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 無題(2/21)







《今年の体育祭は組を5つつくろうと思ってる》



綺麗な艶かしいミルクティーの色した髪を耳にかけ、形のよい唇の端を計算済みのようにあげた我ら生徒会長の発言に『うおおぉぉおお』と場が盛り上がる。


いや待てどうしてそこで盛り上がったお前ら。


おおかた生徒会長が何を話したって、マイク越しの通った声に場が勝手に盛り上がるのは見えていたが。これは解せぬよ。
隣に座る英次は、俺と同じく盛り上がりなどしてなかったけど視線が柊先輩をみて止まないところからして生徒会長の話しすら耳に入ってなかっただろう。どれだけ柊先輩馬鹿なんだコイツべつに良いけどさ。

ふと目に留まるのはきらびやかな生徒会役員達で、柊先輩も生徒会長もそうだが外見が異様に良い。

だから親衛隊がいるわけだが…


「何だよあの転校生」


ぼつり、英次の口からその単語がでると俺と逆隣の生徒が便乗する。


「だよなあ、来たばっかのくせに生徒会に取り入って」

「つーか柊先輩が!柊先輩がうざがってんの分かんないかなあ!」


恋は盲点。

英次、柊先輩はむしろ転校生に好意的だと言いたい。


「だいたいあれだろー少し綺麗な顔だからって、生徒会長に気に入られて調子こいてんだよ」


英次のとなりの阿呆。

どう見たって転校生は席に戻りたそうに嫌々で、生徒会役員達に掴まれてるじゃないか。
あれはむしろ「まじでやめてください」な顔だぞ。


「あぁあ、お前柊先輩の親衛隊だったよな。もう制裁下したの?」


その言葉に英次は忌々しそうに首を振る。


「してぇよ、けどさ、白菊先輩なに考えてんだか『憧れの人は憧れであり自分等はべつの恋愛をすればいいんじゃないか。もしも憧れのその人に好きな人ができた場合、それが親衛隊内であれ外であれその人の幸せを思って祝福すべきだ。ただ恋人になるその人の気持ちがいかがわしいものであれば、制裁という名の注意はしてしまうかもしれないけどね。』なんてにこにこしてんの」


隊長らしい。

なんて言うほど俺自身、隊長のことなど知らないのだけど。温和そうに漆黒の髪を揺らし笑う隊長が、そんな台詞を吐く姿は容易に浮かぶ。



「富由も思うよなあ」



2人と野次の視線がちらほらと俺に向いた。
ぼんやり前の椅子の背から視線を移し、へにゃり口元を笑みに変える。


「ごめん聞いてなかった、なに」

「いやいいよ、きっと今の富由は制裁反対派だろうし」


ついっと顔を背けられる。

嘘だ、聞いてたけど、なんとなく知らんぷりしてみたかった。それに“今の富由”というのは、俺だからだろう。英次が知る“富由”はきっと英次の意見に同調していたはず。



……――お前変わったな、



そう英次に言われたのはいつだったか。

きっと入れ替わってから一週間もしない内に言われたはずだ。
あの時、宇宙人にさらわれたのが至ったんじゃないかという理由で納得されたので、富由も過去に大変な目にあったんだなあと少し同情もしたが。制裁なんて普通であれば誰もが否定するだろう。ヤるのもヤられるのも気が良いものではない。

自分のものではない手足に視線を落としながら、考える。

(べつに親衛隊抜けてもいいけど)

もしもこの身体に“前の富由”が戻ってきたとき、居場所を無くしてしまうだろうから。


チクリ、誰かの視線を感じた。


最近は特に多いこれは俺が変わってしまったことを意味する視線で、あまり好きではないが仕方無いかとも思う。
実際、何かの前兆ではないかと副隊長に「嵐の前の静けさか」なんて釘を刺すように睨まれたことは記憶に新しかった。


信用されてないんだな、富由くん。


目を閉じれば、富由くんと交信できそうだ。そう電波ながらに思い数分続けていたら睡魔に襲われる。
まあいいか、今日くらい。
欠伸を噛み締めながら、生徒会長の響くテノールをBGMにして夢へ夢へと引きずり込まれてった。





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