5人の王子様の話4
なぜか散々焦った陽平は落ち着きを取り戻すと、じゃあ良いやつ紹介してやるよ。
そう言ってとある人のアドレスを渡してきた。
誰の?
浅見香也の。
あざみってお前、王子様親衛隊総監督の美丈夫だろ。なんでアドレス知ってんだよ、いやまあそれは別にいいけど、なんで俺に紹介しようとしてんだよ。あんな美丈夫を狙おうとなんてしてないし、なにより親衛隊総監督なんてしてんだから美形好きだろ?俺なんかに微動だにしねえよ、つか、鼻で笑われるからやめて。
あ、なんか悲しくなった。
悲しくなって恋人を作る気がなくなった俺は、邪念も一緒に笹餅の笹をごみぶくろに突っ込んだ。
「おい弟」
実の弟を弟なんて可愛げのない呼び方。
ふてぶてしく傲慢な態度で帰り道、おれの自転車を引き止めた兄に悲鳴をあげそうになった。
ごめんなさい自転車使って一人で帰ろうとして本当に申し訳ない、返すわ。
すごい早さで降りてかごの鞄を背負って、かけっこのポーズをした。そのまま走り出そうとした瞬間、兄はナンで俺を叩いてきたので勢いが消失した。え?ナン?それ朝おまえのファンから貰った大事なお土産じゃん。何してんの。
「フランスパンじゃないだけありがたく思いなよ」
「確かに」
「とゆうかアホヅラ引っさげて何先に帰ろうとしてるわけ?」
「え、確かにとか言ったけど」
「お前今日のお昼のメールみてないの」
「お前パンの使い方まちがってるよ!」
「俺今日急いで帰るから自転車置いてけって伝えたはずだけど」
「え」
「ん」
お前今なに言ったの?
2人してそんな顔をしていたので一拍だけ間が空いてしまったが、兄は自分の台詞に言葉を重ねられたことが腹立たしかったらしくナンで叩いてきた。
ちょっと、いい加減食べ物を粗末にすると俺の心が痛いんだけど。
ついでに叩かれて地味な痛みを帯びる右頬を押さえながら、自転車カゴにかばんを入れてまたぎ直す。
ムッとした兄に、早く乗れとあごをしゃくると案外すんなり後ろにまたがる。
「しーちゃん塾まで」
俺はタクシーか何かか。
今日塾なんだね頑張れ、と友達の告白をくそテキトーに応援するときのように手をひらひらさせる。
「くそかすな弟のせいで期待を一身に背負った双子の兄をもっと敬え」
なんか言ってるけどそれよりフランスパン刺さってるかも。背中痛い。
そう訴えようにもこぎ出した自転車はいつも通りの重みで、グッと太ももにくる。
踏ん張って一気にしゃべる余裕をなくした俺は兄のフランスパンをこれ以上注意することもできず、下り坂になるまで背中の痛みに耐えていたわけだけど。
なに?パンってこんなに凶器になるものだっけ、背中あざできてないかな。
俺明日からパン食う気おきねえわ
出たら食うけど。
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