友達づくり

個性把握テスト、全種目終了―――

1位、八百万 百。
2位、轟 焦凍。
3位、爆豪 勝己。
4位、身能 強子。
5位、飯田 天哉。
・・・以下略。

最下位の21位は、緑谷出久という結果になった。
そして、最下位が除籍という話は、合理的虚偽であったとして片付けられた。

相澤によって本日の解散を告げられると、強子はぐったりとうなだれる。
爆豪に「あんたを負かしてやる」などと啖呵をきっておきながら、結局、今回も彼を負かすことはできなかった。
ちらりと彼を盗み見ると、彼は思い詰めたような顔で緑谷を凝視していた。その表情には、畏怖の感情が交じっているようにも見える。
強子とて、緑谷に対して底知れぬ恐怖を覚えているし、彼ら幼馴染の関係性を知っている身としては、爆豪の心情を察してやれなくもないが・・・


「私の存在をこうまで気に留めてもらえないと、さすがに虚しいわ・・・」


強子はずっと爆豪を意識して張り合っていたのに、彼には全く意識されていないという事実にダメージを受ける。
弱々しい声で吐露すると、「あァ?」と凄まれてしまった。


「いや、自分で言うのもアレだけどさ、爆豪くんにケンカ売るようなこと言ったのにまた負けてるし・・・その、また見下すようなこと言われたり、罵られたりするかと思ってたけど・・・」


彼に対して偉そうなことを言ったし、怒られても仕方ないと思っていた。しかし彼の意識下にあるのは緑谷ばかりで、強子には見向きもしない。強子の言動などどうでもいいのだ。
そのことに、肩透かしをくらったような、物足りなさを感じてしまう。
ばつが悪そうにぶつくさと言っている強子を爆豪は暫し見つめ、やがて口を開いた。


「お前・・・俺に罵られたいんか」

「違う、そうじゃない」


急にボケてきた爆豪へ食い気味に、そんなわけあるかと即座に否定する。


「ならいいだろ、それで」


きょとん、と彼を見返した。
彼にしてはめずらしく、怒りだとか、蔑みだとか、そういった負の感情のない表情を見せている。いわゆる素の顔なのだが、普段が普段なだけに、穏やかな印象を抱いた。


「・・・別に、罵るような成績じゃなかっただろ」


ボソっと呟いた爆豪の言葉。
それを耳にした強子の胸が、かぁっと熱くなる。気持ちが高揚し、比例するように体温も上昇する。
それは、強子の健闘ぶりを評価しての言葉と受け取っていいのだろうか。強子の成績を、実力を、存在を認めたと捉えていいだろうか。


「お前が俺より“下”なのは間違いねぇが」


そう言ってにやりと笑みを浮かべる爆豪に、強子の気持ちは急降下したのだった。










初日を終えて下校する際に、強子は重大なことに気が付いた。
1−Aのクラスメイトは、誰もかれもが、何人かずつで連れたって帰っている。クラス内に自然とグループが出来上がっていて、彼らは和気あいあいと親睦を深めながら下校していく。
たとえば、飯田天哉に、麗日お茶子に、緑谷出久の三人とか。
そんな中で・・・強子は一人だ。誰にも声をかけられず、ぽつんと教室に突っ立っている。


「(私・・・友達がいないっ!!)」


その事実に、頭を殴られたような衝撃が強子を襲う。
確かに、入学初日を思い返すと、強子はほぼ爆豪としか喋ってない。彼とは『友達』と言えるような関係ではないだろうし、百歩ゆずって彼を友達だと認識したところで、彼はとっくに一人で下校していた。・・・やはり、友達なんて間柄じゃない。
あと強子が話した人物といえば飯田だが、彼とは話したというより、説教されたと言った方が正しい。
救いは、切島という存在。彼は友好的に強子に話しかけてくれた唯一の人物だ。けれど彼は、瀬呂や上鳴たち男子グループで盛り上がっていたため、話しかけづらい。
・・・その他に強子と会話したのは相澤だけ。もはやクラスメイトですらない。

こうなったら、明日こそ絶対に友達をつくろう!
1−Aのクラスメイト達と、絶対に仲良くなってやる!絶対にだ!!





そう強く決意して、みんなに話しかける流れを頭の中で何度もシミュレーションしてきた。だというのに―――


「なんでですかぁっ相澤先生ぇ!」


翌日の朝、HRを終えた直後の教室に、取り乱した強子の声が響いた。
教室を出ていこうとしていた相澤は、めんどくさそうに顔を歪めて強子を見やる。


「・・・なんの話だ」

「私の席のことですよ!」


悲痛な声で叫ぶと、強子は自分の座席を指さした。
教室には、縦に5人、横に4列、20人分の席がきれいに並んでいる。一番窓側の列、前から5番目の席は、出席番号20番の八百万の席なのだが―――その後ろに、おまけのように置かれている座席があった。教室後方のわずかなスペースに、所せましと配置された一人分の座席。そこが、強子の席であった。


「なんで、ぼっち席なんですか・・・!」


強子の視界前方にはクラスメイト20名が収まっている。強子はしんがりの席であり、クラスメイトの誰もが強子に背中を向けていて、強子の横ならびには誰もいない。
こんな席次では、強子の友達づくり作戦に支障が出るではないか!


「何でもなにも・・・出席番号21番だろ、お前」

「でも、こんな寂しい席は嫌です。席替えしませんか!?」

「却下だ。出席番号順に並んでる方が合理的だろう」

「くっ・・・それなら、窓側の列だけ、席の前後の幅を詰めませんか!?こうギュギュッと・・・」

「却下。狭くなる上、教室の景観も悪くなる。そもそも利点がない」


取り付く島もない、相澤である。


「でも、でもっ・・・こんなぼっち席じゃ・・・!」


新学年になって最初に話しかける定番のお相手、「隣の席の子」も存在しないのだ。
どうやったら、何をきっかけにしたら、クラスの皆と距離を縮められるだろうか。

ずっと、このクラスの皆と仲良くなることが夢だった。憧れていた。
男子も女子も、みんな個性あふれる魅力的な子たちだから。
彼らと距離を縮めて、一緒に笑って、時に泣いて、ともに成長していき、それぞれが理想とするヒーローになれたら、どんなに幸せだろうか。
せっかくこのヒロアカの世界に生まれたのだから、そう願うのは当然だろう。
でも・・・そんな夢は、叶わないかもしれない。


「ただでさえ、補欠入学だからか、皆に距離をおかれてるような気がするのに・・・」


絶望の表情を見せた強子に、相澤はため息とともに言葉を漏らす。


「・・・補欠だからっつーより、初っ端に爆豪との小競り合いで悪目立ちしたから、引かれてんだろ」

「なん・・・だと・・・!?」

「なんにせよ自分で蒔いた種だな。自分でどうにかしろ」


そう言い捨て、相澤は教室を出ていってしまった。
あまりに非情。冷たすぎる。受難の与え方に容赦がないよ。
強子は心の内で相澤を非難しながら、彼に縋るように伸ばしていた腕をそっと下ろし、静かに自席に腰を下ろした。





強子が行動を起こしたのは、1時間目の授業が終わったあとの休み時間だ。


「あの、八百万さんっ」


ドギマギしながら、一つ前の座席の彼女へと声をかけた。


「・・・なにかご用でしょうか?」


少しつんとした態度で彼女が振り返ったところで、強子は友好的な笑みを受けべてみせる。


「えっと、席が近いもの同士、仲良くしてもらえると嬉しいな!私、身能強子っていいます!これからよろしくね?」


強子の友好的な挨拶。
この可愛らしく、少し甘えたような、照れを含んだ笑顔。これを直視した相手は、必ず堕ちる。・・・こう見えて、強子のコミュ力の高さはカンストするレベルだと評されている。友達づくりには自信があるのだ。
―――しかし、それは強子のこれまでの経験上の話。


「・・・そうですわね。身能さんは“補欠入学”と先生もおっしゃっていましたし、」


うぐっ。
強子にとって禁忌となりつつあるワードを早速言われ、言葉につまる。


「授業や学校生活で困ったことがあればお声かけください。その時はお力添えいたしますわ」


作ったような、よそ行きの笑顔で言う八百万は体の向きを前方に向けてしまい、会話が終了してしまった。
彼女の言葉からすると、困ったことがあれば助けてくれるが、逆を言えば・・・困ったことがなければ話しかけるな、と。そう受けとれる。
なにより、補欠のレッテルのせいで八百万が強子を対等な存在と見ていないことに、素直に落ち込んだ。クラスメイトなのに・・・。

しかし、まだ一人目だ。こんな序盤で気を落としていてはいけない。
強子は気をとりなおして、右斜め前の席の人物へと声をかける。


「・・・と、轟くん、」


赤と白のアシンメトリーの髪を見ながら名を呼ぶと、彼は静かに振り向いてそのオッドアイで強子を見据えた。
くそイケメンである。その造形美に、思わず圧倒されそうになった。
無言で促してくる轟に、慌てて強子は笑顔をみせる。


「轟くんも席が近いし、これから仲良く・・・」

「悪ぃが、」


強子の言葉が遮られる。


「俺は“馴れ合い”のために雄英(ここ)にいるわけじゃない。友達ごっこがしてぇなら他をあたってくれ」


冷たい声でそれだけ告げると、彼はまた前方へ向き直った。

あんまりだ、と思う。
補欠だからと色眼鏡で見られることも嫌だが、それは今後の自分次第でどうにかなる。
でも、轟の切り捨てるような冷たい言い草は、普通に傷つく。
こっちがどれだけの勇気を振り絞って声をかけたか、彼は知らないだろう。想像もしないのだろう。


「・・・轟くんは、こういう言葉を知ってる?」


気が付いたら強子は、彼へ向けた言葉を口走っていた。


「“人は人によって磨かれる”んだって」

「?」


何を言い出すのだと、強子へと再び視線を向けた轟。
彼女は口元に小さく笑みを浮かべてはいるが、目元が笑っていない。その静かな怒りに気付いた轟は、わずかに警戒した。


「人は、他者との繋がりによって成長していくんだって。他の存在と触れ合うことで、自分自身が磨かれるってことらしいよ」


鉄を鉄で研磨するように、人も人によって磨きをかけられるのだ。


「尊敬できる人や憧れの人を見て、その人の良い部分を取り入れたりするでしょ?嫌いな奴やむかつく相手を見て、反面教師にしたりするでしょ?好きな人を思って努力してたりとか・・・誰だってそうやって、誰かに磨かれてきたはず」


かっこいいヒーローに憧れて、自分もヒーローを目指している人がいる。
憎き父親から受け継いだ個性を使わず、トップを目指そうとする人がいる。
大好きな母親から受け継いだ個性だけを使って、トップを目指そうとする人がいる。
そしてその人は強子の知る未来で、緑谷という他者のお節介により過去と向き合い、新たな強さを手にしていくのだ。
緑谷という他者と本気でぶつかり合うからこそ、その成長はあるのだ。


「どんな人間でも、誰かを磨くための研磨剤になり得ると思うけど・・・同じ目標をもった、ほぼ実力も均衡した相手―――つまり雄英のクラスメイトなら、より優れた研磨剤になると思わない?」

「・・・だから、友達ごっこに興じろとでも言いてぇのか」

「私はただ、他者と触れ合う機会を自分から捨てちゃうのはもったいないって思っただけ。たとえ補欠とはいえ、私だって、研磨剤として少しは使えるかもよ?」


睨むように強子を見たまま黙っている轟。
強子の真意を探るような目線に、強子は肩をすくめて、にんまりと笑う。


「実を言うと、私が一番クラスメイトとの触れ合いを渇望してるってわけよ。ほら、補欠だから・・・みんなに追いつくために必死なの!だからさ、私を救けると思って、これから仲良くしてくださいよ、轟くん」


ころっとひょうきんな態度に変わった強子は、ぽんぽんっと彼の左肩を軽く叩く。


「人救けは、ヒーローとしての大前提でしょ!」


そう言われて、断れるわけがない。ここで断れば、ヒーローとしての素質がないと示すことと同義だ。
轟は肩に置かれた強子の手をはたいてどけると、仕方なし、そんな態度で口を開いた。


「・・・・・・必要最低限にしてくれ」


よっしゃ!
強子は彼にはたかれた手でガッツポーズをとる。

こうして強子に(半強制的に)友達と呼べる存在ができた。










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イケメンの友達、ゲットだぜ!
頭も口もよくまわって、相手を言いくるめていくタイプの夢主。某上条さんみたく、話術サイドの人間です。


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