「ブラック〜ッ!!」

聞き覚えのある声に思わず身震いした。
声の聞こえた方へ恐るおそる視線を向けると、己の周囲に花やハートを飛ばしながら緑の長ったらしい髪を揺らして手を振りながらこちらに走ってくる青年が見えた。
いや、見えなかった。

「オレは何も見てない聞いてない、あれは幻影あれは幻聴」

目的地とは反対側の道を選んで歩を進める。
変質者との接触で無駄な時間は使いたくない。
時は金なりってね。

「おーい、ブラック〜ッ!!!」

やけに騒がしい幻聴だな、
聞こえないったら聞こえない。
徐々に歩調を早めて自然と小走りになる。

だんだん遠ざかっていく声に少しだけ安堵し、小走りのままリュックから器用にタウンマップを取り出した。
奴と会わないよう出来るだけ遠回りして次の町に行ける道のりを探す。

「この道の先は行き止まりだから進めないなぁ…
一端ヒウンに戻ってそれから考えるか」
「あれ、ブラックはライモンに行くんじゃなかったの?」
「邪魔者がいたから一時撤退、くそー予定くるった!!マジで時間の無駄」
「せっかくリトルコートとかにいる選手とバトルしようと思ってたのに残念だね。
一体誰だい、その邪魔者って!!」
「そりゃあ…□☆▽◇◎〜っ張本人イターー!!!!」

走っていた勢いでそのままズサーッと盛大な音を立てて砂の地面に転んだ。
アスファルトじゃなかった事が唯一の救いか…それでも全身に痛みが走った。
顔を上げると野生のメグロコがお気の毒、ってな感じの目を向けてフッと鼻で笑っていた。

「ブラック大丈夫!?ほら僕の手に掴まって、さぁ!!」
「誰が掴むか!!何でお前ココにいるんだよ!!
瞬間移動か!?そーなのか!?
ってか何でオレがライモンでバトルしようと思ってた事知ってるんだよ!!」

「え、ブラックの事なら何でも知ってるよ!?
先頭のポケモンにはおまもり小判を持たせている事とか。
きょうせいギブスをつかってミジュマルをムキムキに育てようとしている事とか。
エモンガが中々GET出来なくてあちこちの草むらをウロウロしていた事とか。
ここでGETしたメグロコ♂がワルビルに進化した時初めて♀だって気付いた事とか。
んー…あとは最近白のブリーフから黒のトランクスに変えた事くらいかな」「ちょっとまて何でそこまで知ってるんデスカ!?つーか最後にさらっと言ったヤツかなり鳥肌たったわ!!!」
「寒いの!?ブラックひょっとして風邪!?」
「そーゆー意味じゃないから!!」
「そう?じゃあとりあえずヒウンに行こうか!!」
「何でお前も来るんだよ」
「だってブラックはヒウンに行くんでしょ?だったら僕も一緒に行くよ」
「だーかーらぁ、何で一緒に来るんだよ!!」
「?僕がブラックと一緒にいたいからに決まってるじゃないか!!」
「〜あーもーヤダ!!これだから電波と会うのは嫌だったんだ!!
とにかく付いて来るな、な!!」

「あ、そういえばブラック。ヒウンアイスってもう食べた!?」
「オイ、お前人の話聞いてるのか!?」

「あそこのアイス凄く美味しいんだってね!?行ってみない?」

「…はぁ〜。確かに美味しいらしいけどいっつも売り切れ。
今日もどうせ食べられないと思うぜ?」

「今日って確か火曜日だよね?
お客さん空いてるはずだから多分今から行けば買えると思うよ?」

「〜っ・・・・」

その一言にごくりと思わず生つばを飲む。
幼なじみのチェレンやベルにすら話した事はないが、オレは流行という物に非常に弱い。
はっきり言って、オレが育ったカノコはイッシュ地方ではかなりの田舎だ。
だからこそ、大きな町はオレにとって憧れだった。

ヒウンに初めて辿り着いた時は本気で目が輝いた。

カノコとは全然違う異世界観。
大きなビルに大勢の人、TVでしか見た事がない町の賑わいに思わず歓喜した。
長旅で悲鳴を上げていた足の痛みも忘れてあの日は一日中歩き回ったっけ。
ジム戦やプラズマ団の事件もあり、思っていたよりも長く滞在し、十分にヒウンを満喫出来た。
ただ、唯一の心残りはモードストリートで販売されているヒウンアイスだった。
TVや雑誌でも人気のヒウンアイスは、毎日長い列を作って人が並んでいる為買う事が非常に困難だ。
いざ並ぼうと思っても、大抵最終尾の人に「今日はもう売り切れみたいだ」と言われてしまう。
やっきになって自分でも今まで起きた事がないくらい早い時間に並んだ事があったがそれでも買えなかった。

それが…今日なら買える??
食べられるのか??

「ブラック…黙り込んで一体どうしたの?」「N…今の話、本当か?」

「うん、嘘ついてどうするのさ」

ニッコリと微笑むNに目が潤んだ。
ウザイ、電波、ストーカーだと思っていた存在が…今は神様のように見えた。

「N、ありがとうっ、本当にありがとう!!」

砂漠の砂でざらついた手の砂埃を払ってNが先程差し伸ばして引っ込めた手を思いっきり握ってやった。
一瞬びっくりしたようにNが目を見開く。
コイツってもしかして自分から仕掛けるのは慣れてるけど人から何か行動を起こされる事には不慣れなのかも。

「ブラック…初めて…僕に笑って…ありがとうって…」

口をパクパクと動かして頬を染めるNに思わず笑いがこみ上げた。

「な〜に一人でブツブツ言ってるんだよ。
ほら、ヒウン行くんだろ!?来ないならオレ一人で行くぜ!?」

「ま、待って!!一緒に行っていいの!?ねぇ!!ホントに!?」

「今日だけな。今日だけ!!!」

釘を指しながらもNの喜ぶ様を見て、再び口元が緩んだ。

今日は案外良い日なのかもしれない。


えーっと…これは後日談だけど。
Nはオレがヒウンアイスを食べたがってるっていうのをハナから知ってたらしい。
その話を聞いた瞬間凄く嬉しかったけど…それと同時にゾッとした。
やっぱアイツは要注意人物だ。



愛し君よ
(君の事なら何でも知ってるよ)


ーEND−


あとがき...
BW企画投稿小説デシタ。
企画に参加させて頂きありがとうございました!!

それにしてもまぁ…相変わらず恥ずかしい小説(笑)
せっかくいいお題を頂いたのに…勿体ない(汗)
N黒(主♂)なのに終盤がN黒Nみたいな感じになりました。
それでも二人が絡んでたら自分は満足デス←


←monochr


2010/11/14
13:47(0)



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