第二話
襖が開くと、そこは大広間であった。うちは一族の人々が大勢集まり、私達をじっと見つめている。鼻につく程に酒気が漂っており、盛宴を張っていた。
大名様の所へ訪れた時には芸者が舞う場所のような所はあったが、今回は異なっていた。皆に囲まれる形で非常に近い所で舞うようだ。
男達の顔を少し見てみると、舐めるような独特の目付きで私達を見ていた。その視線を見た私は、少し恐怖心を覚える。

「この度は、お招きいただき有り難うございます。ごゆっくりお楽しみ下さいませ。」
「……あぁ。楽しみにしている。」

今、仰られた方があのうちはマダラ様なのだろうか。
皆の中心に座り、一人だけ只ならぬ威厳を保っている。私はやや遠い場所にいたので、しっかりと見る事はできなかったが、少し張り詰めたような空気がひしひしと感じられた。
姉さん達は颯爽と舞いを始めると、私はその舞いに合わせるように、三味線を弾いた。本当に姉さん達は上手に舞う。とても色っぽく、女の私でも惚れ惚れしてしまう程だ。
その時、誰かに見られているような感じがした。
目線を変えてみると…あのマダラ様が此方に目を向けていた。お酒を片手に此方をじっと見つめている。
私は耐えられなくなり、畳の方へ目線を下に向ける。
なんて眼力だろう。とても鋭く、いとも簡単に人を捉えてしまいそうな目だった。あれが忍の頂点を極めようとしている御方の目なのだろうか――

宴会は盛り上がりの頂点を極めていた。
やはり、姉さん達の艶っぽい雰囲気に男達は魅せられたのか、姉さん達に絡もうとしている何人かの男達がいた。しかし、姉さん達はそんな男達を他所に、マダラ様の弟君であるイズナ様に話し掛けていた。
イズナ様はお優しい方なのか丁寧に接しているが、マダラ様は話し掛けようとした姉さん達を頑として寄せ付けなかった。その様子から、やはり恐い方なのだろうかと勘繰ってしまった。私はその様子を横目にお酒を注いだ。
すると、その時だった――

「おい、そこの女…。次はお前が舞え…。」

宴会の端でお酒を注いでいた私の方を見て、マダラ様が仰られたのだった。一斉に皆が私の方を見つめる。

「……え…私、でしょうか…?」
「嗚呼、そうだ。俺の前で舞って見せろ。」

私は思いも寄らない出来事に驚き、暫く気が動転して身体が石のように固まってしまった。その時、周りにいたうちはの人々が揶揄いながら、私を前に出る様促した。

「マダラ様が仰られているんだ、早く舞え!」
「ははは、マダラ様もこの様な子娘に酷な事を仰る」

私は緊張が止まらなかったが、折角の機会だと思い、自身を奮い立たせ、深く息を吸い、マダラ様を見た。

「それでは、舞をさせていただきます。」

私を射ぬくようなマダラ様の鋭い目線。刃を突きつけたような眼光に耐えることで精一杯だった。眼瞼が震える。片方の足が少し浮いて、思わず後退しようとした時――私は今まで耐え抜いた辛い修行を思い出した。ここで逃げ出してはいけない。何のために頑張ってきたのか。
――早くこの世界から抜け出すためではなかったの?
修行の成果に報いる為に美しく舞おうと、自身の心に鞭を打った。その瞬間、自然と身体が動き始めたのだった。

三味線の美しく細やかな音色と共に、調子を合わせて身体と手足を上下にしなやかに動かす。
蝙蝠扇を開き一歩ずつ歩み、着物の袖を持ち上げて艶やかに見せ場を作る。
体の向きを変えると、私は目線をマダラ様の方へと向けた。その時、目と目で何か伝わった様な気がして、私は胸が少し高鳴るのを感じる。私はすかさず目線を変えた。
――今は集中しなくては…。
先程の胸の高鳴りに意識しつつも、私は舞に専念した。全身にマダラ様の目線を感じつつ、指の先まで心を込めながら私は舞続けたのだった。


舞が終わり、三味線の音色が止まる。私は深々とマダラ様に頭を下げ、謝意を述べた。暫くの間沈黙の間があったが、マダラ様がその沈黙を破る様に、手を叩いた。

「とても良かった。中々の美しさだった…」

私はマダラ様に褒められて、余りの嬉しさに勝手に笑みが溢れた。努力した甲斐があったと心からそう思えた。

「ありがとうございます……!お褒めいただき、嬉しいです…」

私は礼を述べると、マダラ様も笑みを浮かべて私を見つめる。
初めて見たマダラ様の笑み。私は胸がどくどくと鼓動が早くなり、きゅっと締め付けられる様な感じがした。

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