無題(1/21)
むかしの自分を知っていた。
それは過去というには世界観が違い、前世というには最近で。
――まさに夢の中かと
思ったのだけど、あまりに長くて現実味のある夢だった。
俺はあの日、この見た目も生活面も違うこの身体になった日から約半年が経とうとしてることにようやく気が付いて早かったなと呟く。まさに怒濤の半年間だったのだ。知らないベッドで目が覚めて、鏡に映る知らない顔を見て、知らない奴等に声をかけられ、知らない学校になんとか通いつめた。
それだならまだ良い。
まだ、順応できたから。
ただ問題だったのは周りの人間だ。男子校なのか女子はおらず、つるんでくるのは親衛隊仲間だと名乗る輩。俺は、というより俺の立場は親衛隊の書記なんて必要性のわからない立場らしく日頃から隊長と副隊長の後ろをヒョコヒョコ着いてくような役割だ。会議等ではもちろん書記の名に恥じないよう綺麗にノートをまとめてみせるが。いかんせんこの親衛隊とやらは男を祭り上げてるものだから、やる気は出ない。
なぜ俺はここにいる?
なんて半年間に何度首を傾げたものか。
なにも分からない
なにも、可笑しくない気さえする
「ふーゆ」
「……ああ英次かあ」
愛ノ馬富由(あいのめふゆ)。
それがこの身体の持ち主の名前らしい。名前にそって、まるで愛され富んだような奴……ではなく真逆だ。
親衛隊というだけで、色々な人から良い目で見られてないらしい。
話すのは本当に親衛隊内部者くらいだし、しかも親衛隊の中でも隊長と副隊長はあまり俺を気にしない。ああ、居たのか。程度。
よくこんな中で書記なんて出来るよ。
「富由?」
ひょこりと顔を覗き込んできたのは、さっき親しそうに走ってきた須和英次(すわえいじ)。
親衛隊内部者でクラスメイトで挙げ句の果てには寮生であるおれのルームメートだ。
「なに」
まばたきを抑えながら須和を見返すと、須和は焦げ茶色の髪を揺らしながら首を振る。
「またどっかトリップしてんのかなあって」
「いやまあ、それより用だろ?何」
「ええと今日のお昼、生徒集会あるじゃん。そろそろ体育館に集まらなきゃ白菊先輩に遅いって怒られそうで〜呼びに来た」
白菊先輩とは親衛隊隊長のことだ。
「あそっか、ありがとう」
素直にお礼を言い、行こうかと身を翻すと嬉しそうに着いてくる英次。
きっと生徒集会ということで柊先輩を拝めることに気分も上昇中なのだろう。容姿端麗な柊先輩は生徒会執行部だから壇上で話す姿を多々見かける。そのたびに親衛隊から主に歓喜の声があがる。その親衛隊に俺も所属しているわけだけど…。
なんていうか、成り行きだし。
なんの感動も生まれずにぽかーんと口を開けながら自分のこれからと晩御飯のことだけを考えているのだ。
今日もそんなものだろうと思っていた。
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