小説 | ナノ
愚者の集いA


「ティーダ!弁当忘れてるぞ!」
「おわっ!いっけね!」

ばたばたと騒がしいダイニングで新聞を広げていた一番の上、クラウドは新聞から顔をあげた。
二番目のセシルはクラウドの前でカップに入ったミルクを傾けると、エプロン姿でお弁当を手早く包んでる三男、フリオニールと学生服に身を包んだ末の弟のティーダを見て、くすりと笑った。

こんな日常をずっと待ってた。
兵役を終えた二人が二人の弟とたちを迎えたの僅か2年前だ。
学校の都合から、新しい家は末の弟に合わせた。
三男は学費の問題とかから、高校には進まずに花屋でバイトをしている。
バイト先がいいところらしく、もはやそのまま就職するつもりらしい。

長男も次男も兵役を終えた親友とそれぞれ起業し、それなりになんとかやっている。
仕事も家もあって、兄弟水入らずに暮らしている。

これ以上の幸せはないというくらいで、穏やかで、夢見た日々が続いている。

「いってきまーす!」
「ティーダ!ネクタイが結べてないぞ!」
「スコールにやってもらうからいい!!」


末の弟のティーダ肩にスポーツバッグ、片手にネクタイを持って慌ただしく出ていく。
フリオニールは見送ろうと玄関先にでると、家の前でマウンテンバイクに跨がった青年、スコールがティーダのネクタイを受け取っているところだった。

「スコール、おはよう」

フリオニールがにこやかにそう声を掛けると、スコールは僅かに頭を下げた。
そしてティーダの首に慣れた手つきでネクタイを締める。
程よく緩められて結ばれるネクタイの加減は、長年ティーダのネクタイを結び続けてきたスコールだからこそできるものだ。

スコールは兄弟から引き離されてバラムガーデンに入れられたティーダの同室者だった。
バラムガーデンは3年前くらいまで経営者が違い、全寮制の学校で、ティーダとスコールはそれこそ10に満たない頃から友に育ってきた仲だった。

「いってきまーす!」
「二人とも気を付けろよー」

ティーダはスコールの自転車のステップに跨がり、それを受けてスコールはゆっくりとペダルを踏みしめてこぎだす。
徐々にスピードがつき、同時に視界の中で小さくなっていく自転車を見送って、フリオニールは玄関の鍵を掛けた。

「ティーダたちは学校いったぞ」
「またスコールと二人乗り?ティーダも自転車持ってるのに」

フリオニールの言葉にセシルは困ったようにそう言った。
セシルのいう通り、ティーダも自転車を持っている。
けれどそれは殆ど使われることはなく、行きも帰りもスコールの自転車だ。

「まあ、大丈夫だろう。二人とも運動神経はいいし。ティーダじゃなくてスコールが漕いでいるんだし」

フリオニールのその言葉に、クラウドは僅かに眉を潜めた。
それを見て、セシルがくすりと笑う。

「クラウドはスコールが嫌いだね」
「……そういうわけじゃない」
「そお?ティーダを取られたみたいでつまんないんでしょ?」
「お前だってそうだろう」


クスクスと笑うセシルにクラウドが同意と指摘をするとセシルは微笑みを苦笑に変えた。
実に複雑だ。その感情が強いのは上の二人であった。

スコールはティーダの幼いころからの一番の友達で親友であるのは周知の事実だ。
けれどそれをクラウドとセシルが知ったのは二年前だった。

それより以前、ティーダは少ないけれど手紙を書いてくれていた。
だがその中にどこにもスコールの存在はなかったのだ。

友達の名前が一切ない手紙を見て、上の二人は友達がいないのかととても心配したものだ。
それとなくフリオニールに窺えば、ティーダに友はいるという返事がくる。
けれど、ティーダの手紙には一切友達の話はない。

クラウドとセシルはティーダが寂しい思いをしているのではと考えていた。
けれど、実際には笑顔でスコールを突然に紹介されて、スコールがいたから寂しいけど寂しくなかったと言ったのだ。

スコールの存在に驚いたのはクラウドとセシルだけで、フリオニールは元より会ったことがあったらしい。
故に三人の兄たちの仲では一番、フリオニールがスコールに当りが良かった。

まあ、当りが良いも悪いもクラウドとセシルはスコールと接点がない。
仕事の関係で平日に家にいる率が高いのはフリオニールだ。
休日はティーダはスコールの家に遊びに行くか、二人で外に遊びに行くかで家で休むクラウドとセシルと会うことはない。

クラウドとセシルの中で、スコールの評価はいいも悪いもなく、採点不可能の状態。

悪い青年でないことも、末の弟と長いこと仲良くしてくれていることも知っているが……どうにも上の二人からすると突然現れたような存在に感じられるのだ。

フリオニールのように昔からその存在を知っていたなら、もっと違っていただろう。
ティーダはすごくスコールに懐いていて、スコールもまたティーダによくしてくれた。

スコールは無愛想で無口であったが、優しくない青年ではないし、勤勉でありそれなりに優等生でもあった。
少なくとも勉強が嫌いだというティーダがテストで赤点を免れているのはスコールのお陰であろう。


けれど、それでも。
クラウドとセシルの中にはティーダは末の弟で、なにがあっても庇護すべきという感情が強い。
それは二人が泣きながら連れて行かれてしまうティーダの幼い姿がトラウマになっているからともいえよう。

ティーダはもう、17となってしまったがクラウドとセシルの中ではまだまだ幼い弟だ。
共にいられなくて、寂しい想いをさせた分だけ甘やかしたいという思いがあるのだが……。

ティーダはティーダの生活があり、ライフサイクルがあり、そして友人がいる。
それは当然のことだが、クラウドとセシルはどうにもそれを飲み込めないでいた。

ティーダがもっと、手紙にスコールのことや身の回りの出来事を書いてくれていたら違ったのだろう。
ティーダが送ってくる手紙はブリッツボールの試合の結果とクラウドとセシルを心配していることしか書かれていなかったのだ。

「ああ。そういえば今日はティーダは夕飯いらないらしい」
「またか」

思い出したようにいうフリオニールに、クラウドは溜息をついた。
ティーダはなにかと家をあける。

彼なりに人付き合いもあるのだろうが、折角共に住んでいるのにと思わなくもない。

「またスコールのところかい?」
「課題を一緒にやって、夕飯も食べるらしい」

フリオニールは手早く台所を片付けると、ダイニングチェアに引っ掛けていた上着を羽織る。
そろそろ、店のほうに行かなければならない時間のようだった。

「今日は夕飯は三人だな」
「いや。俺も今日は仕事で遅くなる」
「そうなのか。わかった。じゃあ俺とセシルの二人か」

クラウドの言葉にフリオニールはそう言って頷くと、新聞の折り込みチラシを数枚引き抜いて鞄に入れた。
大方、スーパーの特売チラシだろう。
休憩中にチェックして、夕方にスーパーに行くのがフリオニールの日課だ。

「悪いな」
「いいよ。仕事頑張れよ」

フリオニールはそう言って笑うと、機嫌よさげに家を出て行く。
ダイニングに残された上の二人も、そろそろ働きに行かねばと腰を上げた。

今日もいつも通りの平穏な一日が始る。

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bkm
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