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とある時代のとある場所。人々の心は、汚れきっていた。見るに堪えないほど腐敗して。
しかし誰一人としてそれに気づかない。金さえあれば、なんでも手に入るのだ。金がなくては生きていくこともままならない。
金こそが全て。人は金で幸せになれるのだと思い込んで。
いつしか自分の中にあったはずの綺麗な心が、もう手の届かないところにいってしまったことさえしらずに彼らは笑う。



原型こそは保っているものの何もかもぼろぼろな一つの小さな家屋。窓ガラスにはひびが入っておりところどころ割れて中へと通じている。
そんな家屋に背を預けている1人の少年がいた。


「...青い、な。」

少年はそう呟いて、空を見上げた。青く青くどこまでも澄んだ空。眩しく輝く太陽に目を細めた。
その少年は自らの金髪を輝かせながら無意識のうちに手を太陽へと伸ばした。
掴めるはずなど、ないのだけれど。もしこの手が太陽を掴めたとしたら、きっと何かが変わるだろうにと思いながら。


「幽、ちょっと待ってろな。」


彼は大きなため息を一つついてから、弟の頭に手を置いて笑った。
幼い弟が頷いたことを確認した後、彼__静雄という名の少年は街へと一歩足を踏み出した。



静雄が生まれるもうずいぶんと前から世界は崩壊していた。
統治するものもおらず、皆が皆自分の好きなように、自分の望むままに行動する。だから、世が乱れるのは当然のことなのだろうと静雄は自分の住んでいるところとは正反対と言えよう綺麗な建物を横眼でみながら思う。
そしてそのまま、ある店の前まで歩みを進めて。ごく自然な流れで、店先に並べられたパンに手を伸ばし___


盗んだ。


二つのパンを握り締めて静雄は来た道を全力で走って戻る。遠くで大人が叫ぶのを聞きながら、静雄は走る。走って走って...風のように人の間を抜けて...
静雄を捕まえようにも、その大人が彼に追いつくのは一見して不可能であった。醜く太ったおとな。自分の欲に忠実な愚かで醜い大人...
静雄は走る。金の髪が風で揺れる。静雄は自分の行動のよしあしはわかっていた。でもこうでもしないと空腹はしのげない。
静雄は生きるために盗みを覚えた。いや、覚えざるを得なかったのだ。
静雄には親が居ない。静雄と幽を残して二人は病でこの世を去ったのだ。
もし自分1人だけが残されたのだったら静雄は迷わず自分で自分の命を絶っただろう。でも幽が居た。自分の唯一残された家族である弟が居た。
幼い弟を1人残して死ぬことも、幼い弟を手にかけることも静雄にはできなかった。


人は盗みは悪だという。でもそれが生きるため、ならばどうなのだろうか。
そうすることでしか生きられないのならば?彼らが苦しい暮らしをしているのが悪いというのだろうか。
彼らがそんな暮らしをしているのは、誣いて言うならば世のせいであろうに。


だから、静雄という少年の心は汚れなかったのかもしれない。
心を汚した大人たちが作る世界の中でも、決して静雄の心は汚れはしなかった。


それでも、静雄は時として思う。
この行動に天罰が下るならば、それもそれでもいいと。
天国なら無論万々歳だが、地獄ですらここよりましならばいいのではないかと。
腐りきった現世。ここはある意味では地獄よりもひどい場所だと静雄は成長するにつれて自然と心に刻みつけていた。
ここから逃れられるのならば、行先は何処でもかまわなかった。


『人間は皆平等』

そんな偽りを堂々と述べたのはどこ誰なのだろうか。
そんなことは絶対にないのに。人が皆平等であったらどうして静雄や幽と街で暮らす人々にこんなにも差があるのだろうか。
かといって静雄は決してあのような大人にはなりたくないのだが....

そんなことを口にするのはペテン師に過ぎないと、静雄は大人たちを振り切り荒い息を整えながら1人呟いた。


「腹、減ったな...幽も腹減ってるだろうな...」


と、そのときふと遠くから大人の声が聞こえた。まさかここまで追ってきたのだろうかと静雄は思わず身を強張らせたが違った。
声の出所は静雄の前方からであった。

蟻の行列のような人だかり。そのほとんどは子どもで、おそらく彼らはどこかから売られてきたのであろう。
先頭を歩く男の目には欲しか映っていなかった。無性に腹立たしくて、無性に悲しくて静雄は再び走り出した。

この子どもたちは食われるのだ。汚い大人に。その事実が、そのどうしようもない事実が静雄の心をかき乱した。


しかし静雄の足は行列を全部抜く前に歩みをとめた。
白い肌に黒い髪をした少年。その少年を瞳に映した瞬間静雄はそこで立ち止まった。
少年の赤い瞳には涙の膜は張っていなかったが静雄はその瞳の奥に涙を見た。


太陽の光が真上から降り注ぐ昼間のどこかの道の上で静雄はパンを両手に握り締めたままその少年に目を奪われて立ち尽くした。



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とりあえず前半です← 
後半はまだちょっとまとまってなかったり.....
この曲をご存知な方にはもうばれてるとおもうのですが
そうですまたもや暗い話です!!(
明るい話が書きたいな...


 


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