※長編に置いてあるものとは全く関係ないです←
漱石さんのこころパロ
K=シズちゃん
私=臨也さん
お嬢さん=帝人君





「......ちょっと待って、今なんて言った?」

「一回しかいわねぇって言っただろ。」

「今、君............」



帝人くんが好きって言ったよね、と発した言葉は、か細く驚きから少し掠れ、まるで.....。
まるで縋るような声になった。

恋とか、愛とかそんな話はしてなかった。いつも通り二人で部屋に帰ってきて、学問のことに関して意見を述べていた。
そう、どこからどう見てもいつも通りの風景だ。
シズちゃんが..........、そう彼があまりにもごく自然な流れで俺に事実を伝えたから。だからこんな風に落ち着きを失ってしまうんだ。



「本気、なの?」

「あぁ、.....やっぱり気持ち悪いよな。男が男を好きだなんて。」

「や、そんなことはない.....けど」



気持ち悪いなんて、どうして俺が思おうか。同性だとわかっていても止められない恋を不毛なものだと、どうして俺が言えようか。
世界が崩れ、天地がひっくり返ってもそんなことはない。だって俺は、ずっと。そうであった時からずっとずっと。


目の前の平和島静雄という人物を愛しているのだから。







俺はずっと一人だった。家族さえも信じられず、己の中に引きこもり全てを客観的に見て生きてきた。
友人なんていらない、どうせ裏切られて傷つくのが目に見えていると思いながらも一人が怖くて、独り毎日酸素を吸って二酸化炭素を吐き出し続けた。
そんな常闇を生きようとしていた俺の目の前に突如差し込んだ光が、シズちゃんだった。

周りの人間は俺と好んでつるもうとはしない。それは俺が学校創立以来の秀才と言われる事にも一理あったが何よりも人を遠ざけるのは俺のこの目だ。
俺の目の本来黒であるべき部分は赤い。例えるなら鮮紅色だ。動脈から溢れだす、嫌なほど綺麗な赤。これでは遠ざけられても文句など言えない。

だけど、シズちゃんだけは違った。彼は突然嵐のごとく俺の日常を覆した。
俺にまっすぐ向かってきて、怒ってくれたしたくさん楽しいことも教わった。
怪力.....というか、もはや人間離れした力の持ち主なくせに、彼を慕うものもいる。俺は優しいシズちゃんが好きだった。
初めて俺の人生という名の碁盤の上に現れた人物だった。

だから、困っている彼に手を差し伸べた。
シズちゃんは、もとから平和島家の人間じゃなくて、所謂養子だ。だから義父が敷いたレールの上を走る人生だ。
彼が右に曲がろうとしても、敷かれたレールは彼の意思通りには動かない。

彼の意見と平和島家の意見が少し対立し、家からの援助がない彼をここに招いたのは紛れもない俺自身だ。
頼られることが嬉しかった、シズちゃんと少しでも長くいられると思うとそれだけで生きることが楽しくなった。
でも、わかっていたはずだ。ここに初めて招いた時、初めて帝人くんと対面したシズちゃんが俺に見せたことのないような表情をした時。

彼が、帝人くんに恋することなどわかっていたはずなのに。俺は彼をここに招いた。
奇跡を信じた。もしかしたら俺を見てくれるのではないか、と。
何度も願った。シズちゃんの心に芽を出した恋心が枯れ果てることを。


でも、現実は甘くはないんだ。シズちゃんは帝人くんに恋を、した。
男らしくて優しいシズちゃんに、帝人くんが惹かれないわけがない。



「......はは、......っ」

「...い、ざや....?」


嗚呼、終わった。
彼の悪気のない言葉によって。俺の恋は終焉を迎えた。俺が思っていたよりもあっさりと味気なく。
叶わない恋を恨むことなどはしない。俺はこれから目の前で繰り広げられる色恋をただ傍観し、生きるのみだ。

これが運命ならば受け入れるしかないんだよ。と誰に言うでもなく俺は心の中で自分に言いわけをした。
乾いた、単調な笑いが口から漏れる。感情のない笑いとも言えようその声に、シズちゃんは驚いたように眉を寄せ、呼んだ。

俺の名前を、俺の好きな低い声で。
心が、痛い。イタイよ、ねぇ、シズちゃん。



「いいよ、協力してあげる。」

「......おい、お前」

「幸せになれるといいね、頑張ってね。」

「おいって!」


シズちゃんが俺の肩を掴む。部屋に響く大声。はは、こんな時間に大声なんかだしたらみんな起きちゃうよ。
馬鹿だね、シズちゃん。帝人くんに聞かれても俺知らないよ?


「......なんで泣いてんだよ。」

「泣いてる?俺が?....そんなの単なる君の錯覚だよ。」


あははは、と声を上げてまた俺は笑った。
憎いまでに鈍感なシズちゃんと、惨めで罪深い自分を貶すように。


本当は幸せなんか願ってないくせに、それでもなおシズちゃんの前で優しい俺でいたいと叫ぶ心。
俺は結局利己的な人間だ。


「........臨、也......??」


それからしばらくして階段を上る足音が聞こえ、どうしたんですか、と少し不安げな表情で帝人くんがこの部屋のドアを開けるまで
俺は感情のない、壊れた器械のようにただ、ただ笑い続けた。



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長編書くときどっちをKにするか悩んだんですよね〜
結局両方書いてみましたwww
 


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