:: ▼幻影くん





 ハンバーガー。それはアメリカで最もポピュラーな食べ物といっても過言ではない魅惑のファストフードである。牛肉とレタス、トマトといったシンプルなものから、最近ではベーコンやチーズを大量にのせるものも出現してきた。
 勿論、ピザも美味しくてダラダラと食べるにはもってこいであるが、ひとりで食べるには難しい時もある。また、1枚が大きいがために場所を選ぶこともある。サンドイッチだとなんだか物足りないこともある。よって私は、ハンバーガーがすきだ。
 ということを言ったら、「ハンバーガー?」という反応。ETは知っていてもハンバーガーは知らないのかと思って笑いながら言い返した。
 すると、なんか映画であったかもとざっとメモリを巻き戻ししているかのような間。ミラージュは、まるで目の前にソレがあって眺めているかのような声音で、興味津々にカーステレオから指差す。


《あ、これか。へぇ、こんなもの食べるのか》

「気になる? 今日買って帰ろうか」

《マジ? Woo, 最高。あ、じゃああれやりたい! ドライブスルー! せっかく車が行けるとこって言ったらそれをやるしかねー! 今ならプライムにも文句言われねぇ筈だ!》


 ドライブスルー。もはや懐かしい。久しぶりすぎるワードを聞いて、ちょっとだけ昔を偲ぶ。そうか、その手があったか。
 人間の私が忘れていたというのに、どうしてその知識を知っているのかはさておき──わくわくしだすミラージュもとい銀色ポルシェ。こんな高級車がマックのドライブスルーを通り抜けることになるのはなんだか微笑ましい。
 文字通り、車が喜ぶのをどうどうと宥める羽目になった。

 ミラージュは、エイリアンだ。突如遭遇し、このように車に変形するたまに乗せてもらっている。人智を超えた機械的な所もあれば、やたら人間臭い仕草をすることもある。今日のように人間の文化を理解しようとしているフシがある。ので、私とのやり取りは基本的にお互いのことを知るような、異文化コミュニケーションのようなものが多い。
 ミラージュとその仲間は訳あって地球に滞在しているそうだが、私は一期一会だとばかりに思っていたのに、ズルズルとスケジュールがずれ込むように、気が付けばミラージュに乗っている。

 というのも、彼がやって来るのだ。私のもとに。
 今日だって、大学から帰るところだった。歩いて、バスに乗って、また歩いて──といったルートに「Hi,lady.今日も乗ってくだろ?」とポルシェが待ち構えているのである。断るにも断れなくて、結局話を聞いているうちにどんどんお互いを知ることになっている。つまり、出会いの頃よりかは、彼がエイリアンだということだって、ポルシェに変形できることだって、特別気にならなくなったということ。
 エイリアンと、こんなドライブスルーをするなんて、いったい誰が想像できるだろうか。飛びつくような高級車を目の当たりにしてクルーがギョッとしたような顔をしていたけど、ひらひらと躱すようにして私はハンバーガーセットを受け取る。
 家に帰ったら食べるつもりだった。けど。「食べねぇの?」ミラージュが催促する。


「シートとか汚しちゃったら嫌だし……」

《別に気にしねえけど?》

「そもそも運転席で食べるのはなんか変だし……」

《俺が運転してんだから気にするんなってのに!》

「ミラージュが何も食べてないのに私だけ食べるのもなんか……」

《オウオウ、こりゃ参った。気遣いがサンキューすぎる。だが俺はへっちゃらなんだ、いかにも人間が好みそうで美味そうな匂いがするけどな。そもそも腹減ってンだろ? 気にせず食えよ》


……ぜったい、今、ミラージュはウインクした。私にはわかる。そんな彼の言葉に甘えるのもなんだか勿体なくて、致し方なくて、帰ったらゆっくり食べるの、と言い張った。
 けらけらとラジオが笑う。ファミレスで流れるような爽快な音楽が流れ出す。それを無視していると、おいおい! 機嫌直してくれよ! と気を引くように、ふらふら蛇行運転するので思わず吹き出してしまった。まったく愉快な車である。



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ドライブスルー Twitterより



2023.09.22 (Fri)


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