分かれている四列シートの 典型的な観光バスの造りだ。その四列シートを、縦に五列分を埋めるよう 20人のクラスメイトたちが着席している。
しかし、このクラスの人数は21人だ。


「私の席が、ない・・・!」


絶望したような声で呟いた強子に気づき、上鳴が口を開いた。


「席ならまだ空いてんだろ?ほら、一番後ろの列は誰も座ってねーよ」


彼の言う通り、一番後ろの列だけは誰も座っておらず、空いていた。


「・・・そういや、後ろの席ってヤンキー席って言わなかった?身能にぴったりの席で良かったな!」


ヘラりと笑いながら言った上鳴を睨んで黙らせる。誰がヤンキーだ。
強子はもう一度バス車内を見回してから、しゅんと 眉を八の字に下げた。


「席が空いてても、一人で座るんじゃ意味がないんだよ・・・ぼっち席は、普段の教室の席順だけで十分なの。はみ出しもの扱いは、演習訓練のくじ引きだけで十分なの・・・!」


弱々しい声で、うらめしげに声をもらす。


「私はっ、このバス移動中に・・・隣の席の子とワイワイしたいの!バスの中でも青春がしたいのぉ!!バスの中の思い出だって、合宿の思い出の1ページにかわりないでしょ!?」


ようするに、合宿の旅路で 隣の席になった相手と、お菓子をつまみながら談笑したり、ちょっとしたゲームをして遊んだり・・・そうやってクラスメイトとの絆を深めたいのである。


「なのに!みんな仲良くそろって 私抜きで早々に着席しちゃって、ひどいじゃない!誰か一人くらい、“一緒に座ろう?”って、私に声かけてくれてもいいじゃん・・・友だちでしょう!?」


中学の時は 皆がこぞって強子の隣の席に座りたがったというのに・・・雄英に入ってからの落差がだいぶ激しい。
強子は不満をぶつけるように、普段から一緒にいることが多い 八百万と耳郎の方へ、責めるような視線をやった。


「・・・強子さんは、B組の方々や拳藤さんとお取り込み中のようでしたので、先に乗車させていただきましたわ」

「・・・」


どうにも拳藤に関わると、ヤキモチなのか、彼女は強子に対して厳しくなる気がする。彼女のその、拳藤に対するライバル意識は何なんだ・・・。


「ってか、バスに乗るのが遅いアンタが悪い」

「・・・」


耳郎には正論を返され、ぐうの音も出せずにいると、芦戸が明るい口調で話しかけてきた。


「強子、私と一緒に座ろー!私の隣、あいてるよ!」

「・・・嘘つき!騙されないんだからね!」


芦戸の隣の席は、パッと見 誰も座っていないように見えるが・・・そこには、透明な葉隠が座っているはずだ。


「ははっ、バレたかぁ」

「強子ちゃん、私の膝の上に座るんでもいいよー?」

「ぐぬぬ・・・」


強子をからかい始めたクラスメイトたちに唇を噛んでいると、


「遊んでないで さっさと座れ。もう出発の時間だぞ」


最前列を見ると、相澤が一人で座っていた。
隣に誰もいないのは、教師用の席だからとみんな遠慮したのか、あるいは 誰も相澤の隣に座りたくなかったのか・・・。
相澤に睨まれた強子は肩を落として、ため息まじりに呟いた。


「しょうがない、相澤先生の隣で手を打つか・・・」

「パス」

「え!?」

「俺は寝る・・・やかましいのは御免だ」


にべもなく強子との相席を拒否すると、早速まぶたを伏せた相澤。
クラスメイトのみならず 担任まで・・・!あまりの酷い仕打ちに、強子は頬を膨らませ、目をつり上げる。
このバスに、強子の味方は誰ひとりいないのではないか?これなら、B組のバスに乗った方がよほど楽しい旅路になったに違いない。


「身能くん、早く着席するんだ!一人では寂しいと言うのなら、ここの補助座席を使うと良い!」


飯田は強子を急かしながらも、彼がいる列の四席の真ん中―――折り畳み式の補助席を出して、ビシッと指さした。
確かにそこなら、強子の隣に人がいるという条件は満たせる。
けれど・・・強子は拗ねたように唇を尖らせ、ぷいっとそっぽを向いた。


「嫌だよ、補助席なんて。私だって れっきとしたA組の生徒なのに、そんな“おまけ”みたいな扱いされたくないね」


補助だとか補欠だとか、付属品のような扱いはもう こりごりだ―――強子は、いささか “補” がつくワードに神経質になっている節があった。
強子のワガママに、何人かが面倒くさそうにため息をもらすが、強子も もはや意地になって座ろうとしない。
このまま解決策もなく、平行線をたどるのではないかと思われたそのとき、


「・・・なら、俺の席に座るか?」


轟が立ち上がった。
彼は飯田が用意した補助席の 右隣の席に座っていたのだが、席を立って補助席へ座りなおすと、今まで自分が座っていた座席を指さした。


「補助席は俺が使うから、身能がこっちに座ればいい」

「轟くん・・・!」


轟の神対応に感謝しながら、嬉々として強子は轟のもとに駆け寄る。この頃は 轟に世話をやかれることが日常茶飯事になっていた強子は、彼の優しさに遠慮なく甘えることにした。
強子が轟の隣の席へと腰を下ろすと、その列の並びは、窓側から 飯田、緑谷、轟、強子、青山という五人になった。
こうしてクラス全員が着席すると、ようやくバスが出発する。
それにしても―――


「轟、補助イス似合わないねー!」

「確かに!」


補助席に座る轟を見て、芦戸があっけらかんと笑い、それに葉隠も同調する。


「・・・補助イスに似合う似合わないなんてあんのか?」


補助席のイスは小さく、背もたれは低い。つまり全面的に背を預けられない。
狭そうにちょこんと座っている轟が、わずかに首をかしげた。
轟の左隣に座っていた緑谷は、そんな轟の様子を見ていて申し訳ないような気持ちになり、堪えきれず立ち上がった。


「と、轟くんっ、やっぱり僕が代わるよ!僕のほうが小さいし!」

「いや、ここは委員長として俺が!」


飯田もすっくと立ち上がり、腕をぶんぶんと振り回した。


「いや!飯田くんだともっと申し訳なくなるよ!」

「いいや!こういう時こそ委員長として・・・」


お会計のときに「ここは私が」「いいえ私が」などと揉めているような光景に、元凶である強子は申し訳なくなって縮こまった。さすがに、自分勝手が過ぎただろうか・・・


「大丈夫だ」


轟の落ち着いた声に、緑谷も飯田も口を閉じる。


「身能の隣なら、どんな席だろうと気になんねえよ。イスなんて座れりゃなんでも同じだ」


男前な発言である。
まぁ、“友だち”の定義がちょっと怪しい轟のことだ。先のセリフも、いつもの“身能は友だち”という考えがベースにあってのことだろうが・・・そうとは知らないクラスメイトたちは、神妙な顔つきで押し黙ってしまった。緑谷と飯田も、無言のまま すっと腰を下ろす。


「(ああ、こういうことか・・・)」


物間の“ベタベタしてる”発言は こういうところが原因なのだろうと、納得したように強子は一つ頷いた。












「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」


バスが出発してから、一時間ほど経ったろうか。
パーキングも何もないところでバスが停車したかと思えば、今回の合宿で世話になるという プロヒーローたちを紹介される。
けれど・・・我々の宿泊施設は遠くに見える山のふもとだと言われ―――雄英のやり口を 身をもって知っているA組の面々は、嫌でもこの後の展開が読めてしまう。


「ダメだ・・・おい・・・」

「戻ろう!」

「バスに戻れ!早く!!」

「12時半までにたどり着けなかったキティは お昼抜きね」


突如、A組の面々が立っていた地面が盛り上がり、土に流されるようにして、バスの停めてあった高台から 崖下へと放り出された。
各々が悲鳴をあげて落ちていく中、上方から相澤の声が届く。


「わるいね 諸君―――合宿はもう、始まってる」


ああ・・・バスでの楽しくて快適な旅路は、あっという間に終わってしまった。
あきらめたように苦笑をもらすと、強子は気持ちを切り替えて、落下地点の方へ視線をやった。
一見、土砂で力まかせに放り出されたように思えるが・・・生徒が落下する直前に 土砂をクッション代わりにして、生徒らが怪我しないように気遣われているようだ。さすがプロ、いい仕事しやがる。
―――なにも、強子たちは殺されるわけじゃない。
これは合宿だ。強子たちを鍛えるためのカリキュラムなのだ。


「私有地につき、個性の使用は自由だよ!」


土砂に飲み込まれながらも 強子は落ち着いた様子で個性を発動させると、しゅたっと崖下に足をつけた。


「今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この―― “魔獣の森”を抜けて!!」


そのドラクエめいた名称は、決して名ばかりではなく・・・


「「「まっ、マジュウだーッ!!?」」」


鬱蒼とした森の中から、四つ足の巨大な生き物が姿を現した。
鋭いキバと爪、人ひとりは丸飲みできそうな大きな口。猛々しい四肢が動く度、ずしんずしんと地響きがする。


『静まりなさい 獣よ!下がるのです!』


動物を従える個性の口田が 慌ててクラスメイトの前に出て、声に個性を乗せた。
しかし―――口田の個性が、通じない。魔獣は前足を高く上げ、口田に向けて振り下ろそうとする。


「(・・・やっぱり、あの魔獣は“土くれ”で出来てる!)」


口田の個性が効かないのは、そういうわけだ。
それを確認した強子は 地面を強く蹴ると、土魔獣へといっきに距離をつめる。

そのとき―――同時に動きを見せた者が 四人いた。
一人は、氷結を地面に這わせ、魔獣の両足を封じる。
一人は、レシプロバーストによって加速した脚で、魔獣の片腕を吹き飛ばす。
一人は、もう一方の腕を、爆破して木っ端みじんに消し飛ばす。
そして残る一人は・・・強子と同じタイミングで 二人一緒に、土魔獣の頭から胴体にかけて 強烈なパンチを打ち込んだ。


「・・・ふう」


凄まじいパワーで粉々に全身を砕かれ、生き物の形を失った ただの“土くれ”を見下ろすと、満足そうに強子は額をぬぐった。


「今の ナイスコンビネーションだったね、デクくん!」


グッと親指をたて、笑顔で緑谷へと向きなおる。
まるで事前に打ち合わせしていたかのような、かいしんの連携プレーであった。まさに阿吽の呼吸。


「お互いパワー増強型だし、戦闘スタイルも元々似ていたし・・・私たち、相性が良いのかもしれないね!」

「あぅっ、いや、えと、うん・・・そ、そうだね!」


強子が満面な笑みで友好的に接しているのに対し、彼は赤い顔して 挙動不審にどもりながら、強子から視線をそらした。
照れてるのか?・・・いや、どうにも、ビビっている割合の方が大きい気がする。もう少し、気楽に接してくれていいんだけどなぁ。


「・・・ん?」


ふいに、強子が不思議そうな顔で、キョロキョロと辺りを見回した。


「身能さん、どうかしたの?」

「いや、なんか・・・」


誰かの視線を感じたような気がする。
でも、こんな早くからヴィランどもに見張られてるわけでもないだろうし・・・きっと、気のせいだろう。


「お前ら、あの魔獣を瞬殺かよ!」

「やったな!!」


おどろおどろしい土魔獣を討ち取って、ほっと安堵したクラスメイトらが声をあげるが―――


「いや、まだだ!!」


爆豪が声を張り上げ、再びA組に緊張が走る。彼の鋭い視線の先を追うと・・・また新たな土魔獣が現れたではないか。
今度は、竜のような翼をもつ魔獣で、翼を羽ばたかせると、強子たちの頭上をバサバサと飛び回る。
それだけではなく、他にも、あちらこちらから気配を感じる。


「・・・おいおい」

「いったい何匹いるんだよ!?」

「どうする・・・?逃げる!?」


しかし、昼までに施設に着かなければ、昼飯抜き。
魔獣から逃げまどっていては、時間を無駄にしてしまう。


「なら・・・ここを突破して、最短ルートで施設を目指すしかありませんわ!」


迷いない様子で告げられた八百万の提案に、クラスの意思がひとつに固まった。それを感じとり、飯田が代表して口を開く。


「よしっ!行くぞ、A組!!」

「「「おー!!」」」


ここからは、A組全員での協力プレー。
21人が一致団結して戦うなんて初めてのことで、強子はワクワクと胸を弾ませる。


「ねぇねぇデクくん、どっちがより多く魔獣を倒せるか 勝負しない!?」

「・・・身能さん、バイタリティあるなぁ」


さらに、緑谷と競うことで、楽しみ要素を勝手に追加する。
呆れたような笑みを浮かべている緑谷に構わず、強子は舌なめずりしながら 辺りを見回した。

障子、耳郎が索敵に注力し、敵のいる方角を皆に教えている。
対敵するA組の面々は、近距離タイプと遠距離タイプ、それぞれがうまく連携しあって戦闘を繰り広げていた。
葉隠が魔獣を引き付けている間に、八百万が大砲をつくって砲撃したり。
峰田が魔獣の動きを止めて、上鳴が電撃を食らわせたり。
口田が森の鳥たちを操り魔獣を目眩ましする間に、芦戸が酸で魔獣を溶かしたり。
麗日の無重力、蛙吹のベロで巻き上げ・・・からの 落下攻撃なんかは、息ぴったりで素晴らしい連携だ。

強子も皆に負けじと、殴る 蹴るの原始的な方法で魔獣を倒していく―――のだが。


「全っ然、終わりが見えないんですけどぉ・・・!」


もう正午はとうに過ぎて、自分が倒した魔獣の数がわからなくなってきた頃・・・とうとう強子が根をあげた。


「うるせぇ!文句いってるヒマあんなら戦えや!!」


爆豪や轟といった まだ活発に動けている連中を、妬ましそうに見つめた強子。
まだまだ強子は、体力面で改善の余地ありだと、彼らに思い知らされる。


「・・・にしても、本当にキリがないよ」


強子は力なくヘロヘロと近くにあった切り株に歩み寄ると、そこに腰かけて、“考える人”のようなポーズで一息ついた。
「休んでんじゃねぇぞ サボり女!」と怒鳴られるのを聞き流しつつ、彼女は考える。


「・・・この土魔獣は、ピクシーボブの個性だよね?」


今まさに土魔獣をスマッシュしていた緑谷に問いかければ、彼は息を弾ませながら、強子の問いに頷いて答えた。


「うん、そのはずだよ!彼女の個性“土流”は土を自由に操れるんだ!操れる土の量や、個性の発動範囲なんかの情報は公開されてなかったけど・・・」


ふむ、と一つ頷いた。
公開されてないだけで、おそらく、彼女の個性が届く範囲が無制限ってわけではないはずだ。


「耳郎ちゃん、障子くん・・・集合!」

「「?」」


二人をちょいちょいと手招きすれば、疲れた様子の二人が不思議そうにしながらもやってきた。


「索敵組――私たちで ピクシーボブの居場所を突き止めよう!」

「は?」

「ここにいる土魔獣を操ってるからには、ピクシーボブはそう遠く離れてないはず。私たちを見張れるような高い所か、視界が開けた場所にいると思うんだ」

「・・・何か、策があるのか?」


障子の問いにニヤリと不敵に笑むと、強子は切り株から立ち上がった。


「襲ってくる魔獣をただ倒してるだけじゃ らちがあかない・・・こういうのは、元から叩かなきゃ!!」


さすがにプロヒーローとスタミナ勝負じゃ こちらに分が悪すぎる。こっちからも仕掛けないと、良いようにやられっぱなしだ―――けど、そんなの 癪だろ?
強子の身体強化と、耳郎のイヤホンジャック、そして障子の複製腕・・・三人が個性を駆使して、ピクシーボブの居場所を探る。


「・・・あっ、いたかも!この先の高い木の上!なんか楽しそうにニャーニャー言ってる人がいる!」

「それだ!」


索敵をはじめて早々に、耳郎がピクシーボブの居場所を割り出した。
まだまだ強子は、索敵精度でも改善の余地ありだと思い知らされるが・・・今は考えるのを一旦やめておく。


「そしたら・・・青山くん!」

「ウィ?」


青山の体を脇に抱えると、強子は手近な木をするすると登っていく。木の上の方にある枝に乗って、ピクシーボブのいる方角に向け 人差し指を伸ばした。


「よし、撃てぇっ!!」

「ん・・・?僕のレーザーをかい?」

「そう、今使わずに いつ使うのだ!・・・あ、できればピクシーボブの着けてる あのスカウターみたいなやつを狙ってほしいの」

「あのメガネみたいなもの?やれやれ・・・注文の多いお姫様だね☆」


彼も、森に入ってからずっとレーザーを連射しており、げっそりと顔がやつれているが・・・それでも いつものキャラを徹底する根性は、なかなか見どころがある。
彼は慎重に狙いを定めて、ネビルレーザーを、まっすぐピクシーボブめがけて発射した。


「やったか!?」


木の下で魔獣と戦っていたクラスメイトたちが一斉にざわつき始めた。
強子が木の上からそちらを見やると、魔獣たちの動きが停止しているではないか。


「おおっ!?」


思わず感動の声が漏れる。
これは、強子の作戦勝ちか!?ネビルレーザーでピクシーボブを行動不能にできたのだろうか!?
そうなれば魔獣の危険が去って、あとは ただの森のお散歩でしかない。
―――と、楽観した矢先に、再び魔獣たちが動き始めた。その上さらに、


「ヤバい・・・新しい敵、めっちゃ来てる!数がめっちゃ増えてる!!」


イヤホンジャックを地面に刺していた耳郎が、焦ったように声を張り上げた。


「しかも、今までよりも 魔獣の動きが獰猛になってるんだけど!アンタ これ、ただピクシーボブ怒らせただけじゃないの!?」

「あー・・・やっちゃった・・・?」


笑顔を引きつらせて固まっていると、


「いや・・・身能さんの作戦、使えるかもしれないよ!」


急に会話に入ってきたかと思えば、緑谷はなにやら考察しながら ぶつぶつと唱え始めた。


「やっぱり身能さんの推測は正しかった!ピクシーボブは僕らの動向を見ながら土魔獣を仕向けてるんだ。青山くんがレーザーを撃ったことでピクシーボブの気がそれたから、操作していた土魔獣の動きが一瞬止まった。その直後、動きが戻った土魔獣たちの攻撃が さっきより正確性に欠けているのは・・・ピクシーボブが木から落ちたせいか、もしくは、彼女の着けていたサポートアイテムが壊れたせいで、攻撃対象の僕らの位置を把握しづらくなったからだ!だとすれば・・・」


顔を俯けていた緑谷が、ぱっと顔をあげて笑みを見せる。


「口田くんの個性で 森の動物たちを操って、ピクシーボブを妨害するのはどうかな!?うまくいけばピクシーボブの監視をかいくぐって、魔獣と戦わずに施設まで行けるかも!!」

「「「それだ!!」」」


緑谷の名案に、A組一同が頷いて賛成した。
まだまだ強子は、策略面でも改善の余地ありだと彼に思い知らされ、歯噛みする。

結果―――この作戦は思いのほか上手くいき、残りの道のりは楽々と踏破することができた。

しかし、だ。
A組21人 全員が並んで戦うことで、自分よりも能力が優れている者たちとの差を思い知らされた。


「(今に見てろよ・・・!)」


自身の課題が明確になり、林間合宿へのやる気にブーストがかかった強子であった。










==========

夢主のワガママに磨きがかかってるのは、だいたい轟のせい。あと百ちゃんも共犯。最近は二人とも、めっぽう夢主に甘いです。

魔獣の森ではオリジナル気味に、遊んでしまいました。
夢主も相当に浮かれています。個性使用可だからって、ヒーローに向けてレーザーぶっぱしていいのか?ってツッコミは無しでお願いしますね。
たぶん私も、やっと合宿編に入って浮かれてたんだと思います。すみません。


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