桜散る

 花吹雪が舞う中、長い髪を三つ編みにした少女が歩いている。隣にはふわふわと浮いている幽霊。少女のことを気にかけているように見えた。
「瑠璃ちゃんは、このままでいいの?」
 ふと、隣にいた幽霊が声をかける。少女の身を案じているような、やわらかい声音で。
 しかし、瑠璃と呼ばれた少女は鬱陶しげに幽霊を見ると、立ち止まって声を出す。
「玻璃、何回も言うけど私は『あそこ』から出る気はない。それに、『あそこ』から出たいとしても、認めてもらえないわ。あなたもわかってるでしょう?」
 どこか苛立たしげに言う少女は、玻璃と呼んだ幽霊をしばらくじっと見つめた。
 しばらくの間、二人は何も言わない。ただ周りをちらつく花びらだけがこの時が動いているというのがわかる。
 やがて玻璃はため息を吐き、ごめんねと小さく呟いた。それは瑠璃に聞こえたのだろう、瑠璃は罰が悪そうな顔をして目を逸らす。そして私も言い過ぎたわと謝罪を口にした。
 そして再び歩きはじめる。どこか気まずい空気を二人は感じたが、ただ何をするわけでもなく散る花を見ながら歩いてた。
 やがてある家の前まで着いた。瑠璃が今住んでいる家。玻璃はこの中へ入ることができない。
 瑠璃はじゃあね、と言うと振り返りもせず中に入る。玻璃は、ただしばらく眺めていたが、彼女が家を出てくることはない。やがて玻璃も動きだし、あとにはひらひらと舞う桜だけが残されたのだった。

 風が、どこか不吉なにおいを運んでいた。

 

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