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「おかえり」
想が慌ててタクシーを捕まえて帰宅し、玄関扉を開くとすぐ廊下に微笑みを浮かべて愛しい男が立っていた。
まさか玄関にいると思っていなかった想は、言葉に詰まり瞬きも忘れて新堂を見つめた。
「さみしかったぞ」
言葉とは違い余裕さえ伺える新堂の微笑みに、想は靴を脱ぎ捨てる勢いで彼に飛び付いた。
それなりに背丈のある想に勢い良く抱き着かれ、新堂は廊下の壁にドンと背を預ける形になり、微かに笑う声が想の耳を擽った。
新堂を壁際に押し付け、想はゆっくりと顔を上げた。自分を見つめる新堂の瞳が優しく、そらせない。想は、ふと瞼を閉じて唇を重ねた。
いつものようにワインの香りが残る唇から触れるだけのキスを離し、ありがとうと囁く。
「島津、帰り際まで漣が助けてくれたってこと教えてくれなくて……」
「島津らしいな」
「……すごく助かりました。ありがとうございます」
「ご褒美は?」
「ご……?」
「俺はひとりで酒を楽しんでたんだぞ」
想はワインが香る新堂の首筋に鼻先を押し付け、たくさん飲んでいたのだろうかと表情を伺う。
「……俺、急いで帰って来たから……」
何もお礼は用意していない。と言葉を濁す想に新堂は唇を重ねた。
「たくさんキス、してくれよ」
「ん、……え、漣……ご褒美って……それでいいの?」
「明日は何時から仕事だ?」
「いつも通り16時頃店に……」
「分かった」
新堂は想を抱えると寝室へ歩き出す。
「え?!や、重いから!」
成人の男を抱き上げた新堂に、さすがに想は驚きの声を上げた。
リビングを通ったところでラブラドールのもち太がのん気な顔で二人を見送った。
「たしかに、結構重いな」
「持ち上がったことに、驚きですけど……大丈夫ですか……?」
「まだいけそうだ。あんまりオヤジ扱いするなって」
心配そうな想をよそに、どこか楽しそうな新堂の声と共にベッドへ転がされ、上に乗しかかる彼の背中へ腕を回して想は目を閉じた。
「けど、俺……華奢な男じゃ無いんですよ」
「へえ、こんな細い腰してよく言う」
「そんな細く無いし!」
「そうかもな」
程よく鍛えられた肉の少ない想の腹を服の上から撫で、新堂はズボン越しに想のペニスを揉んだ。
既に硬さを持ち始めたそこに、満足そうに口端を上げた。
内股を撫で上げれば大袈裟に腰が跳ね、想は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「っ……その触り方、いやだ……」
「なにが」
想は唇を噛んで内心、自分の浅ましさに呆れた。
新堂にキスされただけで心が熱を持ち始め、触れられれば一気に自分に乗しかかる男を全身が求めてしまう。いつでも冷静な相手を、必死に求めてしまう。
想は新堂の胸を押し返してベッドに座り、強く相手を睨むとワイシャツを着崩した相手を逆に押し倒し腹に馬乗りなった。手を伸ばし、ゆっくりと新堂のワイシャツのボタンを外して行く。
均整の取れた男らしい肉体に手を滑らせ、ベルトは外している新堂のスラックスを寛げると想は馬乗りをやめて下へ移る。
ヘソにキスしてゆっくりと舌を這わせ新堂の黒いボクサーを下げれば熱を持ち始めた存在感のあるペニスが現れる。想は無意識に下腹部が熱くなり、期待するように目を細めた。
「ご褒美に、想がしてくれるのか?」
新堂の問いかけに一瞬顔を上げたが、想は答えず先端へ唇を充てた。
それを答えと受け取った新堂は、静かに己のペニスを口腔で舐め回す想の口許を指先で撫でる。
強い視線が注がれていることに想は自分の身体が熱くなるのを感じ、甘い息遣いが鼻から抜けた。
*
「漣、さみしかったなんて信じられない」
「そうか?俺は想だけそばにいてくれてら満足だ」
裸のままベッドで寝転び、身体を伸ばしながら想が聞くと、新堂は言い切った。座ってタバコを吸っていた新堂がそれを消して横になり、背中から想を抱き寄せて項に鼻先を擦り付ける。
「れんっくすぐったい……ビアガーデン、来ればよかったのに」
「俺は安い酒より良い酒をゆっくり楽しみたい。できれば想に作ってもらってな」
店の酒は安いものから高いものまでピンキリだったが、確かに新堂は良い酒を好んだ。
想も、珍しいものや良質なものを見つけると、つい取り寄せてしてしまう。それを思い返して想は自分の甘さに口元を緩めた。
「今日、お店に来ますか?」
「そうだな。急ぎの仕事もサボって、閉店頃にでも」
「人気のラムネがありますよ」
『いいね』と新堂が微かに笑うと、想は肩を震わせて笑い声を堪えた。
end.
ありがとうございます!
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