しん、と静まった空間は少し埃っぽいようにも感じるが、曇りガラスの丸い天窓から差し込む緩い日差しが心地よい。
 乱雑に積まれた古い本がひしめき合って狭いのも、またいい。





「あー…いい。じょーず。全部飲んで」

 射精感が近づき、市松幹汰(いちまつかんた)はさらりとした黒髪を強く掴み腰を押し付けるようにする。んン…と聞こえた小さな呻きを心地良く耳に捉えながら温かい口内に精液を放った。

「ちゃんとキレイにして」

 優しく髪を撫でながら目を細めて自分のペニスにしゃぶりつく青年、福谷遼平(ふくやりょうへい)を微笑んで見つめた。
 形のいい唇が唾液に濡れ、ペニスを咥えたまま舌を絡めて目元に涙を浮かべている。
 苦しかったかな、と幹汰がどこか頭の隅で考えて涙を指先で拭ってやる。黒縁の眼鏡の向こうの薄っすらと涙に濡れた瞳が幹汰を見上げて、なんとも厭らしさを漂わせている。
 遼平はカウンターの椅子に座った幹汰の足元に跪いて、彼のペニスを夢中で舐めていた。

「遼平さん、上…乗って」
「や…だって、誰か来たら…」
「大丈夫、誰も来ないよ。来たら追い払ってあげるから」
「追い払うって!せっかくのお客さんなのに…」

 じゃあ見られたいってこと?と意地悪そうに笑う幹汰を遼平が睨む。
 すでに遼平の下半身に衣類はなく、幹汰によって十分すぎるほど解されていた。ペニスも内側にこれから起こるであろう快感を想像して、ひくっと震えて先走りが伝う。
 幹汰のペニスにコンドームを被せてゆっくりと立ち上がった遼平はパイプ椅子に座る幹汰の肩に腕を回して彼の上に跨がった。

「遼平さん、大好き…」

 大好きと、セリフのような言葉を取り敢えず囁く。気分を盛り上げようという幹汰なりの気遣い。
 乱されていない上半身も、シャツの裾から手を侵入させて乳首を押し潰すように愛撫する。遼平はそこへの刺激に弱かった。
 幹汰はもちろんそれを知っていて、わざとそこばかり触る。

「ん、あ…そこやだ…あ、んっ」

 乳首ばかり弄る幹汰の手首を掴んで止めるように訴えるが手は止まらない。

「早く入れてよ。萎えちゃう。欲しいんでしょ?俺のチンコで遼平さんのナカぐちゃぐちゃにして欲しくないの?」
「っ…!意地悪…」

 ほめ言葉?と笑う幹汰は無邪気に笑う綺麗な悪魔だと遼平は思った。
 しかし、逆えずに目を伏せて唇をきつく結ぶとゆっくりと腰を下ろす。太い先端が入りロを押し拡げるように侵入してくる感覚に遼平は腰から背すじまで走る快感に小さく喘ぐ。
 慣らされきった身体は快楽への近道を知っていて、迷うことなく遼平をそこまで連れて行ってくれた。

「あ、うン…ふ、あア…すごっ幹汰くんの、熱い…」

 半分ほどまで腰を沈めたまま腰を回すように揺らす遼平の痴態を幹汰が小さく笑う。とろんと蕩けた視線が幹汰を物欲しそうに見つめている。

「やーらし…高校生のチンコそんなに気持ちイイんだ。涎垂れそうなエロい顔してるよ、ヘンタイ…」

 楽しそうに遼平の耳元で囁くと、遼平のアナルがきゅうっと幹汰のペニスに絡むように収縮した。くぷっと空気と粘着質の混じった音が溢れた。

「ぅあ…や、だって…」
「言い訳なんて大人のする事じゃない」

 幹汰が腰を掴んで引き寄せれば、ぐぢゅッ…と奥まで挿入され、遼平の身体が戦慄いた。口からは甘い矯声が漏れる。
 勢いよく放たれた遼平の精液が向き合う二人のシャツを汚したが、気にせずに腰を振る遼平を幹汰はどこか冷めた目で見ていた。

「かん、たくん…好きっあ、あン!奥、ぐりって…好きっ」
「声でかいよ。外に聞こえる」

 自分の上に跨がる遼平を黙らせるために幹汰は深く口付けた。




 『ふくや』。本屋のくせに変な名前だと最初思っていた幹汰がこの古本屋に初めて訪れたのは一年ほど前で、まだ高校最初の年だった。
 本自体が好きだった幹汰は本当になんとなく、『ふくや』に入った。
 中はごちゃごちゃで乱雑に積まれた本たちには所々埃が被り、幹汰は呆れた。
 見上げると、大きすぎない丸い天窓があり、曇りガラスが日差しでキラキラしていた。
 本は日に弱いけど、このくらいならいいのか?と幹汰がひとり考えていると奥から人がやってきた。黒縁の眼鏡に少し長い黒髪は野暮ったく見える。

「いらっしゃいませ!ちょっと散らかっててすみません。今整理中なんです」
「そうですか」

 手元の本を一冊手にとってペラペラと捲る。少し色褪せた紙が音を立てた。

「片づいた頃また来ます」

 そう言って帰ろうとした幹汰をまるで行かないで、とでも言うような目で見てくる眼鏡の男に少し興味が湧いた幹汰は笑顔を作った。

「明日どのくらい片づいたか見に来ますね」

 眼鏡の男の視線は幹汰の弟のそれと似ていたからだった。





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