「………ここが、ニブルヘイム?」
「ああ。俺とティファの故郷だ」
「へぇー……そうなんスか……」
久方ぶりに見た故郷の姿に……懐かしいというよりも胸が痛む。
ここは多くの悲しい思い出が多すぎる場所だ。
ティーダは俺の故郷という言葉に無難な返事を返しただけで、それ以上はなにも聞いてこない。
故郷のことは、ティーダにそれとなく話してある。
少なくとも、セフィロスによって村が消失したことと、その際に母親が死んだことは伝えてある。
本当はここにティーダを連れてきたくなどなかった。
けれど、『クラウドが良ければ、クラウドの故郷見てみたい』と言われれば断れない。
けれど……ここは俺には辛い思い出が多すぎて、ティーダがいてくれればという思いがあったのも否定できない。
連れてきたくはなかった。
けれど、一緒に来て欲しかった。
その相反する気持ちを抱えながらも、今、俺とティーダの間にある距離にやはり連れてこなければ良かったと後悔してる。
「それで?ここで行方不明者がでてるんだっけ?」
「ああ。ここ数ヶ月の間で多発している」
「こんなところでぇ?今は誰も住んでないんだよ?」
新羅による再興がされて、一時は新羅関係者が住んでいたが……この村は既に放棄されている。
その村でなぜ、行方不明者などがでるのだろうか?
「ここは最近、『死んだ人に会える村』という噂が立っているらしい」
「はあ?」
ヴィンセントはリーブから渡された資料を捲りながら、淡々と言葉を続ける。
けれど、その内容は首を傾げるようなものだ。
「最初はある男が薬草調達の為にこの辺りまで来て、迷ったらしい。その際に、この村にたどり着き……メテオ災害で死んだ両親と再開したとのことだ」
「……で?」
「翌日、男は明るくなってから村をでて、自分の村へ戻ったらしい。そこでこの村で死んだ両親に会ったことを話したところ、噂になり、『死んでしまった大切な人』に会いたい人間がこの村に訪れるようになった……ということだ」
ヴィンセントの説明に、ユフィは顔を歪め、ティーダはきょとんとした顔をし、レッド]Vも困惑した顔をしていた。当然、俺も困惑している。
「……それって、ここに来る人皆が行方不明になるんスか?」
「いや。そうとは限らない。無事に戻ってくる人間もいる」
「戻ってきた人たちは、死んだ人に会えたんスか?」
「……資料によると、8割の人間は会えているらしい」
「ええええ!?本当に!?てゆーかそれって幽霊でしょ!?」
ユフィはそう叫ぶと自分の体を抱きしめた。
ぶるぶると震えながら『ありえない!』と繰り返している。
「私達の仕事は行方不明者の捜索と、原因の究明、対処だ」
「わかった」
「了解ッス!」
「うん!頑張るよ!」
「いやあああ!アタシ帰るーーー!」
嫌だ嫌だというユフィをティーダとレッド]Vが宥めている。
幽霊が怖いというユフィはさほど意外ではなかったが……幽霊と聞いても動じていないティーダが少々意外だった。ティーダはなんとなく、その手のものが苦手なような気がしていたから。
「ちょっとティーダは怖くないの!?幽霊よ!?幽霊!!」
「うーん……あんまり。そんなに怖いもんスかね?生きてるか死んでるかっつーか……なんだろ。そんなに生きてる人と変わんないだろ?」
「違うわよ!!」
信じられないというユフィに対して、ティーダは変わりなく笑っている。
その笑顔が本当に平素のものと変わらないことに、俺も幾分か不思議に思う。
幽霊と聞いて、全く平気というのは珍しいのではないだろうか。
その手の話を好き好む人間もいるが、大半はいい感情を持たないだろう。
自分だって、怖いとまでは思わないが……別段にいい感情を持っているわけではない。
遭遇しないならそれに越したことはないと強く思う。
「とにかく!まずは村の探索ッスかね?」
「そうだな。広いから二手に分かれるべきだな。2、3で分かれよう」
ヴィンセントの言葉に、ユフィは『行きたくない、行きたくない』と唸り声を上げている。
「ここで待つか?」
「冗談!一人の残される方が嫌よ!!」
俺の言葉に、ユフィはぶぶんと首を振って置いていかれるものかというように俺の腕にしがみついた。
突然掛けられる体重に、やや肩が落ちる。
「……………」
「ティーダ?」
「俺とヴィンセントとレッド]V。クラウドとユフィのチームでいいッスよね?」
ティーダが俺とユフィをじっと見ていたかと思えば、くるりとヴィンセントに視線を向けて口早にそう言った。
「んじゃ!行動開始ッス!なにかあったら携帯で連絡な!」
誰もいいとも何も言わないうちに、ティーダはヴィンセントの腕を引っ掴むとレッド]Vを促して村の中へと入っていってしまった。
何も言えなかった俺は半ば呆然とその後姿を見て……エッジを出立する時のことを思い出した。
『ティーダ。乗るか?』
『え?えっと……その……今回はいいッス。その……悪いしさ!』
断られたのは初めてだった。
以前だったら……まあ、そんなに気にしなかっただろう。
だけど少なくともショックを受けたのは……ティーダの『悪いしさ!』が、ユフィをちらりと見ながら言われたことだ。
……完璧に勘違いされている。
初めに訂正すればよかったんだ。
けれど、ユフィがあの後ティファたちが帰ってくるまで居座っていて、その後は俺は仕事が入ってしまってしばらくティーダに会えなかった。
仕事を終えてエッジに戻ってきた時には、『あの時のは誤解だ』などと言い出すタイミングは完全に逃していて……。
そうこうしている間に、リーブからの要請で突然にユフィとヴィンセントが迎えに来た。
ちょうど仕事もひと段落していて、ティーダとどこかへ連れて行ってやるかと思っていたときにだ。
途中でコスモキャニオンを経由するからと、レッド]Vに挨拶がてら会いに行ったら手伝うと言ってくれて。そしてそのままここまで来たのだが……なんてことだ。
ティーダは完全に俺とユフィのことを勘違いして、無駄な気を廻してくれた。
「……なにぃ〜?あんた達、喧嘩でもしたの?」
「……お前のせいだ……」
思わずでた言葉に、ユフィは目を丸くし、その後にやりと笑った。
しまったと思う。ユフィのこの笑いはあの時と同じ、完全に面白がっている。
「へーほー?ふーん?なるほどなるほどぉ」
「……さっさと調べるぞ」
「はいはいっ!行きましょダーリン!」
「いいから離れろ」
しがみつくユフィの頭を掴んで、ぐいっと引き離した。
これ以上誤解されるのは勘弁してもらいたい。
いや、早急に誤解を解きたい。
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