扉間様と魚釣り




「扉間様ー!ちょっと待ってくださいよー!」


「……早くしろ」



私は扉間様の魚釣りにお伴しています。
木の葉の山奥に流れる河川には沢山の魚が釣れるそうで、扉間様はああ見えて超ワクワクしております。表には出さないけど。

私は普段扉間様の雑用係で、いつもこき使われてます。
千手の家に奉公しに行くんじゃなかったと後悔しまくりです。
でも、田舎にいる母ちゃんや父ちゃんに仕送りしたら喜ばれるんで、頑張っておりますが…


この前、扉間様の部屋の窓を拭いてたらいきなり「魚釣りに行くぞ」と仰られて、嫌な予感がして「そうですか!一人で釣りに行かれるんですね!柱間様に伝えておきますね」と申し上げたら、「お前も来い、来ないと許さんからな」と仰られまして、無理矢理行かされることになりました。


朝の4時に起きて、扉間様のためにお弁当を作ったりと朝からドタバタしてました。

山道はとても険しく、私には歩き辛くて何回も休憩しておりますが、扉間様は私を無視してスタスタと登られるんです。


忍である扉間様と一般人な私とは体力的に雲泥の差がありますから、扉間様にはその辺考えてもらいたい…


…私なんかと行くより、柱間様と行かれた方が良かったのでは?

訳の分からないお人だ…


と心の中でぼやいておりますと、左の方角から川が流れる音が聞こえました。


やっと着いたのかと思い、一安心していると…



「おい!早くしろ!」



と怒鳴られました。


私は暑さのせいもあってかなり苛々していて、返事もせずに扉間様の方に向かいました。



「のろまだな。」


「すみません!以後、気を付けます!」


「フン」



……何がフンだ!!何様のつもりだよ!?
……あっ…敬語忘れた…まっ、いいか。

私は苛立ちを抑えて、扉間様の後ろ姿をじっと見つめていた。
今すぐに蹴り飛ばしたくなったけど、そこは抑えた。



「ワシは此所で釣りをするからな。邪魔するなよ。」

「やっだぁー、邪魔なんてしませんよー!」


…バシィ!


私は先程の怒りもこめて、思いっきり扉間様の背中を叩いた。



「……貴様!」



すると扉間様は私の手をとり、川岸へと歩く。


……えっ…何?


そして扉間様は石の上に座り、私を隣に座らせた。



「お前みたいなじゃじゃ馬娘は此所にいろ。」


「えっ…何でですか?私、人の釣りを傍観するとか嫌です…つまらないし…」

「なんだと…?!ワシの釣りを見て、何も思わないのか?」


「は?何も思いませんけど」



なんか色々地が出てきてしまったけど、まぁいいか。
ワシの釣りを見て…て意外と人に構ってほしいタイプなのかな?

扉間様は気持ち悪い餌を取り出して、釣竿の先っちょにある針にそれを引っ掛けて川にポチョンと投げる。


私は川を見つめては、眠くなってしまった。
朝の4時に起きてるから、当たり前かも。


すると、扉間様が私の頬をつねり出す。



「痛いっ……です!!何するんですか!」


「おい、起きろ。しっかり見ておけ。」


「……どうせ、釣れないくせに…」


「……貴様、今何と言った?」


「何も言ってませんけど?」



扉間様はかなり苛々していたのか、厳つい顔が更に厳つくなっていた。

私は渋々、扉間様が釣りをしている間大人しく座っていた。


周りを見ると、沢山の木が生い茂り蝉がミンミン五月蝿く鳴いていた。
蝉取りしたいなぁと考えていると、扉間様が急に話し出す。



「……お前は…その…こ…こ……っ!くそっ!」


「?……なんですか?」


「何でもない!」



扉間様はムスッとした顔で釣りをしていた。
何を言いたかったのか分からなくて、私は困った。

すると、ピクピクと先端部分が浮き沈みし出して扉間様はカッと目を見開き、釣竿を引き上げる。

大きな魚が釣れたのか、水しぶきがかなり飛んだ。


そして、扉間様は魚の口に刺さっている針を取り出して、私の目の前で魚を見せびらかす。



「どうだ?……ワシが本気を出せば、此れくらいの魚は意図も簡単に釣れる」

「……へぇー凄いです。」

「…それだけか!?もう少し、反応しろ!」


「……いやぁ…うちの田舎にいた近所の金太郎君の方がもっと大きな魚、釣ってました」


「……くそっ!……次こそもっと大きな魚をっ!」



そして、扉間様は餌箱から次々とミミズのような気持ち悪い物体を釣竿の針に刺して、何回も魚を釣っていた。


結局沢山の魚を釣りましたが、小さな魚ばっかりで、扉間様はかなり苛々していた。



「……もうそろそろ、お止めになっても宜しいのでは?」


「まだだ!!」



私は何だか扉間様の釣りをしていると自分もしてみたくなり、扉間様に聞いてみた。



「扉間様……私も…釣り、やってみたいです。」


「……!……そうか…では…」



扉間様は足を開き、その足の間に指を刺して「ここに座れ」と言った。



「……えっ?なんで、そんな所に座らなくちゃいけないんですか?なんか嫌です」


「早くしろ、のろま。」


「……。」



私が苛々していると、扉間様は私の手を思いっきり引いて、無理矢理その足の間に座らせる。



「……変な事、考えてないですよね?」


「何?……誰が貴様なんぞに…」



扉間様は私に釣竿を持たせる…のはいいが、扉間様の手が私の手に添えられて、端から見たら扉間様が私を抱き締めているように見えるのではないかと思い、かなり恥ずかしくなった。



「……もう少し、離れてください」


「……何故だ?」


「いや…だって…この体勢、変ですよ?いくらなんでも…」


「何を考えている?……やましい事を考えているのは貴様のほうだ、ナマエ」


「……なっ!?」



私は何を言っているのかと思い、顔を扉間様の方に向けると、顔が余りにも近いところにあって自分の顔が次第に赤くなるのを感じた。



「………!!近いっ…離れて…!……ください」


「……なんだ?段々と口調が可笑しくなってるぞ?」


扉間様はそう言って、私の腰に腕を回し、抱き締める。


……何考えてるの?この人は!?


私は茹で蛸のように顔が赤くなり、目を瞑る。


すると、首筋に扉間様の吐息がかかり、体が強張ってしまった。



「……ちょっと……扉間様っ!……くすぐったい!…です」


「……先程まで生意気な口をきいていた罰だ」



すると、扉間様は次第に手を腰から胸付近へと移し、着物の上から私の胸を触りだす。



「……きゃっ!……止めて下さい!!……ああっ」


「成る程、お前はこの辺りが…」



私は耐えきれなくなり、肘を思いっきり扉間様の腹部分に目掛けてぶつけた。



「ぐふっ!!」


「何するんですか!?この…変態!!」



私は釣竿を取り上げて、石の上から降りて川岸から去った。



―――――




昼時になり、私達は無言で魚を焼いて私が作ったお弁当と共に食べていた。



「……。」


「……。」



さっきから全然会話がない。

扉間様は川岸の方を向きながら、もぐもぐと食べていた。
一方私は火の方を向きながら、お握りを頬張りながらむしゃむしゃと食べていた。



「……ナマエ、先程はすまなかった」


「……はい、私も生意気な口をきいてすみませんでした。」



すると扉間様は食べ終わったのか、立ち上がって私の隣に座る。

私は何だか嫌な予感がして少し空間をあけようと移動するが、扉間様に手首を握られ、そのまま座り直された。



「な、なんですか?」


「その…ナマエは…今は……こ…こっ…」


「こ?」


「ぐっ!…くそっ!…言えん!」



扉間様は顔を赤らめて、顔を俯かせる。
何だかよく分からなくて、私はお弁当をしまい始める。



「おい!聞け!」


「だって…何を仰ってるのか…よく分かりません。」

「だから!……その…お前には…恋人がいるのかと聞いておるのだ!!」



扉間様はそう言った途端に顔を更に赤らめて、私から目線を反らす。


……なんだ…恋人って言うことぐらいで、どもってたんだ…変な人…



「いませんけど?」


「やはりそうか。……まぁ、お前には一生出来るとは思えんがな」


「……それを言うために、わざわざ聞いたんですか?酷い人ですね」



私は内心苛々しながら、お弁当を持って川岸へと向かう。



「おい、待て!まだ話が!」

「あそこに釣竿、干してありますから」



私はそう言って、お弁当を洗い始める。

また貶されるのだろうと思うと、腹が立ってしょうがなかった。


簡単にお弁当を洗い終えて、立ち上がろうとすると…




………扉間様が後ろから私を急に抱き締めたのだ…




「……先程はすまなかった。つい、からかってしまった…」


「と、扉間様……!?あの…これは…」


「唐突に言う、オレは…お前が好きだ。」



………えっ?


……今何とこの人は仰ったのか?



「お前が我が家に奉公に来たときから…オレはお前を好いていた…ずっとな」


「嘘…ですよね?」


「嘘なわけがないだろう」


扉間様は私をぎゅっと強く抱き締めて、私の耳元で囁く。


私は思わぬ出来事に体が固まってしまった。



「……お前の気持ちを知りたい…お前は…オレをどう思っている?」



扉間様は私の体を扉間様の方へと向けさせ、腰に腕を回す。



「えっと…その…あの…」

「何だ?……早く言え」


「うう…私は……その…扉間様を……ってキャアアア!?!」



私は扉間様が余りにも詰め寄るので、じりじりと後退して川に落ちてしまった。



「……ナマエ!?」


「………ぶっはぁ!!!」


川が浅くて、助かった…
石に思いっきりお尻をぶつけて、中々立ち上がれない…



「…フッ…早く掴まれ。」



扉間様は笑いながら、私の目の前に手を差し出した。
私はなんか悔しくなって、思いっきり両手で扉間様の手を引っ張る。



………バシャア!!



かなり豪快に飛び込んできて、私の体に覆い被さった。



「……ふふっ、どんくさいですね。………でも、離れてください。気持ち悪いです。」


「……貴様ぐらいだ。オレをここまで追い込ませる女は…」


「えっ……ちょっと……待って…あっ……!」



扉間様は私を抱き締めて、口付けをした。
川の中で口付けをするとはいかがなものかと思ったが、何故か許せた。



「もう一度言う、お前は…オレをどう思っている?」

「……私が…扉間様を…ですか?」


「ああ。」



そうやって私がどもっていると、扉間様は徐々に顔を近付けては早く聞きだそうとしている。


私は恥ずかしくなって顔を俯かせると、扉間様は私の頬を持ち上げては早く言えと仰る。



「私は扉間様を……へっくしょん!うう………はっくしゅん!」


「おい、ナマエ?!もしや…」




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