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恥ずかしさのあまり、真っ赤になって目をぎゅっと瞑る事しか出来ない俺に、今度は耳に舌をいれてきた。
「……ひっ!?」
なになになに!?
なんでこんなことになってんの!?相変わらず太ももは触られてるし、なんか変な気分になりそうだ。
「お客様、お触りは禁止ですので」
目を瞑って耐えていると、俺が尊敬してやまない人の声が聞こえてきた。
「タカさん…?」
目を開けば、タカさんが俺を御山社長から引き離すように、間に入ってきていた。
「あーあ、邪魔が入っちゃったか」
御山社長は、短くため息をつくと深くソファーに座り直した。
「すいません、目についたものですから」
笑顔を崩さずにいうタカさんはかっこいいけど…なんか不機嫌?
どうしたんだろ?と考えている間にも二人の会話は続いていた。
「君もショウの事を…?」
「そうですね。俺の他にもいますが…」
「ちぇ、てゆうか君はいつまでここにいるつもりなの?」
「貴方がお帰りになるまで…ですかね?」
「最悪…」
なんだか不穏な感じだ。
喧嘩はあんまり好きじゃないから会話には混ざらないでおこう。
ぼーっと二人のやり取りを見ていると、よいしょと、御山さんがソファーから腰を上げた。
「もうお帰りですか…?」
御山さんが来てから三十分くらいしか立ってないのに…。
思わず御山さんの腕を取り見上げると、タカさんにこら、と小さく叱られた。
なんで!?
「かわいいなぁ。今日はこれ以上二人っきりになれないみたいだから、また今度ね?約束…」
御山さんの腕をつかんでいた手を解かれ、そのまま指切りをされる。
また俺を指名してくれるって事かな…?
嬉しかったから、笑顔で頷き返した。
俺の笑みを見て満足したように頷いた御山社長は、タカさんに向き直り口を開いた。
「そうだ。ドンペリゴールドを20本お願い。コールはいらないよ。ショウにプレゼントね」
「……はい、有難うございます。」
御山社長は、懐から財布を出し、見た事もない分厚い札束をポンっとタカさんに渡した。
「ショウ、またね?」
え、えっ!?
20本!?ドンペリを!?
「お、御山社長!?いいんですか!?」
俺に手を振って店から出ようとする御山社長を慌てて追えば、またあの蕩けるような笑みを向けてきた。
「いいんだよ。俺からのショウが大好きって気持ちだから…ね?」
優しく俺の頭を撫でたと思えば、御山社長が急に顔を寄せて来た。
気づいた時には唇に柔らかい物が当たって…。
えっ!?
い、いまのって…!?
唇に手を当て後ずさると、おそらく俺に触れたであろう唇を舐めふんわりと微笑み、今度こそお店を出て行った。
「あーあ、奪われちゃった」
「ショウ、無防備すぎですよ?」
呆然としたまま扉の前で立っていれば、いつのまにかタカさんとヨリさんが呆れた顔をして俺の横に立っていた。
「だ、だって…!」
まさか男にキスされるなんて思うわけないじゃん!
それに御山社長優しいしいい人だったし!
そう反論すれば、タカさんにデコピンをされた。
地味に痛いんですけど…
「バカ、さっきから口説かれまくりだっただろ?少しは察しろ…こっちは見ててヒヤヒヤしっぱなしだったんだからな…」
「全く、お客様に口説かれるホストなんて見たこと無いですよ…」
二人の言葉に何かを言い返せる筈もなく、ウロウロと視線を反らした。
なんでキスされたのかはよくわかんないけど、不思議と嫌じゃなかった。
なんでだろ?
初めての俺の指名客だからかな?
「ったく、次あいつ来たら俺もテーブルにつくからな」
「勿論私もです」
「ぇええっ!やだよ!せっかく初めて一人でテーブルにつけたのに!」
不満を漏らせば、ジロリと睨みつけられる。
タカさんとヨリさんは、優しいけど怒ると怖い。
二人を怒らせないように口を閉じれば、呆れたような溜息を吐かれた。
「なんでこいつみたいな可愛いのがホストやってんだか…」
「まぁ、ある意味天職かもしれませんよ?」
「勘弁してくれ…敵が増える…」
タカさんとヨリさんがボソボソと二人で話しているのを気にしつつ、御山社長が出て行った扉を見つめ続けた。
(ちゃんと、また来てくれるかな…)
おわり。
このあと御山社長はひんぱんに通いつめます。
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