〔泰助視点・同棲し始めてすぐ頃の話〕


「慶吾?なぁ、おーい…ねぇ、慶吾…?」

 俺は眠っている恋人、慶吾の肩を静かに揺すった。んー?と眠たげな返事を聞くと、どうしてもやり切れず無意識に溜め息。
 慶吾は娘の愛美ちゃんの為に定時に上がり、多少の仕事は持ち帰る。慶吾の隣には静かに眠る、俺に取っても大切な愛美ちゃんがいた。

「…ふむ…」

 仕方ない。俺は立ち上がって風呂場へ。
 居酒屋のバイトをしている手前、帰りは日を跨ぐし、タバコ臭い。それでも慶吾に抱きしめて欲しいっていうワガママな気持ちが日に日に大きくなってしまう。もう、二週間もしていない。

「んぁ、…はっ」

 頭から熱めのシャワーを被り、立ち上がる自分の性器を擦る。それだけでは物足りなくて、ボディーソープを指に絡めて後ろに指を押し込んだ。漏れそうになる声を耐えながら、やっぱりまだ満たされない部分には目を瞑り、気持ちいい事だけ考える。
 慶吾の指は節くれだっていて長い。爪はいつも綺麗にされていて、俺の気持ちいいところを知り尽くしてる。

「…ぁ、あっ…けぇ、ご…」

 ゴン、と風呂場の壁に寄りかかり、彼の名前を呼ぶ。虚しくなんかない。俺の気持ちは慶吾に届いてる。そう思ってなんとかイった。

「はぁ、…はぁ…っん」

 ヒクヒクと吸いつく後ろから指を抜き、シャワーヘッドを掴んで下半身を流す。そのまま身体も髪も綺麗にした。恥ずかしいと思うけど、どうしても我慢できない日もある。本当は寝ている慶吾に跨がってその気にさせたい。たくさんキスして、身体中舐めてあげたい。そう、舐められるより舐めたいのだ。

「っ、ワガママ駄目!」

 もう高校も卒業だと言うのに、衝動的な部分を抑えきれない自分に呆れた。若いから、と言われるのが物凄く嫌なのは、慶吾が年上だからかな。18と36では一回り以上違う。倍だ。そこがコンプレックスだ。子供に見られたくない。
 そんなどうしようもない事に肩を落とし、シャツとパンツのまま髪を拭きながら静かに冷蔵庫から麦茶を取り出した。コップを取ろうと手探りで水切りラックへ手を伸ばしたとき、温かい手に包まれた。慌てて冷蔵庫を閉めたため、バタンと大きな音がしてしまい、しまったと眉を寄せて俯いた。俺の手は慶吾が握っていて、そのまま引き寄せられて背中から抱き締められて。
 優しい笑顔が俺を見下ろしていた。

「しぃー。愛美が起きちゃうよ」

 俺は何度も頷いた。

「おかえり。毎日遅くまで頑張るね。変な人に言い寄られてない?」

 うんうん、と頷きながら我慢出来ずに慶吾の腕の中でくるっと回り、抱き付いた。

「けいご、ただいまっ」

 ぎゅっと抱き締めて、彼の匂いを嗅いで、顔を上げる。優しく触れた唇を誘うように舐めて、反応を伺った。

「…お願い…今日は俺のこと抱き締めて寝てくんない…」

 それ以上を望むのは悪い気がする。朝は早くに出て行くし、夜は入れ替わりで俺はバイト。休日は愛美ちゃんがいる。本当はデートして、前みたいにセックスしたいけど、毎日顔を見れるだけでも幸せなんだ。欲張って、ワガママばっかりではいつまで経っても子供みたいで、悔しい。

「寝るだけでいいの?泰助、今日はしようか」

 俺はたぶん、犬が尻尾振るみたいに頷いていたと思う。
 


 寝ている小さな子供を置いて出掛けることはしない。声を立てないようにタオルを噛み、ぎゅっと慶吾の背中に指先の持てる力全てを使って抱き付いた。中の慶吾が熱くて、大きくて、幸せ。一度では足りず、何度も求めた。慶吾は呆れる事もなく、優しく触れてくれる。

「ん、ふぅっ、ん、ンンッ」

 リビングのラグの上で俺は慶吾に跨がっで夢中で腰を動かした。お互い、静かに。だけど見つめる視線で気持ちも分かるような気になる。好きだって。

「泰助、すごい…眺め」
「ん」

 囁くような微かな声が色っぽくて、俺は慶吾を見下ろした。中で脈打つ慶吾の熱を感じるために目を閉じる。

「…泰助?変わろうか」

 目を閉じて動かなかったせいか、慶吾が上体を起こして俺を寝かせようと足を組み替え始めた。慌ててそれを止める。ぎゅっと後ろで慶吾を締め付けて、たぶん俺は笑ってた。

「このまま、萎えるまでいてもいい?」

 慶吾は目を丸くして俺を見る。そんな彼の腹へ指を滑らして、少し柔らかい腹をゆっくり撫でる。腰も、太ももも。全く動かず、時々締め付けて、俺に埋まる慶吾がドキドキしているのを感じてホッとする。幸せ。

「はは、泰助って可愛いね」

 慶吾は苦笑いして、乗っかったままの俺を抱き寄せた。横になっている慶吾の上に寝ると、温かい。体勢が変わって、気持ちいいところを掠めたお陰で俺は一瞬イきそうになって息を詰めた。慶吾が俺の背中を撫でて、お尻を揉む。お互い腰は動かしていないのに、焦れったい何かが全身を駆け上る。
 少しの動きを敏感に感じて繋がっている場所がそれを快感に変えてくれる。

「キスは?」
「…する」

 慶吾が強請るみたいに見つめてくるから、俺はゆっくり慶吾の唇を舐めた。




「泰助はどこであんなエロテクを習得してくるの?」
「エ、エロテク…?」

 結局二十分程焦れったい状態でお互い触ったりを繰り返し、限界だった慶吾が怒涛の様に俺を攻めた。気がおかしくなるかと思う気持ちよさに、噛んでいたタオルは唾液まみれ。叫びそうな程ヨ過ぎて、慶吾の肩に歯形を残してしまった。

「まさか挿れたままお預け状態でいちゃいちゃさせられるとは考えてもなかったなぁ…」
「何言ってんだよ…途中でお預け勝手に止めたくせに…次はもっと長くしよ。ね」

 リビングのソファでそんな事を言って慶吾をからかう。パジャマ代わりのジャージでも、隣の慶吾は温かくて、頬を撫でる指が心地いい。慶吾がそっと髪にキスしてくれるのを感じて、俺は多分眠りに入ってしまった。
 


 カミサマどうかお願いです。欲張りません。二週間に一回でもいいのでこうして少しだけ慶吾を独り占めしたいです。
 でも、出来るなら慶吾がいつまでも俺を愛してくれますように。俺はもう彼以外を好きになることはないので。
 
 だめかな?



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