「ア゙、あっ…ん、ん、やめ…っい、痛い…っ」
「黙ってろ!」

 ゴツ、そんな音が頭に響く。殴られた頬より、無理矢理排泄器官をこじ開けられる痛みが勝り、司は鈍い声を漏らした。

「ヒカリを、よくもっ誑かしたな!この野郎っ!」

 司は弱々しく首を振る。己の上にのし掛かる男が誰なのかも、ヒカリが誰なのかも分からない。しかし、ヒカリという名前は知っていた。

「ヒカリは毎日、毎日、お前のことばかりだ!何したんだ!」

 ぐい、と脚を抱え込まれた司が咽せる。アナルを上から叩くように腰を叩き込まれて乾いた悲鳴が司の喉を通った。慣らされてもいないアナルは裂け、痛みが止むことはない。ただ、出血のお陰で見知らぬ男のペニスの出入りはスムーズになり、始まった頃よりは痛みも紛れていた。ネクタイで縛られ、玄関のノブに括り付けられた両手は擦り切れて血が滲んでいる。司の顔は蒼白で涙に濡れている。

「う、っこの、クソ野郎、ははっ!突っ込まれて泣いてるだけのお前みたいな男、だから、彼女はお前を捨てたんだ!」

 男の腰が一層強く押し込まれ、司の中に射精した。司は引きつった声を出した後、しゃくりあげるように泣き始めた。

「可哀想な彼女だな。浮気したんだって?…節操なしが!ヒカリも泣かせたんだろ!」

 司は必死に首を横に振る。ヒカリは知らない、と途切れ途切れに声にするが、呼吸に紛れて上手く伝わらない。司はそれでも知らないと続けた。 
 そんな姿に舌打ちをし、男は頬を叩いた。唐突にペニスが抜かれ、脚が解放されて司は弱々しく息を吐き出した。投げ出した脚も動かせず、司は己のつま先を濡れる視界でぼんやりと眺めた。男が身支度をしている音感じてやっと解放されたと再び涙を溢れさせた。

「お前みたいなクズ、誰も愛してくれねえよ」

 未だにノブに繋がれたままの司を引きずるようにドアを開け、男は司の部屋を後にした。

「…由夏…」

 愛しい彼女の名前を呼ぶ。もちろん返事はない。一昨日、部屋を出て行ってしまったのだ。泣きながら、浮気してたの?!と問い詰められ、全くそんな事実は無いというのに信じて貰えない。五年以上一緒にいて、結婚を考えていた。婚約指輪を買った三ヶ月ほど前から、司は自分宛だが身に覚えのない手紙を連日受け取っていた。始めは彼女も一緒に悩んでくれていたが、次第に淫猥な内容の手紙になり、司と『ヒカリ』の生々しいセックスが綴られた。段々と、彼女が疑い始める。そして、一昨日、『司なんて好きになるんじゃなかった!』と涙ながらに泣かれ、出て行く後ろ姿に縋ったが、振り払われた。冷たい視線に、司は胸が潰れたのではと錯覚するほど苦しかった。追いかけたが、タクシーに乗った彼女がしつこくするなら警察に行くと言った所で現実に取り残されたと自覚した。結局とぼとぼと部屋へ戻り、気が付けば朝。会社へ向かい、ただ仕事に向き合う。帰れば、由夏が待っているのではと、頭の隅で少し考えたりもしていた。現実にはそうは行かず、三日後の今日、先程は帰宅したときに見知らぬ男が玄関の内側に立っていたのだ。どうやって入ったのか、誰なのか、何をしに来たのか、様々な疑問をぶつけたが、怒りの中の男は強く、振られたダメージか色濃く残っていた司は簡単に押さえ込まれてしまった。
 司は暗く濁った瞳で未だに己のつま先を眺めていた。腕を解いて、周りを綺麗にしないと、と思うが身体は動かない。

「…………ねぇ…ヒカリ、キミはダレ…?」

 司の呟きは静かで暗い部屋に弱々しく響いた。







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