衣替えの話
余った袖を捲る。
すっかり自分用になってしまった服を二着たたんでから部屋の端に置き、家主の服は整えてからハンガーにかけた。軽く掃いてからテーブルの上を片付け、ふきんで乾拭きしてから雑誌を積む。洗濯機を回してから玄関に置きっぱなしにしていた鍵の束を掴んだ。
が、今日は燃えるごみの日である。鍵は一旦戻してゴミ箱の中身を集め、指定の袋に全部詰めた。

ソファに陣取った毛布をバイクの上に干してから、今日は徒歩で家から出る。
食料品といい加減新しい服を買わなければいけない。たいして重くないゴミ袋を片手にまぶしい日差しの下へ踏み出した。



‐‐‐‐‐



近所の人たちには、一応後輩である自分が火事で焼け出されたのを保護して貰っているとだけ説明してある。井戸端会議の横から軽く会釈してゴミを出して、噂好きの奥様方から逃げるように大きな建物を目指した。
入道と名乗ってある。年齢的に、女が転がり込んだなんて話が残ったら面倒になるだろうと配慮しての嘘だったが、お前面倒くさいなと言わんばかりの目で見られた。

眼鏡を押し上げてからさっさと入って済まそう、と意気込んだ瞬間、腰辺りに柔らかい何かが飛びついた。

「ひなちゃん!」
「りりかさん」
「お元気でしたか?心配したんですよ!」
「あ、はい、私は何も」
「おうちを訪ねようと思っていたんですけど、無くなっていて」
「火事に遭って知り合いの家に居候しているんです。それで服を買いに……」
「それなら!お任せください!」
「え」

「りりかさん、外で待っててもいいですか」
「駄目です」
「明らかに目立ってるんですけど」
「だから先に服を買うんじゃないですか!」
「……はい」

「これ、似合いますか?」
「とっても!」
「はあ……この服は可愛いですね」
「服が可愛いんじゃありませんから!」
「そうですか」
「どうしてそんなに反応が薄いんですかぁ」
「私よりもりりかさんが着てくださいよ」

「日奈子さん、明日お暇ですか?」
「暇ですよ」
「今日はあまり時間も無かったですし、明日仕切りなおしましょう!」
「え」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。送っていきましょうか」


「鍵がない」


「コロ助!すぐ支度しろ、出る」
「綾鷹さん、高等部はまだ学校じゃ」
「急ぎの用事が出来たんだ、三綾さんは家に居てくれ。日を越すと思うから待たなくていい」
「先生、着替えです」
「ああ。途中で会った荒神瑠璃を呼んであるから、しばらく一緒に居るといい。行くぞ」
「はい」



「おかしいと思ったんだ、現職が殺人なんて格好の餌食だったのに報道は全く無かった」


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bkm
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