小説 | ナノ
掌中の珠A


ドンドンドンドンドンッ!!

激しく鳴り響く音にティーダは目を覚ました。
何事かと思いながら飛び起きれば、再び激しく何かを叩くような音に体を僅かに強ばらせる。

何時だろうかと瞬時に目覚ましに目をやれば、帰ってきてから二時間くらいが経っているようだった。

ドンドンドンドンドンッ!!

「な、なんだ?」

激しく鳴り響く音は、どうやら玄関の扉を叩かれているものらしい。
いったい誰がと考えるも、寝起きの頭ではうまく考えられないし、こんな音を立てられる心当たりもないティーダは混乱するばかりだ。

「えっと・・・・・・」

どうしよう。扉を開けるべきなのだろうか。

そう思っているうちに、扉の音は止んでしまった。
しーんと静かになったのが、逆に恐怖を煽る。

ティーダはそろそろと扉の方にいくと、覗き穴から外を伺うが・・・・・・そこには誰もいない。思い切って扉を開けて外を見たが・・・・・・やはり誰もいない。

「・・・・・・・・・」

ティーダは静まりかえった住宅街が怖くなり、急いで扉を閉めて鍵を掛けた。誰もいないっていうことが怖い。もしや、幽霊とかでは?曰く付きの物件だったのか?

そんなことを考えながらふらふらと寝室に戻れば、床の中央に放置されている鞄と厚手の封筒が目に入った。

ティーダはその封筒に手を伸ばすと、びりりと封を切った。
宛名も、差出人もないその封筒がとても不吉な感じがする。
そんな思いを持ちつつも、ティーダはそろそろと封筒をひっくり返した。
当然、封筒は逆さになったのだから中に入っていたものが重力に従って落ちてくる。

「・・・・・・な、なんだよこれ・・・・・・」

ローテーブルに落ちてきたそれらに、ティーダは気味の悪さを感じてぶるりと身を震わせる。今、目の前に散乱しているそれらは何の意図を持ってポストに入れられていたのかと考えるがわからない。

「なんで・・・・・・俺の写真が・・・・・・」

ティーダはローテーブルに落ちている大量の写真を一枚一枚確認する。
それらの写真全てにティーダが映っている。しかもどれもこれも、ティーダはカメラの方を向いていない。明らかなる、盗撮だった。

まるでよく聞く、ストーカー被害のようだ。

ぼんやりとそんなことを思ったティーダはぎょっとして玄関の方を振り返った。部屋から真っ直ぐに続いている廊下の先にある玄関は、寝室のドアを開けっ放しにしていればよく見えた。
さっき、あれだけ激しく叩かれていた扉と、今日、ポストに入れられていたこの大量の写真に因果性はあるのだろうか?

「っ・・・・・・!」

ティーダは写真を封筒にしまい直すとそのままゴミ箱へと突っ込んだ。
見なかったことにしよう。それが混乱したティーダが導き出した答えだった。なかったことにする。写真も、叩かれた扉も。みんな、なかったことだ。

そうしてなかったことにしたティーダは、いつも通りの日常を再開する。簡単に安くて量が多い食事を自炊して、シャワーを浴びて、夜からのバイトに備えて寝よう。

ティーダはそうして、日常に戻る努力をした。
けれど努力だけではどうにもならないことがある。
環境が変われば、いくら切望しても同じ日常は訪れないのだから。

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bkm
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