響け僕らの | ナノ


▽ 27

「今日も山田先生の話長かった…相変わらず声小さいから、音拾うのも相変わらずギリギリだよ…」

『いい加減小ささを自覚して欲しいです…あ、次使います』

「了解。じゃあそっちのミキサーも音量戻しといてー」


校庭班からの連絡を受け、声の小さい山田先生用にしていた音量の調節をし直した。彼女の言う通りもっと声張ってほしい。あと話ももーちょい短く。



雷門中はマンモス校だ。つまり生徒数がものっそい多いために校内で全校生徒集合ー!とかできないもんだから、冬以外は校庭で集会を開く。…が、先生の話とかで使うマイクやらの放送機材を校舎外で使う場合、校庭の端と放送室(校舎内)の二ヶ所で操作する必要がある。ついでにこれらの準備自体も少し難しいというか手間がかかるというか…。

とまあ、そこで登場するのが、現在作業中の僕ら放送委員会(連絡用にケータイ装備中)ってわけだ。
名前からして放送だしね、朝会の準備だけじゃなく体育祭なんかの学校行事やお昼の校内放送などなど放送関係ならばなんでもやるよ!
代々伝わる《仕事に全力・クオリティ重視!〜楽しむ心と機材大事に〜》という委員会目標のもと、雷門中放送委員会の放送関連の知識・技術・おまけに家族度とほのぼの度は年々進化しています。


「よし、後の先生達は校庭班の調節だけで大丈夫かな」

「ですね。ところで先輩、吹奏楽部ですよね?」

「うん、そうだよ?」

「あの、吹奏楽部の顧問って、今北海道行ってるじゃないですか。部活は顧問がいない時は活動禁止って言われてますけど、どうやって活動してるのかと…」

「ああ、主顧問はIn北海道だけど、副顧問の先生がいるからねー」

「ふ、副顧問…!」


はて。放送室班の当番と書いて今日の相方と読むこの後輩ちゃんは、何故に副顧問の辺りで反応したのか。同時に段々近寄ってきてないかなとか思ったり思わなかったり。


「あの、これ、聞いた話なんですけど!」

「うん、とりあえずもうちょい離れようか。それで?」

「吹奏楽の副顧問が、あの、櫻先生だって!」

「へ?」

「ですから、愛想がいいってわけでも無愛想ってわけでもない少しクールなイケメンかつ授業がわかりやすいと評判で体育祭の教師枠種目でまさかの運動神経を爽やかに発揮した校内一のイケメン&女子生徒からの人気トップな教師と名高い、あの櫻先生だと!」

「落ち着いてとりあえず落ち着こう!」


本格的に詰め寄ってくる後輩ちゃん怖いから叫ばざるをえない!
確かに櫻先生は副顧問ですとも、ついでに二回もイケメンって言ってる辺りから察せるように顔立ちも整ってる。でもこんなに人気あったとか知らない、…しかも無愛想?え?愛想とは言わんがあの人めっちゃからかってきたりしますけど!?


「やっぱ本当なんですねしかも生徒をからかうなんて初めて聞きました…!」

「え、僕また口に出し…いや!今回は!今回は出してない!お願い心読まないで!」

「櫻先生、生徒との会話なんて軽くしかしないのにからかって遊ぶなんて!女子生徒みんな羨ましがりますよ!?」

「そしてスルーしないで!てかなにそれこわい…!」


あまり知りたくなかった事実に頭を抱えかけた僕の視界の端に、ひらひらと白いものが写る。ちょうど後輩ちゃんの後ろを通ってやってきたそれは、話し続けていた後輩ちゃんの動きを瞬時に硬直させた上で、 僕の前へやってきた。


「ごくろうさん…と言いたいところだが、なんか喋ってたな?サボりはダメだぞ名字」

「仕事はちゃんとやってますよ!っていうか今のタイミングで来るなんて、噂をすればなんちゃらと…」

「俺の話してたのか」

「そうです。櫻先生のです」


ほんっとなんつータイミングで来てくれたんだか。硬直している後輩ちゃんに声をかけている目の前のこの先生こそ、件の櫻先生だ。ちなみにこの人の標準装備は白衣。さっきの白いひらひらは白衣の裾だ。


「おい、起きてるか?俺何かした?」

「さっ…ささささく、櫻先生…!?」

「ああ。大丈夫か?」

「だだだだ大丈夫です!」

「そうか。もうすぐ終わるから、仕事、しっかりな」

「はいいいいいありがとうございますううう!」

「おーい、そんなに機材睨みつけなくて大丈夫だよ、もうそんな仕事ないよ。おーい」


真剣すぎる顔で機材に向き合う、そんな後輩ちゃんは僕の呼びかけに全く反応を返さなかった。仕方ない、放置。気を取り直し、僕は持ってたシャーペンをくるくるしている先生に向き直った。


「で、なんでしょう。用事ですよね?暇つぶしとか言いませんよね?」

「暇つぶしもあるが…」

「転べばいいと思います」

「この後の二年の学年集会のことだ。体育館でやるからそれ用に機材のチェンジと引き続き仕事頼む。その時は俺も放送室にいるからサボるなよ」

「サボりませんから!仕事しますから!」

「あと、今日は部活前に顔出すから、パートで散るのは少し待っててくれ」

「え、珍しい…来るんですか…?」

「不満そうだな…ああ、放送室で英語のプリントでもやるか」

「不満とか何もないので柚に伝えときまーす!」


…ねえ後輩ちゃん、素知らぬ顔でよろしくなーと去って行くあの先生のどこがいいんだい。人の嫌いな教科をさらりと脅しに使うような人だよ!
なんて心の中で呟いた瞬間、櫻先生がいなくなったことで硬直が解けた後輩ちゃんが勢いよく振り向いた。


「どこがいいってそんなのいろいろすぎて…っていうかそのからかいとかこのあと放送室で同室に加え放課後も部活で会えるとかうらやましいです先輩!私もまた会いたいですううう!」

「だから心読まない!それにあの人放送委員会の顧問だからどうせまた会え…あれ知らなかった?そこまで驚く情報なのこれ?」

「さ…櫻先生……がくっ」

「倒れる効果音口で言っちゃう!?ってかうわあああ起きてええええ!!」


お願いだから呼吸をして!
(これマイク使っていい?愉快な放送委員会らしく放送で保健室もとい養護の先生呼んでいい?!)

++++
呼吸…
生きていく上で必要不可欠な運動。かつ、演奏中にタイミングを合わせるのにも重要な役割があったり。呼吸の仕方で音がかわったりかわらなかったり!
(タイトルでは呼吸と書いて"いき"と読んでほしいかもしれない)

オリキャラ紹介
@放送委員会メンバー
愉快すぎる仕事人家族。男女比は同じくらいで性格もそれぞれだが、仕事は各々の限界までクオリティを追求し息抜きもかかさない。いろいろと謎の多い委員会。また、委員長などの役職は必ずしも上級生が占めるわけではないらしい。

櫻先生の説明は次の話で!
13/01/22
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