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 無題(2/13)








「最近のぬいぐるみって動いて便利ですね」

「ぬいぐるみ違う」

「あ、ロボットでしたか」


これは失礼しました

そう訂正して謝ると、老人は俺の手をつかんでポテに触らせた。
無闇に触ったら駄目だと脅すほどに大切な、老人の友を触らせてもらえるなんて恐れ多い。なにこれぶにぶに心なしか犬や猫のように本物のペットみたいに思えて、少し口に笑みが浮かび始めた。

と、同時の出来事だった


「いっっっだあああああ」


がぶり、まさにチューインガムに歯をたてるように噛み付かれる。
ポテ!なんて恐ろしいロボット。俺の右手が物凄い勢いで砕けそう待って待って待って老人助けてほんとに痛い、いや痛い通り越してやばい。歯が食い込んで肉があり得ないほど削ぎ取られ、ポテの口端から俺のものだろう赤い液体がどろり流れ出した。
真っ赤に染まった俺の顔はそれをみて一気に、色を変える。
血の気が引くなんてうまいこと日本人は言ったなと、激しい思考回路のどこかで思った俺はどこまでもふざけていた。


「わかったか、ポテは生きておるのだ」

「わかんねえよこれじゃ痛いだけだっつーの痛ぇまじで!ちょ、お願いたすけてえええ」

「残念なことにわしもポテに触るとそうなる」


ほんとうに残念な話だよそれ

なんで俺の肉が削げて尋常じゃない痛みと戦ってるのに老人は平然としてるのか、なんでロボットがこんな自分の意思で行動しているようにみえるのか。
思うところはあるけれどとにかく現状を変えなくては、このままでは本当に骨までパキッとパッキンアイスのように割られてしまう


「ポテ!ポテ、こっぷ、ほ」


痛みで食いしばっていた口を無理やりこじ開けたせいで、ポテ!ポテほらこっぷ取ってこーい。の台詞がかなり短縮されてしまった。
まあいいや。ぽいっと力が許す限り遠くにスープの入っていたコップを投げると ぱりーん、いい音がした。


「こっぷがあああああ」

「ぎゅきえええええ」


どちらが怪物かわからないほど奇声をあげた老人。

まるで犬のようにコップを追いかけるポテ。

人様のモノを勝手に壊したのは悪いと思うけど、今はそれより腕だ。
怖くて目をそらしたままではいられない、力無く垂れた右腕を左手で肩を抑えてバランスをとる。どくりどくり鼓動が触らずとも伝わってきて、生きてることをこんなにも実感してしまうことに涙が出てきた

痛い。

一言だけ零して涙をのみ込む。
いまの俺の顔は真っ青に違いない、違ったら紫か黄色でいい。



「ふああ、騒がしいなあ…」



第三者の声がした。

老人のようにしゃがれた声ではなく、ポテのように奇声でも無い。
自然とベッドのほうへと視線をむけると華奢な身体が丁度、布団を退けて起き上がるところだった。
さらり、落ちる金髪がきらきらしてその間から見えた大きな翡翠色の瞳がこちらを見据える。綺麗。なんでも無い言葉が歯の隙間から出ていって、溜息になった。


「ん…お前だれだ??」


つうか、ここどこ!俺だれ!あ、俺はわかる中野ユイだった。

さりげなく自己紹介を済ませやがった天使は、焦ったようにベッドからでようとして どてーん転がり落ちる。
頭からだったな、痛そう。自分の傷のことも忘れて頭が痛い錯覚に陥る、俺の洗脳されやすさに俺自身気づいていない。


「いっ、てえええ」

「大丈夫かい天使よ」


やばい俺、老人と思考が似てるかも

はあ天使?とキョトン顔の天使は、差し出された老人の手に素直に掴まり立ち上がる。
思っていたよりも身長があるが、それでも華奢だからか小柄で可愛らしい雰囲気。

視界の端でがりんぼりんと割れたコップを食べているポテより、俺も老人も天使から目が離せずにいた。


「誰だよお前ら、まさか……誘拐」

「あなたこそ勇者じゃあ!!」

「「はあ?」」


ついうっかり。俺と天使の口から疑問の声がでた。

天使に向かって地べたに頭を擦り付けるような勢いで土下座した老人は、さっき俺と話してた時とは打って変わり低姿勢のまま「どうかこの世界を救ってください」と悲願した。

天使はぽかーんとしてから、不思議そうに部屋を見回して俺をみる。

目があって、え?と思う。
いやだってポテのほうが気になるだろ砕けたコップをかき氷のようにがりがり食べてるのよ、あのぬいぐるみ可笑しいだろ。
そろそろ本当に生きているんだと信じそうな俺の思考回路も怖い。


「あんたら、何?なんかの宗教?」


片目を嫌そうに細めた天使。

老人は顔をあげることなく、この国の説明を始め出す。
ちょっと声がくぐもって聞こえにくいから渋々近づいて上半身を起こさせ、天使にもベッドに座ってもらった。


「そう、この国はもう半分以上闇に飲まれているのです」

「老人、それ俺には言ってない」

「黙れ余所者!わしは勇者様に話しておるのじゃ」

「このやろう。でも天使が天使だから勇者説を認めざるを得なくて強く言い返せない俺」


ぶはっ

落ち込んだ俺と裏腹に、明るい声で笑い出した天使。
土下座から上半身起こしてる老人と
その横にしゃがんで丸まってる俺は、そんな笑い声にぽかん口を開けて天使を見上げた。


「はっ…!ははっ、まあ、お前らが悪者じゃなさそうってのは分かったよ!」


どこまでも天使だなこいつ。

まるで後光でもさしたかのように眩しい天使に、2人で目を細める。


「それで?その勇者様とか天使とか何」


まあ天使は勝手な俺らのイメージだけど

確かに、勇者様ってどういうことだ。


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