小説 | ナノ
life -7誕- @
※Lifeの設定です。なお、二人は既にできあがっているという時間軸です。

『…8月11日、その日一日……俺に時間をくれないか?』

8月初めに、クラウドにそう言われた。
クラウドのその言葉の意味が分からなくて、でも別に断る理由も無かったから『いいッスよ』と答えた。
その日は、ティファに言って家事をお休みさせてもらおう。

マリンちゃんたちのご飯とかは、温めればいいものを作っておいてさ。
マリンちゃんもデンゼルもしっかりしてるから、鍋を温めるくらいなら普通にできるはずだ。
ご飯の時だけでも、ティファが様子見てくれれば問題ないはず。

俺が思ったのはそれだけで、なんでクラウドがそう言ったのかなんて約束の8月11日の前日の朝になっても分からなかった。

いや、クラウドがその日に拘った理由はマリンちゃんとかデンゼルとか、ティファにそれとなく教えてもらったんだ。けど、その意味を正しく俺が理解できなかっただけの話。

本当に直前まで理解ができなくて、やっとなんとなくだけど理解した時にはもう遅かった。

(ああ……どうしよう……)

そう思いながら、俺はどうにもならない現実に直面してて。
立ち尽くした状態で、フェンリルの整備をしているクラウドを見ていた。


今日は8月11日。
クラウドの『おたんじょーび』ッス。

そのことを教えてくれたのは、ティファだった。
いつだったかな。
そうだ。クラウドに『8月11日に時間が欲しい』と言われたから、その日は休ませて欲しいと言った日だから……8月2日だ。

11日から考えると、一週間以上前の日。

俺がそう伝えるとティファはくすりと綺麗に笑って『そっか。クラウドの誕生日だもんね。いいよ。二人で過ごしなよ』と言った。

それから、『じゃあ今回のお誕生日会は前日にやろっか。ごちそう作らなきゃね!』と続けた。
その話にマリンとデンゼルが嬉しそうに笑って、『大きいケーキを作ろうね!』と俺の手を握る。

その皆様子に、『おたんじょーびッスか?』と聞けば、皆は『知らなかった?クラウドのお誕生日は8月11日だよ』といってそれは嬉しそうに、幸せそうに笑った。

そこで聞けばよかったんだ。『おたんじょーび』ってなんですかって。
そうすれば、もっと色々時間があって、もっと色々考えられたはずなんだ。

どうすればいいのかとか、もっと、もっと。

「ティーダ、準備できたぞ」

そう言って振り返ったクラウドはいつもより柔らかい雰囲気で、今日をとても楽しみにしているということがひしひしと伝わってきた。

クラウドが嬉しそうなの、俺も嬉しいッス!!

そう思うけれど、俺はこの先に待つ暗い未来の展開に憂鬱になる。
だから、どうしてもっと早く知ろうとしなかったんだろうか。

「ティーダ、どうした?……具合でも悪いのか?」
「ええ!?いや、元気ッスよ!」

クラウドの顔が心配げなものに変わったので、俺は慌てて首を振ってフェンリルに走り寄った。
だけどクラウドはやっぱり俺の様子を伺うような目をしてる。

今日はクラウドの『おたんじょーび』なんだ。
この日は……よく分からないけど、きっと笑顔で、嬉しそうに過ごすべき日なんだ。

だって、夕べに仲間で集まってやった『クラウドの一日早いおたんじょーび会』って奴ではみんな笑顔で嬉しそうにしてた。

クラウドだって、困った顔を戸惑った顔をしてたけど……嬉しそうだった。

今日はクラウドの『おたんじょーび』で、おめでとうって言って、クラウドを喜ばせる日。お祝する日。

昨日、皆の様子から俺がなんとなくだけど『おたんじょーび』について理解できたのはそれくらいのことだ。

『おめでとう』って言って、『はい、プレゼント』って言って……お祝いの品を渡す。
俺が昨日知った、『おたんじょーび』の慣例っていうのはそんだけ。

「本当に大丈夫か?」
「大丈夫ッスよ!ほら、行こう!どこに行くんスか?」
「どこでもいいんだが……ティーダはどこに行きたい?」
「え。いや……俺じゃなくってさ!クラウドが決めろよ!クラウドの『おたんじょーび』なんだから!」

俺がそう言えば、クラウドはやっぱりちょっと困ったような戸惑ったような顔をしたけど……それでも嬉しそうだった。

その表情に、俺は泣き叫びそうなくらいの後悔に駆られる。

「じゃあ……海がみたいから、コスタ・デル・ソルのほうに行くか」
「うッス」

フェンリルの後ろにまたがり、落ちないようにとクラウドの腰にしがみつく。
クラウドはハンドルを握る前に一度、俺の腕を撫でて……それからサングラスをかけるとフェンリルを走らせた。

クラウドのちょっと仕草に俺はどきりと鼓動を高鳴らせる。
そのたびに、『ああ、俺ってクラウドのこと本当に好きなんだなー』と思うけど、今は好きなくせにこの事態かよと鬱々な気分になってしまう。

だから、もっと早く聞けばよかったんだ。
なんだっけ?聞いたら恥だけど、聞かないのも恥……?あれ、違う気がする。
なんか、似てるけどもうちょい違うはず。

少なくとも、恥ずかしくても聞いとけば今こんなに悩まなかったのかもしれない。
暗い気持ちにならなかったのかもしれない。

折角の『クラウドのおたんじょーび』なのに俺ってば何してるんだか。


『ティーダはクラウドになにあげるの?』
『馬鹿ねティファ!明日のデートであげるに決まってるでしょ?』
『あ、そっか。ふふっ明日楽しみねぇ』

そんな風ににやにやしながら話す、ティファとユフィ。
その言葉に『おたんじょーび会』にいた仲間が皆笑ってて、俺はどこかへ逃げてしまいたかった。

その時にはもう、気がついてたんだ。
『おたんじょーび』には、なにかプレゼントが必須なんだって。



「ティーダ……どうした?」
「……っ!……え?なにー?聞こえないッスー!」
「……いや、なんでもない」

クラウドの心配するような言葉に俺は息を詰まらせた。
ぐるぐると頭の中で考えるのはクラウドのことばかりだ。
今日はこれからどうすればいいとか、なんて謝ろうとか、そんなことばかり考えてる。

『おたんじょーび』なのに、クラウドに心配掛けたくない。
そう思うけど、これからクラウドを悲しませるのだと思うと泣きたくなる。

本当はクラウドの心配そうな言葉は聞こえてた。
でも今日は、嬉しい日で、幸せな日なんだ。
だから、そんな心配そうな声で俺を気遣わないで欲しい。

悪いのは……恥ずかしいから聞かなかった俺なんだから。
bkm
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