第三十話

―――小夜視点



あれから、随分と時が経った。


マダラが戦に赴いてから、私は…一度も彼とは音信がとれない。



私が彼宛てに手紙を送っても、彼からは一回も返事が返ってこなかった。



本当に……嫌われてしまったのかもしれない。


このままだと……私のお腹の中にいる赤ちゃんは……




――…‥




「小夜様……マダラ様からの御返事は…」


「……返ってきてないわ。……マダラは無事なのかしら……」



私はお腹を擦りながら、隣にいる加代と話していた。
マダラは数々の小国を潰し、忍一族を束ねているとは聞いているが、それ以上の事は何も聞いていない。
屋敷には沢山の負傷者が運ばれ、日に日にその人数が増していたから、私はかなり心配していた。
噂によると、マダラは今までにない位に残忍な殺し方をしていると聞く。これから、千手一族との戦を控えているからか、マダラは戦に燃えているのだろう。

だけど、私は……そんな噂を聞く度に、マダラの事が心配になった。
そんなマダラを慰める事が出来たら…と思えば思うほどに、私は居てもたってもいられず、大分前から彼に手紙を送っていた。
本殿で、毎日欠かさず願掛けをしていても、彼の事が心配でならなかったのだ。
父からは、何度も実家に戻るよう書状が送られてきたが、私はうちはマダラの妻として、この屋敷からは一切離れまいと心に決めていた。私はもう、大名の娘ではなく、忍一族の妻としての自覚がやっと芽生えたのだ。



「……マダラが心配でならないのよ…。本当に、彼が心配で……」


「小夜様、大丈夫ですよ……。マダラ様はとてもお強い方ですから……」



加代は私の手を握ると、何度も私を気遣ってくれた。



「……あっ、そういえば…小夜様にお伝えせねばと思っていたのですが……」


「……? 何かしら?」


「前から少しずつ作っていたのですが、産着を作ってみたのです……」



加代は私に一枚の可愛らしい産着を渡した。
私の子供ために作ってくれたのかと思うと、本当に嬉しくて、私は産着を抱き締めた。



「加代、ありがとう……本当に嬉しいわ…本当にありがとう」


「小夜様に喜んでいただけて、嬉しいです……! では、これからも沢山作って参りますね」


「私も作りたいわ…! 作り方を教えてもらえないかしら?」


「勿論です! では、今から布と裁縫道具を持って参りますね!」



それから、加代と私は会話をしながら、日が暮れるまで愛する子供のために産着を作っていた。

生まれてくる赤ちゃんは、女の子か…それとも男の子かと想像しては、私は幸せな気持ちになれた。母になるということが、これほどまで幸せだとは思いも寄らなかった。
私は少しずつ大きくなり始めている自分のお腹を見て、早くマダラに伝えたいという思いで一杯になっていた。



――…‥



すっかり夜が更けてしまい、私は部屋の隅にある灯台の僅かな光と月の光の下で、マダラ宛の手紙を書いていた。
加代に早く寝た方が良いと叱られてしまいそうだが、私は傍らにある産着を見ては、マダラに早く我が子の事を伝えたいと思っていた。
今まで彼に宛てた手紙には子供の事は書いていなかったが、私は勇気を出して今回の手紙には子供の事を書いてみることにしたのだ。



……これなら…彼も私宛てに手紙を書いてくれる筈よ……



私は手紙を書き終えると、体を冷やさないように羽織を重ねて、寝る支度を始めた。すると、少し喉が渇いたので私は一旦、部屋から出て、台所の方へと向かっていた。




深夜だからか、辺りは暗く、誰もいない。


そして、いつの間にか季節は冬を迎えたからか、夜風が酷く寒い……


私は長い廊下を歩いていると、台所の近くにある小さな部屋から明かりが漏れでているのを発見した。


こんな夜更けに誰がいるのだろうかと、私は気付かれぬように、忍び足で近付くと……



女中達の話し声が聞こえた。




「……ねぇ、まだ戦は続くらしいわよ…。マダラ様は千手を潰すために、あらゆる手段で忍一族を束ねているらしいわ……」


「……そうらしいわねぇ…。うちはが劣勢である事には変わりないのに、マダラ様は……」


「そういえば、あのマダラ様に……愛人が出来たらしいわよ…! 知ってた?」


「そんなこと、知ってるに決まってるじゃない! 有名な話じゃないの…。」




……えっ……。マダラに愛人が出来た……?




「しかも、戦の合間に開かれる宴会では沢山の遊び女を集めさせて、夜な夜なお酒を飲みながら遊んでいると聞いたわ…!」


「まぁ、そんな事この御時世では当たり前じゃない。 今まで、マダラ様は奥様に夢中でいらっしゃったから…そんな事がなかっただけで」




私は体が固まってしまった……。



マダラが……そんな事、する筈がない……。



そう考えれば考える程に、私の頭の中で色んな考えが過った。



……彼が…私に手紙を送らないのは……他に…好きな人が出来たから……?


私の事は……もう…どうでも良いって事なの……?



私は壁にもたれながら、ゆっくりと歩き、自室へと戻り始めた……。


先程まで歩いていた廊下が、より長く感じる……。


夜風の寒さが……体を突き刺すように、より寒く感じる……。



私はやっと、自室へとたどり着き、その場にへたり込んだ。


……何も考えられない……。


私はただ、ぼうっとしながら、部屋を眺めていた。

彼宛の手紙が置かれた文机の傍らにある産着を見て、私は、ゆっくりと立ち上がり、思わず抱き締めた。



……嗚呼、マダラ…


……貴方が他に好きな人が出来たなんて……


………嘘よね……?



涙が流れて、頬に滴り始めた。
こんなにも、胸が苦しく、心のやりどころがない、この想いに打ちひしがれながら、私は彼を信じていた。



……いいえ、私は…信じないわ。


……貴方は…私を愛している筈よ……。


………そんな事…私は…絶対に信じないわ…!




私は、彼宛に書いた手紙と産着を胸に抱きながら、彼に思いを馳せていた。


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