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※少しグロい表現有。苦手な方は次ページ。


 ふたつの話し声が聞こえて、岩戸田はゆっくりとぼやけた意識が戻るのを感じた。けれど、身体に感覚が無い事に気がつくには遅れて三十秒ほどかかった。

「…う…?」

 舌が少し痺れているような気がして、声を漏らした岩戸田が顔を上げると、己を見据えるようにふたりの人影が視界を占めた。

「おはようございます。薬の量間違えちゃったかと心配しました」
「選択肢をやる。すぐに『カラン』のUSBを渡せば楽に殺してやる。渡さねぇ場合は、分かるだろ?」
「ガキ風情が…俺をろうこう、出来ると?」

 笑わせる。と舌足らずな岩戸田が口端を上げてふたりを鼻で笑った。
 想はやれやれと小さなため息を漏らし、島津は想の肩をポンと叩いた。

「任せる。トドメは俺も」
「りょーかい」

 想は薄手のゴム手袋を嵌めると、大きな姿見を岩戸田の前へ滑らせた。
 一番最初に目に入ったのは全裸の岩戸田自身。顎は血に濡れており、感覚の鈍くなった口を動かすと何本も歯の抜かれた口内が微かに鏡に映った。それから、鉄の床に溶接された金属の椅子に座らされている己の状態。手は肘掛に固定する様に何本もの釘が下から貫通していた。足首も椅子の脚にガムテープで何重にも巻かれ、固定されている。

「は!ほんなんれビビるか!」
「思ってません。あなたが武闘派だったって事は聞いてます。痛みにはきっと強いですよね。だから別の方法で聞き出そうかと思って」

 想は鏡の岩戸田に向かって点滴を見せた。

「筋弛緩剤とか、色々です。頭は機能してますよね。でも、痛みを感じないようになってるはず。俺も分かるんです。痛いって、大丈夫だって。感じない方が怖い」

 そう言って、想はしゃがみ込むと岩戸田の足首へ細いナイフを当てた。

「見えますか?今からアキレス腱を切ります」

 足に当てた刃をスパッと滑らせると、深く綺麗にそこが切断された。出血はほとんど無く、パックリと切れた部分は岩戸田には見えないが彼の恐怖を呼び起こすには丁度良かった。もう片側にも同じように作業が行われ、立ち上がった想は鏡に笑みを向けた。

「これでまともに立てません。早く言った方がいいですよ。歯はもう何本か引っこ抜いちゃったので、次は…指にしますか?耳?少し切れ目を入れて引っ張れば違和感くらい感じられるかも」

 笑っているのに、笑っていない。想の瞳を見て岩戸田は久しぶりにゾッとした物を感じた。先程、轢き殺そうとアクセルを踏み込んだ時もコイツは向かって来た。イカレている。動揺して島津を見たが、彼は壁際に仁王立ちでこちらの様子をじっと睨み付けていた。止める気は無い事が一目で伺えた。

「耳だ。よく見えるだろ」
「りょーかい」

 想は島津の提案に小さく頷き、ナイフの刃を耳の上へ当てた。

「ひと息か、七割で引き千切る、どっちがいいですか?」
「や…止えろ…!」
「七割」

 想の選択と共にスッと刃が入り、抜けた。その耳を親指と人差し指で挟んだ想の手が思い切り振り下ろされる。ブチっと鈍い音がして頭部から耳が取れた。痛覚は無いが、引っ張られて身体を持っていかれる。

「ーーーーーっ!!!」

 ペッと足元に捨てたれた耳に、岩戸田は息を呑んだ。痛みは感じない筈なのに、喉を絶叫が通り抜けそうな感覚だった。自力では身体を動かせず、髪を掴まれ崩れて上体を戻される。

「次」
「鼻?」

 島津の選択に、想は返事もせずに岩戸田の鼻の下へ刃を当てると予告も無く上へと振り上げた。研ぎ澄まされた刃が鼻骨に当たらないよう滑り、鼻先が岩戸田の膝へぽとりと落ちて床へと転がった。たらたらと血液が流れ出して顎から胸、腹、太腿へと線を作っていく。

「次」
「目玉は?致命傷なるか?」
「上手く抜き取れないかも。あんまりやった事ないし、無理矢理取ったら潰れちゃうと思う。筋あるから切った方がいいかな。それに視神経が意外とグロくて好きじゃない」

 嫌そうな顔をしながらも、想は岩戸田の右目に手を添えた。

「止えろ!止えろ!」
「…止める?」
「言うまでやるだろ」

 想は頷いた。目をキツく閉じるが、薬でそれが叶わない岩戸田の目蓋を開かせると眼球を無理矢理押し出すように肌を押さえた。目蓋に指を押し入れる。

「北駅の裏の三階建雑居ビルら!!三階の空き部屋に全部ある!!」

 舌足らずで少し覇気のない声が必死に叫んだ。
 想は手を離して紙タオルでゴム手袋を拭くと脱ぎ捨てた。アルコールで手を消毒してから再び新しいゴム手袋をはめる。
 終わっていない事を匂わせる想を見て岩戸田はふたりを睨みつけた。暴れて、叫んで抵抗が出来ない事がここまでの恐怖とは。

「…よォ、蔵元。北駅の裏の三階建雑居ビル。三階の空き部屋だ。…頼む」

 島津は待機している蔵元に岩戸田の言った場所を連絡した。


 



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