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なぜオーキド博士が私にナックラーを渡したのか。渡したというより押しつけに近かったけれど。
機械から煙が出ていたこと、転送する前にナックラーがクッションに噛みついたこと。これらから想像するに、おそらくオーキド博士によってボールから出されたナックラーが、近くにあった機械に噛みついたのだろう。研究所においていて、これ以上何かを壊されては困ると思ったのか、たまたま野生であったために仲間にするにはちょうどいいと思ったのか、そのどちらもなのかは分からないが、きっとそんな感じでナックラーをくれたのだと思う。
どんな理由があろうと、オーキド博士がナックラーをくれたことに変わりはない。仲間が増えたことは、素直に嬉しい。
しかし、困ったことに彼は、噛み癖があるようだった。
クッションだけかと思えば、身近にあるものに手当たり次第に噛みつくので、必然的にナックラーはボールの中で過ごすことが多くなった。出すのはご飯の時か、外で特訓をする時だけ。特訓の時でさえ、木に噛みついたりするのだから大変だ。
彼はよく食べ、よく動きまわり、よく噛みつく子であった。これまた個性のある子が仲間になったなあ。今まで一番個性が強かったピカチュウを上回るくらいなんじゃないかと、自分の手持ちに改めて感想を抱くのだった。
午前中を部活に費やしたり補修授業に参加したり、はたまたパトロール中などに出会ったポケモンを捕獲して転送したりしていると、いつの間にやらお盆休みに突入していた。お盆の間は部活がないので嬉しいけれど、お盆に入ったということは夏休みも残り半分となったということでもあり、嬉しい反面焦りも生まれてきた。何しろ、まだ宿題の半分も終わってないのだ。このお盆で半分は片付けないと後がしんどいと分かっているので、嫌々ながらも宿題に取りかかることにした。
そうして迎えたお盆の真っ只中。15日である今日の夜には、お盆祭りが行われる。祭りと言っても、地域の人達が集まって盆踊りを踊ったりするだけである。他にも何かイベントをしているのかもしれないけれど、見に行ったことがないので、実際どんなことをしているのか知らない。特に行きたいと思わないので、今年も祭りに行くつもりはなかった。

「ピカ」

部屋でのんびりしていた時、ピカチュウが鳴き、窓際に駆け寄った。窓枠に飛び乗って、外をじいと見る。
開いた窓から見える景色は薄暗く、太陽の姿は見えなくなっていた。ふらり、とトモカもあとに続いて窓辺に近寄ったので、なんだろうと首を傾げつつ二匹の側に行く。もちろんナックラーはボールの中だ。
二匹の間から顔を出して外を見るも、特に何も変わったものはない。

「何もないけど……」
「ピカチュ」
「あだっ!」

言ったとたん、背中に、ペシンと尻尾ビンタをくらわされた。叩くことないじゃない、と半目でじとーっとピカチュウを見るが、視線を気にする素振りもなく、ピカチュウは窓枠から飛び降りた。
そして机に置いていた二匹のボールをとり、こっちに投げてよこす。

「うわっとと」
「ピ」
「え、なに、出るの?」

当たり前だとばかりにピカチュウは、ふん、と鼻を鳴らした。
暗いのあんまり好きじゃないから、学校帰りとかやむを得ない時以外は、極力外に出たくないんだけどなあ……。
でもポケモン関連で何かあるんだろうから、仕方ないかと、二匹をボールに戻してパトロールの時と同じように準備した。
お母さんには散歩と称して外に出て、自転車に乗って出発。が、どこに向かったらいいのか分からないので、ピカチュウに案内してもらうことにした。飛んで移動するトモカより、ピカチュウのほうが目立たないだろうという理由による人選ならぬポケ選だ。
仕方ないなという面倒くさそうな態度を隠そうともしないピカチュウに、カゴに入るよう促し、その姿が前から丸見にならないようにピカチュウを手前にして、持ってきた鞄をカゴに入れた。
早速、ピカチュウがあっちだと指さした方向は祭が行われているほう。
よりによってそっちか、と若干顔をひきつらせながらペダルを踏み出し、次第に近付いてくる祭の音にびくびくしながら、なるべく人目につかない道の端を無灯火で進む。
彼の道案内のもとに、薄暗い中、自転車をこいでしばらく。

「……え、ここなの?」

万が一誰かが近くにいたら危険なため、声を出さずにピカチュウは頷いた。
山へ入る階段の下に立ち、少しだけ青ざめる。
この階段は、墓地に続く道なのだ。
なんでここなの!しかもこんな暗い時に!
恐怖心からの文句が山ほどあったが、行かないわけにもいかず、道路の端に止めた自転車のカゴから鞄を取り出して、肩にかける。
明るい時ならよかったのに。なんて思いながら、ため息をひとつ。
さっさと行くよとばかりにピカチュウが階段を上り始めたので、置いていかれないようにと私も階段に足をかけた。


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