孤独は独りでは気づかぬもの

 紅い葉が、ひらひらと舞い落ちる。まるでこの世の祝福を一身に浴びたような、美しさ。
 またひらり。ひらりと舞い落ちる葉を、一人の青年が見ている。傍には、小さな墓。墓参りに来たのだろう。墓には、青年が供えたと思われる線香があった。
 きれいやな、と小さくつぶやいた青年は、目を落ちていく葉から墓へと移す。そして、手を合わせて目をつぶる。
 しばらくして目を開けた青年は、また来ます、と言って墓を去る。ふわりと、風が震えているような気がした。
 ――その数日後、出雲京で人間の反乱がおこり、出雲大乱が始まる。

 内匠屋兼家は、出雲京の貴族の一つである内匠屋の長男である。嫡男でないのは、彼の母親が正妻ではなく、愛人の立場であったからだ。本妻になかなか子供が恵まれなかったこと、また母に子ができたことにより内匠屋家へ入ることになったのである。しかし、兼家が母の血を強く受け継いだことにより状況は変わる。数年後、本妻にも子供ができたことにより、兼家と母はほとんどいないように扱われるようになった。そして母は病に倒れ、いつしか帰らぬ人となり、兼家はこの家で独りとなる。生活費を稼ぎながら日々を暮していたある日、父が倒れたことを聞く。そこで父は、やっと兼家の存在を知ったかのように、次期当主候補として兼家の名をあげた。それに本妻は怒り、次期当主は自分の子だと主張するも父の発言は覆ることはなく、そのときから家督争いが始まった。そして、そのころから本妻は兼家に婿入りについての話をするようになったのだった。

 人間が反乱を起こした。それを兼家が聞いたのは、家人たちが話していたのを盗み聞きしていたとき。最近、騒がしいのはそうのせいかと兼家は理解する。そして、これは異母妹との家督争いに役立つのではないかと考えた。
 今、兼家の手持ちは無いに等しい。父は、次期当主候補は兼家にもとは言っていたが、それがいつ覆るかもわからない。ならば、この機会に有利に進めたい。この大乱で名をあげれば、恐らく大帝の覚えもよくなるはずだ。そうすれば、周りは兼家のことを無視することができなくなるだろう。
 早速と考え、兼家は家を出る。当てなどないが、兼家には『空』を使うことができる。これをうまく使えば、何かができるだろうと考え、空を飛び始めた。

 ふわりと、危険区域と呼ばれているところへと兼家は降り立つ。人が多いのか少ないのか、よくわからない。そこでふと、白い服を着た少女を見つける。恐らく、白鷺塾の者。どうやら、一人で迷子になったらしい。誰かを探しているようで、辺りを探し見ている素振りがある。
 もしここで、人間を一人捕まえ、何か情報を得ることができれば……。
 そう考え、兼家は後姿を見せている少女に近づく。そして、持っていた刀で鞘ごと彼女の頭部を殴った。殴る寸前、彼女がちらりとこちらを見ていた気がしたが、兼家は気づかない。
 とりあえずと倒れた人間を抱き上げる。小柄なためか、軽い。これなら簡単に運ぶことができるだろう。気が付いたときに逆らわぬよう、何か枷が必要だろうと考える。また、何か反抗の意思を削ぐ方法も考えたい。そういったことに詳しそうな知人の元へ行こうと、彼女を抱きながら移動した。

「久しぶりに来たと思ったら、まこと面白いことをやっているのう」
 戦争など、また面白いものに参加しおって、と愉快そうに笑う男に不機嫌さを隠そうともせず、兼家は言う。
「それで、あれはできそうなん? できないなら他にあたる」
 昼なのに薄暗く狭い部屋は、兼家にとって苦痛以外の何物でもない。さっさと移動したいのだが、頼める相手が目の前にいる人物しかいないため耐えるしかない。
 落ち着かない様子の兼家が面白いのか、男はただ笑っている。兼家が、彼以外に頼る相手がいないのを見越しているように。
「もう狭くて暗い部屋とか大丈夫なん? 初めてここに来たときはめっちゃ泣いてたなあ」
「昔のことや」
 兼家の質問には答えず、昔の話をする男にいい加減辟易してきたのか、兼家は苛立って立ち上がる。そのとき、男が出来たぞ、と言った。なんのことかと理解できなかったが、男が未だ眠っている人間のほうへ視線を向けたことで理解する。彼女の足には、先程なかった足枷がついていた。
「とりあえず、あんさんの命令に逆らうと痛みが走るように妖術を仕掛けておいたわ」
 電撃ビリビリやで、と面白そうに笑う男に軽くお礼言い、金を払う。まいどあり、と愉快そうに言う男にそれ以上目もくれず、兼家は人間を抱きながら一目散に外へと向かった。

 家に戻ったとき、すでに辺りは暗くなっていた。連れてきた人間は疲れているのか、ぐったりしている。途中目を覚ましたので自分の足で歩かせた。そのとき、何かを言い反抗の意を示したが、枷に付属している妖術で痛みが走り、暫く何も言わなくなる。なるほどこういった効果があるのかと納得したが、また暫くすると彼女は何かを言い始めた。だがそれもすぐ表れた痛みで黙る。それを何回か繰り返し、何かを悟ったのか彼女は何も言わなくなった。
 離れはいつもと変わらず、人の気配がない。元々日当たりが悪く、住んでいる人は兼家一人のため陰気な雰囲気を感じる。母屋に行かずにこの薄暗い離れに迷わず向かったことを怪訝に思ったのか、人間がこちらを見た気がした。
 中に入り、人間を自室に入れる。ふと、改めて人間を見てみると、先程と違うところがあった。捕まえたときと比べて、制服の一部が短くなっているのだ。そのとき、足枷をつけてもらったときのことを思い出す。確か、兼家の趣味に服を合わせたと言ってた気がした。しかし、しっかりと話しを聞いてなかったのでよくわからない。余計なことを、と思ったが、なかなか似合っていたのでこれ以上考えるのをやめた。
 ひとまず食事をとろうと、机の上に帰る途中で買ったものを広げる。自分と、先程捕まえた人間用と。給料日後でよかった、久しぶりのまともな食事だと考えながら、好きな方を食えと人間に言う。人間は苦虫を噛み潰したような顔で毒など入ってないやろな、と聞いてくるが買ったものを開けずに毒を仕込む芸当など兼家には持ち合わせていないので否定する。それに納得がいかないような顔はしたが、人間は手近にあったおにぎりを手に取り食べ始めた。兼家も、残ったサンドイッチのほうを食べ始める。久しぶりの他人がいる食事は、どこか冷たくも温かかった。

 風呂も上がり、日記も書き終え、そろそろ寝ようとしたとき。捕虜として捕えた人間が、離れた位置で警戒した目をしながら兼家をじっと見ていた。どうしたものかと思ったが、やはり捕まえられたことに警戒しているのだろう。本当なら色々なことを聞いたりしていたかったが、この様子では口を割らないと判断して後日行おうと考える。
 立ち上がり布団を敷く。自室には布団一式は一組しかない。他の部屋に行けばもう一組くらいならあるのだが、取りに行くのが億劫だ。
 変わらず離れた位置にいる人間の腕を掴み、自分の布団へ押しやる。そして、驚いて何も言わない彼女と同じ布団に兼家も寝転んだ。
 そっと、彼女を抱き寄せる。何か暴れながら言っていた気がしたが、兼家には理解できなかった。ふわりと、甘い香りがした気がする。そして、優しいぬくもりは亡くなった母と遠い昔、一緒に寝たときを思い出させる。懐かしさに、兼家はそっと息を吐いた。
 目を閉じる。彼女は未だに何か言っているが、無視をする。疲れていたのか、兼家はすぐに眠りに誘われた。

 

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