けれどレノは気にした様子もなく、カチカチと携帯を打つと、電源を切って上着に携帯をしまった。
メールを打ったんだろうと分かった。
たぶん、暫くしたら連れの同僚がやって来てレノとはお別れか。
こんな風な出会いって珍しいから、少しだけ惜しい気がする。
まあ、しょうがないけどさ。
「なあ、レノってこの街に住んでんスか?」
「違うぞ、と。ここには休暇で来てるんだぞ、と」
「ふーん。俺と同じッスね。俺は仲間の別荘に来てるんだけどさ」
俺の言葉に、レノは『へえ』と言って笑う。
なんか、レノの笑い方って特徴的だな。
誰かに似てる気がするけど……ああ、ジタンだジタン。
ジタンの含み笑いに似てるんだ。
ジタンがああいう笑い方をするときはたいがい嫌ないたずらを考えてるときだったよなー。
「少年はどこに住んでるんだ、と」
「俺?俺はエッジの街ッス。そこのセブンスヘブンって店で住み込みで手伝いしてる」
「そこが故郷か、と」
「いや……。故郷は別ッス。えっと、近くによることがあったら、店に来てくれよな!」
故郷の話しはできないから、テキトーにはぐらかせばレノは相変わらずの笑み……これってアルカイックスマイルってやつか?
とにかくレノは笑って俺を見てた。
それが別に不快なわけでもないし、はぐらかした話を追求してくる様子もなかったのでホッとする。
「………来たぞ、と」
「え?」
言われた言葉が聞き取れなくて、聞き返したのだけど……気づけば眼前にレノの顔があった。
驚いて目を見開けば、ズボンのポケットに何かをねじ込まれる。
「携帯の番号だぞ、と」
そう囁かれ、温かいものが触れていった。
そのことに俺は本当に驚いて、言葉も出ない……と思ったけど。
「う、わっ!!」
ぐいっと後ろに引かれ、今度はなんだと声を上げた。
目の前にいたレノはアルカイックスマイルを浮かべたまま、後ろへと跳躍していた。
突然の事態に何事かと混乱していれば、腰に手を回されて誰かにがっちりと後ろからホールドされている。
けど、耳元で聞こえた言葉によく知った奴だと分かった。
「……レノ!!ティーダに何をした!!」
「保護したんぞ、と」
クラウドがレノの名前を呼んだので、驚いた。
あれ?もしかしてレノが探してた同僚ってクラウド?
……じゃ、ないよな。
向こう側から、黒いスーツを着た女の人が走ってくる。
レノの後ろにつくと、俺をしげしげと見ていた。
「先輩!あの……!」
「イリーナ。行くぞ、と」
レノは女の人の言葉を遮ると、俺に向かってひらりと手を振った。
俺も、それに倣ってひらりと手を振る。
「あ……。レノ!サンキューな!」
最後にもう一回お礼を言おうと思って声を張り上げたら、腹に回っていたクラウドの腕がぐっと締め付けてきた。
クラウド、苦しいッス!
レノは最後ににっと笑うと女の人と一緒に行ってしまった。
なんだかあっけない別れかただと思い、少しばかり寂しい気持ちになる。
「………ティーダ……無事か?」
「ええ?ああ、うん……って!」
いま気づいたけど俺ってばクラウドに後ろから抱きしめられてますけど!?
こんな白昼の往来でこんな状況は非常に宜しくない!
変な注目浴びちゃってます!!
「ちょ、クラウド!!」
「どうした?」
「どうしたじゃなくて……!ここはずらかるッス!!」
俺はそう言うと、いまいち分かってなさげなクラウドの手を掴み走り出した。
とにかくここを離れなければ!!
もうこの広場にしばらくこれないじゃないッスか!!
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