飽き反芻

飽き反芻_痛みと愛と呪縛 | ナノ
痛みと愛と呪縛


初めて死んだ日からもう5回は死んだ。3回は拷問の末、1回は毒を飲まされ、1回は今から3日前に生き返って直ぐに首を切り落とされた。
今現在首を切り落とされて生き返り、やっと首がつながったところなのだが、彼は私をただジッと見つめるだけで何もしてこようとはせず。何時ものようにどんな拷問をしてやろうかと楽しそうに笑っているわけでもなさそうだ。いつもと違い口元まで隠れる髑髏の描かれた真っ黒の民族衣装のようなものを着ているので確かなことはわからないが。。

拷問しないの?っと聞くのも変だし、それによく考えれば今まで彼が質問し、私が答えるか、彼の独り言を聞くかだった。どんなふうに喋りかけていいか何を話せばいいかわからない。

「仕方ないね」

心底めんどくさそうに彼は私の拘束を外した。何度殺しても生き返る私に拷問する事が面白くなくなってしまったのだろうか。いいのか悪いのか複雑な心境だ。どちらかと言えば飽きられて捨てられやしないかと不安な気持ちの方がでかい。

そんな私の心境も知らずに彼はあのリビングにつながる扉のドアノブを掴んで私を振り返った。

「ついてくるね」

そう言って彼はリビングの方に行ってしまった。慌てて私も椅子から立ち上がりリビングに向かう。部屋から出た私はどうしていいかわからず扉の前に立ったまま、キッチンで水を飲みながらこちらを見てる彼と目があった。

「こちくるよ」

何時もは狂気に満ちた笑みを浮かべ、スプラッター映画に出てくるような卑劣な言葉か私の理解できないことばかりを吐く彼が、なんだかごく普通な短い言葉を話すことに少しの違和感じながらもドキドキしてしまう。
彼の言うとおりにキッチンに行くと彼はおもむろに冷蔵庫を開けた。

「これ以外は適当に食べるね」

そう言ってボトルに入っている紫色の肉片みたいなもの以外は食べていいといった。

―いや、食べてよくても絶対食べないわそれ

そして、冷蔵庫を閉めた後、私にお風呂の場所や寝室を教え、家電の使い方を説明してくれたり、何着かのワンピースと下着まで差し出してきた。少し誰が着ていたものだろうと思ったが、値札のようなものがついている。文字が何語かわからなかったが、数字だけは見知った文字である。

ただ、どうして彼が急に部屋を歩き回っていいと遠まわしに言うような真似をしているのだろうか。

―好きになってきたとか?

自傷気味に思ってないわそれは、好きな人を拷問した挙句、何回も殺しまくるとか。どんな感性してるんだよ。っと自分のことを棚に上げている事には気づかず突っ込む。

「出かけてくるね」

「ぇ?」

出かけてくる?っと心の中で聞き直した。それは、ここから彼がいなくなるという事だ、だが宣言しているのだから帰ってくるのだろうけど、むしろ私に言う必要などないのだけれど、だけど一体どれくらいで帰ってくるのだろうか。帰ってくる気はあるのだろうか。
あの初めて蘇生したとき彼がいなくて感じたちょっとの寂しさより酷い、喪失感。

「おとなしくお留守番してるね、リノン」

彼は何の気まぐれか私の頭を撫でた。
帰ってくるのだと思うと少し安堵と撫でられていることに対して恥ずかしさと緊張で顔に熱が集中していくのがわかる。名前を呼ばれたことによる幸福感とトクトクとなる心臓の音と彼の手が心地いい。

「ぅん」

そう言った私はさながら彼のペットのようだ。
はいと言えばよかっただろうかと少し後悔しながら彼を見たら、彼は少し驚いたように私を見た後、ポケットから携帯を取り出して私に渡した。

「緊急時には連絡するよ」

要するに何かない限りは連絡するなという事だが、携帯なんて渡してもいいのだろうか、私が警察に連絡するかもしれないとか考えないのだろうか。それは私を少なからず信用しているという事なんだろうか。と少し嬉しくなる。

「いてくるね」

もう?もう行ってしまうの?
そんなに直ぐに行ってしまうと思っていなかった私の頭の中は軽いパニック状態だ。
彼はリビングから出ておそらく玄関であろう扉を開けようとしていた。

「ぁ待って」

何をしているんだろうか呼び止めてしまうなんて、ここに来てから自分から彼に声をかける事なんてなかったし、さっきの「うん」という一言ですら初めて死んだ日からなかった会話だった。発してしまったことへの後悔が巡るが、このまま何も言わないというのも彼をおこらせてしまうかもしれない。

「名前、教えてほしい」

いやそれも本心だけど今は、此処は何処とか、出かけても良いのとかいつ帰ってくるのとか他に聞きたいことが山ほどあったはずでしょ。っと自分に突っ込んだ。

「フェイタンね」

すっと彼が目を細めたのがわかった瞬間私の目の前には閉まったままの玄関しか見えなくなっていた。


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