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 無題(1/13)






この国は平和だった。



目が覚めたら唐突にそう言われた。

こんがり焼けたトーストを俺がくわえていたら、まさにぽろり落としていただろう。
は?という口の形で、見知らぬ老人を見る。


「ある人は花を摘み、ある人は風を感じ、ある人は水遊びをして」


詩人か。

本人はいたって真面目に語っているのだろうどこぞのお国の話を、俺は用意されていたコーンスープを飲みながら聞いていた。
どうやらこの老人、妄想癖があるらしい。

魔法やモンスターが行き来する国

そんなものさすがの俺でも中学で語るのを辞めたよ。
ただ嫌いではないからRPGとか、漫画とかはそっち系を嗜んでいた節はある。だから、老人の言う「勇者」の言葉には少し心が踊った。

勇者、剣士、魔術師、あとなに珍獣とか?


「千年に一度の奇跡なんじゃ」


うんうん、聞いているふりをしてコーンスープにトウモロコシが入ってないことを確認する。
トウモロコシが入ってないスープなんて、ただのスープ。俺は何を勘違いしてコーンがあると高揚して飲んでいたんだ?そうだはじめから誰もコーンスープだとは言ってなかった。

それでも裏切られた気分になり、ぎりい…コップを握り締める


「そんなに不安がらずとも良い、もう一人にも起きたら説明するからな」

「もう一人?」

「おや、一緒に落ちて来たのではないのか」


老人がさす方に視線をやれば、ベッドで寝ている天使がいた。

天使、いや人間ではあるのだろう
でも天使と形容するに相応しいほど、この距離からみても異彩を放っている。
光に反射しているだけだろうけど、己が発光しているのか疑うほど透き通る白い肌。染めたようにはみえない馴染む淡い金色の髪が、さらりと頬を滑って。綺麗な小さい輪郭を際立たせていた。
横顔からして、可愛い印象が半端ない。


「とゆうか待て、俺はソファーであいつがベッドの差は何か」

「……ベッドは生憎ひとつしかない」

「あれ女?」

「わしもそう思ったがな、ついてる」

「触ったのか見たのか」


いや、やっぱり言うな。

そう言って右手を押し出すように前に出した。

じゃあこれは絶対顔で優先順位決めたな、まあ床に転がされなかっただけで有難いけど。
むしろ俺がベッドで天使がソファーだったら可笑しい気さえする、それ程に天使は綺麗で
比べてしまえば、いや比べる以前に俺は褒めてもらうような容姿はしていないか。近所のお兄ちゃんに「日を追うごとに普通」とよくわからない台詞を言われたくらいしか、容姿に関しての他人の情報は無いがそれだけでだいたい分かるだろう

でもまあ贔屓はイラっとしたけど


「お腹が空いただろう、少年」

「そうですね、スープ一気飲みするくらいには」

「そらそうだ。一週間、眠り続けていたんだからのう」


その言葉に目を見開いた

一週間?まずここはどこ、なぜここに。
お腹が空きすぎて後回しになっていた疑問が、襖から漏れ出すようにとめどなく溢れてくる
でも言葉にはしなかった、今更、と自分でもなんとなく思ったからだ。


ぎゅきえええ。


一瞬真っ白になった頭を再起動させていると、そんな奇声が耳に入り込む。
家で飼う動物の鳴く声にしては、えぐい。

ふとソファーの足元を見ると、怪物のようなぬいぐるみがあった。
くすんだピンク生地に荒々しく本物のような歯をこちらに向けている、バスケットボールくらいの……ぎゅきええええ。

再び奇声が聞こえたが、発音源がわかった俺は眉間にシワをよせる。


「このぬいぐるみ…」

「ほっほっほ、無闇にポテに触ったらいかんよ。喰われてしまうぞ」


ぎゅきええええ。何度も奇声を発するぬいぐるみに手を伸ばすと、老人に手を叩かれた。
ほっほっほとか笑いながら叩かれると色んな意味で恐いんだけど、まあそれよりぬいぐるみに名前つけてるところに俺は悲しい顔をする。
ポテ、そうかポテ。

お前が唯一の老人の心の友なんだろうな。

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