小説 | ナノ
life -7誕- A
『……8月11日、その日一日……俺に時間をくれないか?』

そう言ったときの俺は、間違いなく浮かれてたんだろう。
もう数える気もなくなった誕生日。

少年期はそんな余裕なかったが、星の命を巡る戦いが済んだ後はもう時の移ろいなど半ばどうでもよくて。

あれから2回あった誕生日は仲間に祝われながらも、どこか居心地が悪かった。
ありがたいとは思うけれど、祝われて初めて『ああ、誕生日だった』と思い出すレベルだ。

なにしろ誕生日なんて気にもしないから普通に仕事を入れてしまって後でティファに怒られたりもした。
仕事をたまたま入れていなかったが、なんとなく家に帰らなかったらサプライズで誕生日会を開くつもりだった仲間に後日怒られたとか。

そんなのだったんだ。

だけど今年は、自分の誕生日を忘れておらず真っ先に、『誕生日はティーダと過ごしたい』と思った。
だから8月11日は絶対に仕事はいれないとして、ティーダにもその日をあけて欲しいと頼んだ。

ティーダは不思議そうな顔を一瞬したけれど、いつもの笑顔で『いいッスよ!』と笑ってくれて……それだけで十分だと思った。

自分からはティーダに『誕生日だ』とは言わなかった。
けれどまわりがあれだけ騒いだのだから、ティーダも分かっていることで、それに昨日だって早いけどと言って仲間が集まり、祝ってくれた。
だから、ティーダも俺が誕生日だって知っているはず。


正直に自分の欲を言えば、ティーダにとびきりの笑顔で『おめでとう』と言われたい。
そうすれば、自分の存在が本当に価値のあるもののような気がして……いや、それを確認できると思うのだ。

我ながらティーダに依存している。
ティーダが傍に、自分の特別な存在で居てくれることを心から願っている。
好かれていたいと、特別に好かれていたいと心から想ってる。

ティーダの笑顔が、ティーダが傍に居てくれることが俺に取ったら最高のことだと……そう思っているけれど……。


「ティーダ……今日はどうしたんだ?」
「なにがッスか?」

そう言って浜辺の砂をつま先で蹴るティーダは張り付いたような笑顔で俺を見てる。
その笑顔は偽りだらけで、ティーダがなにかを我慢して笑っているって言うことがよく分かるものだった。

伊達に、ティーダだけを見てきたわけじゃない。
ティーダが本当に笑いたいかどうかくらい、簡単に見分けられる。

「具合が悪そうだ。……元気がない」
「そんなことないッスよ!」

ほら見てとばかりに腕を振ってみせるティーダに、俺はもの悲しくなった。
今日はずっとティーダと共に居たいと願ったのは俺だが、ティーダが具合が悪いのを無理させてまでいたいわけじゃない。

「本当に大丈夫ッスよ。クラウドは心配性ッスね」

そう言って力なく笑うティーダに、俺の心は冷え込むばかりだ。
明らかにティーダは平素の状態ではないというのに、それを隠すようなことをされて喜ばしいはずがない。

今日を、無理に笑って過ごそうとするティーダは……おそらく、俺の誕生日だからと気遣っているのだろう。
具合が悪いのに、無理はして欲しくない。
ティーダが辛そうにするくらいなら、今すぐ戻って安静にしていてくれた方がいい。

傍に、いられるならなんだっていいんだ。
笑顔でなくてもいい、ティーダが楽な状態でいて欲しい。

「……ティーダ、別荘に戻ろう」
「え?なんで?」
「いいから行くぞ」

そう言って、ティーダの手を引いて浜辺を別荘に向けて歩く。
今日、選んだ場所がここでよかった。

あそこならば寝泊りできる環境があるから、ティーダを休ませてやれる。

本当は別にここじゃなくても良かったのだ。
出発の時にティーダに聞いたように、ティーダが行きたいところでよかった。

ティーダの行きたいところに行って、楽しそうにしてくれれば俺はそれで満足だ。
けれどティーダは俺が選べというから……俺なりに考えて、ティーダが好きそうなところを選んだに過ぎない。


別荘の前の浜辺を歩いていたのだからすぐに着いた。
着いたらばそれこそ真っ直ぐにベッドルームへとティーダをつれ、そのまま柔らかいスプリングへと横たえさせる。

ティーダはずっと戸惑ったような顔をしてたけど、ベッドに寝かされたのに驚いたのかおたおたと視線を巡らせて、それから俺を上目で見つめてきた。
その姿に、どきりと鼓動が一つ大きくなり、体に熱が生まれる。

「く、クラウド……?」

僅かに頬が赤いのは、ティーダが具合が悪いからだろうか。
それとも、俺が考えたような昼間には少々早い行為をティーダも想像したのだろうか。

……何を考えているんだ。
今は、ティーダを休ませるのが先決だろう。

「具合が悪いなら、大人しく寝てろ。なにか、飲むものを持ってくる」

なるべく平常を装い、俺は安心しろと伝えるようにティーダの頭を撫でた。
けれどティーダから向けられる目は驚いたようなもので……。

「え!?ぐ、具合って……いやいや!悪くないって!勘違いッスよクラウド!」

なおもそういい募るティーダに、俺は溜息をつく。
心配かけさせまいという心は悪くはないが、される側は気が気じゃない。

「……無理するな。今日はずっと、沈んでいるだろう。……具合が悪いのに、俺に無理して付き合うことないぞ」

そう言って体を起していたティーダをもう一度横たえようと肩に手を置いたが、ティーダはぶぶんと首を振ると横になるまいと体に力を入れてくる。

「ティーダ?どうしたんだ」
「違うってクラウド!俺は元気なんだって!」
「……お前がいつもと違うことくらいわかる」
「だから……だから……違うんだってば!!」

違う違うというティーダの顔は必死で、俺は首を傾げた。
体調は本当に悪くないのだろうか。

「じゃあ、どうしたんだ。……悩み事か?」
「……えっと……」

言葉を詰まらせたティーダに、『ああ、そっちだったのか』と息を吐いた。
体調が悪くないというのには安心したが、ティーダの元気を奪うような事柄に少々嫌な気になる。

その悩みが、俺と一緒にいる間もティーダの思考を奪っていたのかと思うと……自分の独占欲の強さに驚くばかりだ。

ティーダとずっと一緒にいられればいいなんて、思えば強欲だ。
ティーダの時間、全てが欲しい。

俺の隣で、俺に向けて笑っていてくれとかもう病気だ。

「……なにが心配なんだ?」

なるたけ優しく聞こえるように気を遣いながらそう言って、ティーダの頬を撫でた。
ティーダは右往左往と視線を巡らせて、そして俺を見て……くしゃりと顔を歪ませる。

「ごめん」

呟かれたその言葉の真意が測れずに俺が眉を寄せた瞬間、ティーダはがしりと俺の腕を取ると、『ごめん!』と声を荒げて謝った。

「ごめん!クラウド……ごめん!!俺……俺……!!」
「……落ち着けティーダ。どうしたんだ?」

『何があった?』と背中を撫で、落ち着かせようとすればティーダはちょっとだけ迷って……俺にぎゅっとしがみついてきた。

それが、ティーダが困っている状態にもかかわらず不謹慎にも嬉しいと感じてしまう。
温かいティーダの体温を味わうように、その身をそっと抱きしめ返す。

「……クラウド……俺……」
「……ああ。どうしたんだ?」

そう言って抱きしめながらも背中を撫で続ければ、ティーダは何回も深呼吸をする。
そんなに言い辛いことなのかと、ティーダになにがあったのかと俺はティーダの見えないところで眉をしかめた。

そう言えば、ティーダは夕べから元気がなかったような気がする。
またユフィに余計なことでも言われたのだろうか。

「………プレゼント……」
「ん?」
「……プレゼント。用意してないんだ……」

ぐすんと鼻を啜る声が俺の肩口から聞こえ、それからティーダの放った言葉を反芻した。

プレゼント。用意してないんだ。

「……今日の様子がおかしかったのは、それが原因か?」
「……っス」

こくりと頷かれ、俺は大きな溜息を吐いた。
なんだ、そんなことだったのか。

俺はてっきり、もっと大事かと思った。

「ご、ごめん!お、俺……折角の『おたんじょーび』なのに!」
「ああ、いや。気にするな。プレゼントなんてなくてもいいんだ」
「でも、でもさ!」

俺の溜息にびくりと反応したティーダはそれこそ必死な顔で謝ってくる。
プレゼントを期待するような歳でもない。そんなの気にする必要はない。

それに……。

「俺は今日、お前の時間をくれと言ったはずなんだが」

すでにプレゼントは貰っている。
今日はずっと二人で居るために、邪魔が入らないような場所にまで来たというのに。

その言葉に、ティーダはぽかんとして……それから頭をことりと傾けた。

その幼い仕草に、俺の中の熱がまたぐっと高まる。
ティーダの様子から見れば、『プレゼントを用意したかったけどできなかった』と解釈すべきだろう。
そして、ティーダは体調不良ではない。

……ちなみに、今は二人してベッドに腰掛けている状態だ。

ぐらつく理性に俺は体が震えそうだが、ティーダは相変わらずどこか不安げな顔をしている。
ここで欲望のままに行動するわけにはいかないだろう。

第一、まだ昼間だ。


「……そんなのって『おたんじょーび』のプレゼントになるんスか?」
「さあな。でも俺が欲しいと思ったのはお前の時間で、お前はそれをくれたんだ。俺が満足してるなら、いいんじゃないのか?」
「……わかんないッス。だって、ティファとかはちゃんとした物をプレゼントしていたじゃないッスか」
「ん……そうだが……」

別にものに拘るわけじゃない性格だ。
気にする必要はない。
まあ、ティーダから何か物を貰ったら貰ったで嬉しいことには変わりはないが。

「俺……『おたんじょーび』ってよく分からなくてさ。昨日、皆で祝ってるの見て、初めてどういうことする日なのか分かったんだ。……その……プレゼントあげることとかさ。でも、気づいたのはもう夜で、今日は朝早くから出てきたら……その……もう、用意する時間なくって……」

もごもごとそう言うティーダに俺は首を傾げた。
ティーダの話では……まるで……。

「……ティーダの世界では、『誕生日』を祝わないのか?」
「……ん?『たんじょーび』?『おたんじょーび』のことだよな?」
「……ティーダ。『誕生日』の意味ってわかってるか?」
「皆でお祝いするんだろ?」
「なんで祝うかはわかるか?」
「………さあ?」

首を傾げたティーダに、それで納得した。
ティーダの世界では『誕生日』という概念がないのか。

「……『誕生日』はその人が生まれた日のことを差すんだ。俺は、8月11日に生まれたから、今日が『誕生日』なんだ」
「……生まれた日。あ、『たんじょーび』って誕生した日ってこと!?」
「そうだ。そしてこの世界では『誕生日』を生まれてきておめでとうという意味を込めて祝うんだ。『誕生日』を向え、また一つ歳を重ねることを祝うんだ」
「へぇー!」

キラキラとした目でそう返事をするティーダに、俺はやや不安になる。
ティーダのこの反応からすると、本当にティーダの世界には誕生日がないことが明白だからだ。

「……その、ティーダ」
「なんスか?」
「ティーダの世界には『誕生日』ってないのか?」
「ん?どういう意味ッスか?」
「……ティーダは自分の生まれた日を知っているか?」
「え?えーっと、知らないッス」

はっきりと帰ってきた言葉に、俺は内心動揺した。
それは当然、ティーダの誕生日を祝うつもりでいたからだ。

なにか喜ばれることをしてやって、喜ばれるものを贈ってやろうと密かに楽しみにしていたからだ。
けれど、『誕生日』を知らないなら祝いようがない。

「……ティーダの世界では、いつ歳を重ねるんだ?」
「えっと、新年だよ。新しい年を迎えた一月一日に、一斉にみんなが歳を取るんス」
「……生まれた日は、その日じゃないんだよな」
「ん。確か、春か夏か秋だったはずッス」

随分と範囲の広い話に俺は眩暈がしそうだ。
それじゃ本当にいつ祝えばいいのか分からない。

ティーダの世界にあわせて、新年に祝えばいいのだろうか。

「……それにしても……本当にごめんな」
「いや、文化として知らなかったのだろう。それは仕方のないことだし、さっきも言ったとおり、俺はもう貰っているつもりだ」
「……でもさ、本当はもっと前にティファたちに『誕生日』の意味を聞けばよかったんス」

そう言ってしょげかえるティーダは、俺の誕生日を祝ってやりたいと伝えてきてくれている。
それだけで十分なのだが、きっとティーダは納得しないのだろう。

……だが、そう思ってくれることも嬉しい。

「ティーダ」
「わっ!」

堪らなくなって、ティーダを抱きしめてベッドに寝転んだ。
突然のことにティーダは驚いたのか、目を丸くして俺を見てる。

そんな子供みたいな顔も、可愛い。

「……クラウド?」
「……俺は、お前が傍に居てくれればそれで十分だ」

そう言ってもむすりと口を尖らせるティーダにくつくつと笑いが漏れてしまう。
ぎゅっと抱きしめれば、そろそろと背中に腕が回り、すりっと胸に頬を擦り付けられた。

「……クラウド、誕生日おめでとうッス」
「ありがとう」


まだ少しだけ納得いかなそうなティーダだったが、いつもの笑顔だ。
それを見れば、広がるのは幸福感。


……それと、俺の理性を侵食する、熱だった。

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クラウド誕生日おめでとう!
ティーダの誕生日はわからないので、スピラは和風っぽい感じがしたので昔の日本の風習にあわしてみました。
いつかティーダの誕生日ネタもやりたい。
bkm
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