ぐしゃり、と嫌な音が小さく響く。その発生源は勿論俺の体で。
痛いとかそういう感情はあまりの衝撃にどこかに吹き飛んだ。吹き飛ばされながら自分にぶつけられた物体を確認して苦笑いを零した。


「ごみ箱って.....ちょっと嫌なんだけど。」


人に物を投げつけるのなら、最低限衛生上問題のないものにしてほしい。コンビニのごみ箱だなんて、一体何が入っているかわかりやしないのに。
と、心の中で不満を言ったところで数十メートル先に居る金髪のバーテン服には届かない。

本当、君だけは愛せないねと小さく呟いてみたが、その声が俺自身に届く前に俺の意識は途切れた。








次に気がついた時、ある意味そこは見知った天井をした部屋、だった。
腕に突き刺された点滴、血の滲んだ包帯、全身が痛い。とりわけ頭も。しばらく池袋最強について1人不満を漏らしていると音を立てずにドアが開けられ、視界の端に白衣がちらついた。


「......一応ノックぐらいしてくれないかな?さっきまで俺寝てたみたいだけど.....」

「気がついたみたいだね。それと私自身の名誉のために言わせてもらうけれどノックはしたよ、きちんと3回。」

「...え?嘘でしょ、....全然気がつかなかったよ。」

「起きてすぐ考え事とは....ちゃんと体は休めた方がいいよ。今回はどうやら頭も打ってるみたいだからね。」


安静にしてないと、僕が傷口開くよとメスを片手に微笑む新羅に俺はため息を一つついて再びベットに背中を預けた。
その様子をどこか嬉しそうに眺めながら新羅はてきぱきと汚れた包帯を取り換えた。


「それにしても珍しいね、君がここまでやられるのは。」

「ちょっと、ね。取引で色々とストレスが溜まってて....。」

「......どうして池袋を避けて帰らなかったんだい?」

「避けたくても取引場所が池袋だったんだよ、本当についてない。」


それは災難だったねと、少し棒読みで言う新羅のわき腹を小突いてから俺は重い瞼を、閉じた。
さらりと俺の髪を撫でる新羅の手が暖かくて何故か安心した。






その次の日、新羅の許可も下りて俺は新宿に戻った。ソファーに腰掛け一息ついたところで俺の事務所兼自宅のドアが開け放たれずかずかと人が入り込んでくる。
少なくとも一日近く音信不通だったのにもかかわらず、なんの表情ひとつ変えずどさり、と音を立てて荷物を置いた俺の優秀な秘書に少しばかり悲しくなった。


「おはよう、波江。ねぇ、心配したとかなんかそういう言葉はないの?」

「.....生きてたのね。てっきり静雄に殺られたのかと思ってたわ。」

「.....それ、仮にも雇い主に言う言葉....??」

「あなたのおかげで昨日は大変だったのよ。わかってるの?」


波江の冷たい言葉が俺の心にぐさりと突き刺さるも、もはやこれも日常的会話と化してきたなぁと笑すらこみ上げてくる。
そんな俺の様子に、大丈夫そうねとだけ呟いて波江はキッチンの方へと消えて行った。

お気に入りの椅子に腰かけ、パソコンの電源を入れた。
一日、空いてしまった。他人からしてみればたかが一日かもしれないが情報からしてみれば一日も空いてしまった。
一体どれだけの情報が昨日流れたのだろうかと一通り目を通す。特に時間を争うようなことはなくて、思わず安堵のため息が漏れる。
依頼のメールも全て返信し、昨日かかっていたらしい四木さんからの電話も折り返す。
九十九屋からの《平和島静雄にやられたらしいな、生きてるか?》という皮肉たっぷりの言葉にだけは何の反応も返さなかった。



今、シズちゃんはどうしてるのだろうか。と波江が出してくれた紅茶を飲みながらふと、思う。
俺がしばらくからかいに行けないと分かっている以上やはり楽しげに仕事でもしているのだろうと思うと少し、腹が立つ。
シズちゃんは、ずるい。
人間じゃないくせに、人間みたいにふるまう。ナイフを持ってしても大した傷がつかない体を持っているくせに、たまにすごく傷ついたような顔をする。
シズちゃんは、変わった。
来神のときは、孤独だったはずなのに。まぁ、新羅やドタチンは一緒だったけれども、好んで彼に近づこうとする者はいなかった。
皆平和島静雄を恐れた。なのに、今はどうだ。
トムさん....は、まぁ別として。サイモンやあのロシア人の女、茜ちゃん、狩沢や遊馬崎たちが居る。
シズちゃんはもう、1人じゃ、ない。

シズちゃんと俺は同じような存在だったはずだ。
普通の人とは、どこか違う、異質な存在。だから、同じ道を歩いて行くもんだと思ってた。
人とかかわりのない、道、を。
でも、今振り返ってもシズちゃんはいない。もう、どこにも、いない。
俺がこっちにはまりすぎたのか、シズちゃんが人に近づいたのか、それは分からないけど。


孤独なのは、俺の方だと自嘲気味に笑った。
そんな俺の目の前に再び姿を見せた波江は、嫌悪と驚きと、他の何かが入り混じったような表情で言った。


「携帯、さっきからずっとなってるけど大丈夫なの?それともわざと無視してるのかしら?」

「え....あれ、あ、......」

「.....ちょっと本当に大丈夫?なんていうか....色々とらしくないわよ。一体今回は何ぶつけられたの」

「はは、大丈夫大丈夫。多分つかれてるだけだから。」

「なら良いけど。あなたにくだばられると困るのは私だってこと忘れないでよね。….誠二への仕送り減らしたくないの。」

そう言って電話を掛けなおした俺を、波江は考えるように眺めた。
まさか、ね、とだけ誰に言うでもなく呟くと、彼女は何かを振り切るように小さく首を振り、それからはいつも通りてきぱきと資料を整理し始めた。



俺の聴力が急激に下がり始めたのはその2日後、だった。



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あれ、なんかおかしいぞwww
短編書く予定だったよね、?
なんだ、これ.....終わらないwww
 


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