小説 | ナノ
life -FE -A
道を辿っていけば、広い空間に出た。
そこは水が池の様に張っていて、水脈が近くにあるのを教えてくれていた。

「おおー!広いッスね!」
「なんだここは。行き止まりか?」
「見る限りは……外れの道のようだな」

『見ろ』というヴィンセントの言葉に視線を巡らせれば、高い壁の辺りに通路のような穴があいており、そこが奥へ向かってアーチを描く坂道になっていた。
恐らく、さっきの選ばなかった道から進めるのだろう。

「戻るしかないな」

そう言ってティーダを振り向けば、水に手をつけてばしゃばしゃと遊んでいた。
その姿に溜息をつくが、さすがに飛び込むようなことはしないかとその点だけは評価した。

異世界では水場を見つけるとあっという間に飛び込んで、フリオニールにあとで叱られるのも珍しくなかったからな。
そう思いながら、戻ることをティーダに告げようとした瞬間、ティーダは後方へと飛んだ。
ティーダが立っていた場所に伸びている大きな手に、俺達は武器を構えた。

「ティーダ!」

ティーダはバック転で現れた巨大な魔物の攻撃を避ける。
俺は濡れた地面を蹴るとそのままティーダに攻撃を仕掛ける敵のやたらに長い腕を斬り飛ばした。

斬り飛ばされた腕はびちりと地面に落ち、びくりびくりと脈打っていた。
腕の部分はずるりと水の中へと戻っていき、しんとなる。

見えているのは敵の腕だけで、腕は水の中から伸びていた。
敵の一部だけでは仕方がない。本体を叩かなければ。

「なんスかこの魔物は!」
「いままでのと違う種類だな」

ヴィンセントはそう言うと、マグナムに弾を装填して水中へと撃ち込んだ。
広い空間に弾が放たれた音が三回響いたが、水中は相変わらず静かだ。

ティーダもフラタニティを構えながら、水を伺っている。

「逃げたか?」
「いや、まだいるッス。水の動きが変だ」

水の動きの違いなんて見受けられないが、水中のエキスパートと言えるティーダがそう言うのだ。
警戒しておくべきだ。

「水を跳ね上げさせてみるか」

画竜点睛なら、水を吹き飛ばせるかと思い剣を構えたところで隣にいたティーダがはっと息を呑んだ。

「クラウド!避けろ!!」

そう言ってどんと突き飛ばされた瞬間、水中から凄い速さで手が伸びてきた。
ティーダが俺を突き飛ばしたお陰で、俺は難を逃れたがティーダは伸びた来た手に右足を掴まれそのまま空中に持ち上げられる。

「ティーダ!!」

ヴィンセントの弾丸が敵の腕を打ち抜くが、敵の腕は痛みのせいかびくりびくりと震えてそのまま水中へと戻っていこうとする。
……ティーダを捕まえたまま。

「ティーダ!!今助ける!」
「大丈夫!自分で何とかするからさ!」
「ティーダ!!」

俺は攻撃をしなって避けた腕はティーダを道連れに水中に戻っていた。

静まり返った空間に、俺は奥歯を噛み締める。
自分の代わりに身代わりになったティーダ。

なにをしているんだ俺は。

「どうするクラウド。水中に逃げられては対処しようがないぞ」
「………外から叩く」

俺は息をひゅっと吸い込むと力いっぱい画竜点睛を水中に向かって打ち込んだ。
水は半分ほどが宙に弾け飛び、一瞬であったが敵の本体がさらされる。

黒いぐずぐずとした塊に手が幾本も生えている異形の姿。
見たことのない形の魔物であったが、そんなものはどうでもいい。

一瞬見えたその姿に地面を蹴って近づくと超究武神覇斬を叩き込んだ。
異形の魔物はジェリーのようにぐずぐずの体細胞を飛び散らせてひしゃげた。
ずるりと体が傾き、底へと落ちていく様子を目の端で捉え、俺は体を捻るとバスターソードを投げ飛ばした。

その瞬間に打ち上げていた水が重力にしたがい戻ってくる。
振りかぶった水とともに俺も水中へと沈むが水の中は薄暗くてよく見えなかった。

(ティーダ?)

思わず声を発してしまっため、口から空気が漏れる。
ごぼりと生まれた気泡が邪魔してさらに中は伺えないし、呼吸も続かない。

いったん水面に浮上すると大きく息を吸った。

「クラウド、ティーダは?」
「わからない。……息は平気だと思うが……」

ティーダは水中競技のスポーツ選手とのことで、やたらに肺活量が良かった。
いや、もはや特異体質レベルだろう。
初めてティーダが水にもぐったときのことは今でもはっきりと覚えてる。
楽しそうに泳いでいたティーダが10分も水の上に上がってこないのに気づいたときはセシルとフリオニールと俺で大慌てだった。
当の本人は水面の騒ぎに気づいて『なーにやってるんスかー?』なんて笑って現れたのだが。

ざばりと水から上がり、息を整える。
壁に刺さっていたバスターソードを抜き取って、水中を振り返るが……ティーダが上がってくる様子はない。

……どうしたティーダ?
お前はあれぐらいでやられるような奴じゃないだろう?

そう思いながらも姿が見えないティーダに焦りを覚える。
まさか、あの僅かな間に敵にやられたとでもいうのか?
沈んでいるとでもいうのか?

「……ティーダ……ティーダ!!」
「こっちッスよクラウド〜」

名前を叫んだ瞬間に、どこかから声が聞こえた。
聞こえたといっても幾分か小さな声で、しかし水面にティーダの姿はない。

「ティーダ!?」
「どこにいる?」

ヴィンセントの言葉に、『こっち側〜。なんか、違うほうにでちゃった見たいッス』と返してくる。
こっち側とはどこのことだ?
そう思いながら、声がする方向へと視線を向ければ高い壁のようなものが目の前に映る。
上へと視線を辿らせれば、先ほどの分かれ道から続いていると思われる通路だった。

その通路は高い崖のようになっていて、どうやらティーダはその向こう側にいるらしく姿は見えない。

「……壁の向こう側にいるのか?」
「そうみたい。なんか、水底の方で壁に穴があいててこっちに逃げたんスよ」
「怪我はないのか?」
「ないッスよー」

間延びした返事に、俺とヴィンセントは息をついた。
けれど分断されているには違いない。
早めに合流しなければ。

「とにかく、水の中にまだなにかいるかもしれない。陸に上がれ。俺達がそっちに行く」
「了解ッス」

ばちゃばちゃと軽い水音が聞こえ、ティーダが泳いでいるのが分かる。
俺はその音を確認してから、バスターソードを担ぎなおして駆け出した。

「急ぐぞヴィンセント」
「ああ」

一刻も早くティーダと合流しなければ。

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bkm
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