(熱い、)

この身体の火照りは別に静ちゃんのことにドキドキしているから熱いんじゃない。
夏が近いから気温が高いから暑いだけであって、誰が静ちゃんなんかに‥

そうやって自分に言い聞かせているだけかもしれない。
嫌いで、嫌いすぎてどうしようもないはずなのに、池袋に来ると何故か静ちゃんのことを捜してしまう自分がいる。

矛盾していることは自分でも分かってる。俺は人間が好きだ!それは自信を持って言い切れる。
だけど、静ちゃんのことは好きになれない。それなのに気になって仕方ない。

「いーざーやーくーん」

背後から声がする、俺の名前を苛立ちを含んだ声が呼ぶ。その声の主は顔を見なくても分かった。
俺は笑みを浮かべて振り返ると、そこにはやっぱり眉間に皺を寄せた静ちゃんが立っていた。

「やぁ、静ちゃん」
「その名を呼ぶなって何度言ったら分かるんだ‥ノミ蟲」
「静ちゃんだってやめてくれないかな、その呼び方」

鋭い視線で睨み据えられる。だけど、俺はそれを嬉しく思ってしまう。
だって、今は今だけは俺だけを見てくれているから‥

「静ちゃん、嫌いだよ」
「あぁ、俺も嫌いだ」
「だから、死んで?」
「手前だけ死ね!」

こんな言い合いは日常的なもの。
でも、いつの日かこんなやり取りが出来なくなるのだろうか‥

そんなことを考えていたら、顔に出ていたみたいで不覚にも静ちゃんに気付かれてしまった。

「‥どうした?」
「え、何が?」

動揺する俺に一歩近付く静ちゃんは穏やかな表情で俺を見ていた。その瞳に釘付けだった俺は一瞬にして間合いを捕られてしまう。

(やばっ‥)

思い切り殴られることを覚悟して目を強く閉ざした。
暫くしても痛みはなく、代わりに何か温かいものに包まれていた。

「し、ず‥」
「らしくねぇ顔すんじゃねぇよ」
「ぇ、」
「調子狂うだろ」

自然に振る舞いたいのに自分が自分じゃなくなってしまう。
その原因は甘すぎる静ちゃん、君で。だから嫌いなんだ。

暑い、熱い‥

(やっぱり熱い、)


速くなる鼓動と火照る身体は‥‥君のせい。



Fin..

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