言葉にならなかったからで、



「......ゆ、ユウジ...?」

「......」

「こりゃダメっすね。半分ぐらい死んでません?というか毎度毎度ようやりますね」

「こら財前余計なこと言うたらあかん!....ユウジ大丈夫か.....」



周りで白石と財前、謙也の心配そうな声が聞こえる。....ってまぁ約一名を除いて、やけど。
白石が俺の顔をあげさせようと手を伸ばしてきたが俺は首を振った。こんな顔、誰にも見せられへん。








小春に拒絶された。いやもうそれははっきりと。
いつも通り好きやでと言った俺に、小春は少し困ったように笑った。いつもと違う小春の行動に背筋が凍る。いつもなら小春はここでばっさりと俺を振るのに。
不思議に思って首をかしげると、一息置いて、ユウくんと静かで、でも優しい声で言葉を紡いだ。きっと小春の言葉は俺にしか聞こえてなかった。




「ユウくん、好きって言ってくれるのは嬉しいで。でもな、きっとそれは___」





そして小春が俺の目の前で首をふった。やから俺以外のみんなは俺が振られたと思って振られたことに落ち込んでるんやとおもってる。
って、まぁ実際振られてんけど。
でもそのことより俺にとってみれば小春の言葉のほうが実はこたえてたりする。





ぼろぼろと猶も溢れ続ける涙は止まることをしらない。
部室の床にいくつもの斑点ができていく。




「.....あかんな、ユウジ今日はもう帰り?こんな状況でテニスさされへんわ」

「本間やな。ケガしたらあかんし、白石の言うとおりやで。」

「ええな、ユウジ?」



白石の手が俺の頭を撫ぜる。その温もりのせいで余計に涙がとまらんくなる。くそ、あほ白石。もっと泣きやまれへんやん。
俺自身今日はもうあかんと思ってたから、白石の言葉に素直にうなずく。いつもやったらもうちょっと余裕があるから意地でもやるっていうんやろうけど、今日は本間に無理や...




「....部長....」

「なんや?財前」

「この人1人で帰すんも危なないですか?ぐずぐずやし事故ったりするんやないですか?」

「え、」

「たしかにな...う-んどうしよっかな...」

「俺、送ってきましょか?」




珍しく心配そうな声色の財前に謙也がおどろいたようなしぐさを見せた。変なの、らしくないでひかる-。
....財前がこんな反応するくらい周りから見て俺、やばいんかな。



「や、ええで....1人で帰れるし。」

「あ-、あかん余計不安になってきた....」


涙をぬぐって鼻をすすって顔をあげた俺を見て白石は一層不安そうな顔をした。
なんやねん、俺が大丈夫や言うてるんや、不安ってなんやねん。



「やっぱ俺送ってきますよ、送ったらすぐ戻ってきますし」

「でもなぁ-..今日ダブルスのメニューするつもりやねん。次の試合に向けて謙也とやってほしいし....」

「......謙也さんのあほ

「おまっ!」

「んじゃぁ俺が送っていってもよかと?」




声が一つ、増えた。
おどろいて振り向くと入口のところに千歳がたっていた。あれ、こいつ今日きとったっけ?
というかどいつもこいつももっと俺の言うこともっと尊重せぇっちゅうねん。



「千歳お前自分の練習はどうすんねん?」

「あ-、実は今日ラケットもなんも持ってきとらんと。ははは...」

「何しに来てんなもう.......わかった、たのんだで。」

「じゃ、ユウジくんこっちきなっせ。」



そんな訳で結局おれは千歳に連れられてかえることになった。
まだ泣きやめんでいる俺を見て、一瞬千歳の目の色が揺らいだきがした。







「ユウジくんそろそろ泣きやんで欲しか....赤くなっとうよ」

「....ん、」



困ったように眉を八の字にした千歳が俺の涙をぬぐった。と、いうか千歳と一緒にかえるとか初めて、や。なんか変なの。
俺の荷物をもった千歳が俺の数歩まえをあるく。からん、と下駄特有の音が微かに響いた。


千歳は、やっぱり不思議や。送る、って言いだした理由もわからんし、まず本間になんで今日突如学校に現れたんかもわからん。
俺が泣いてる理由も聞いてこうへんから、俺にとっては助かるんやけど。本間に、変なやつ。



「ユウジくんはわらっとる方が似合っとるとね」



そう言って千歳は笑った。
その笑顔に、なんでか知らんけど、少し胸がざわついた。小春にあの言葉を言われた時のような、胸騒ぎ。なんや、これ...?



「え-っと....ユウジくんが家ば.....」

「あ-、あそこ...端から二番目の....って、千歳目、悪いんやっけ?」

「あんま見えんと。熊本おるときに怪我してもうてね。」

「そっか....」



たしか、親友との試合で怪我したとかそんなんやったような気がする。前に小春がそんなこというてたし。
思わず黙ってしまった俺に千歳は少しこまったように笑って、俺のバンダナを突如下にずらした。



「っちょ!ちとせ!?お前なにすんねん....!」



目隠し、のように俺の視界を奪う形になって、あわてて首まで下す。
と、同時に聞こえた、俺の知らない千歳の静かな、声




「ばってん...見たくなかもんははっきり見えると。」



驚いて千歳を見れば、なんでもなか、と悲しそうに笑った。なんでか、俺まで悲しくなって、また泣きそうになって、思わず俺より一回りほど大きな掌を握り締めた。
少し目を見開いた千歳に、あかん?と反射的に尋ねると、よかよとすごく優しく笑ってくれた。千歳のその笑顔になぜか、ひどく安心した。





 


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