「「ハッピバースデー!!」」

 パン!パン!とちらほら鳴るクラッカーとキラキラ光る丸い耳や、ウサギ耳、とんがり帽子の人々に、想は目を大きくして固まった。

「……俺……?」
「そうですよぅ!有沢さんのですって!」

 小柄でバストの大きさ店内ナンバー1の藤井が、バニーガール姿で想の背中を押す。可愛らしい笑顔の看板娘だ。そんな彼女に腕を組まれ、想は店内に踏み入れた。
 想は本日シフトは休みで、棚卸しのために遅い時間に出勤さる予定だった。
 0時を回っても店内はそれなりの数の客がおり、全員が想の誕生日と言う名目で楽しんでいる。

「……藤井さん、俺、そんな歳じゃないんだけど……」

 25歳になる想は呆れた顔で藤井の耳元に囁いた。
 藤井が満面の笑顔とつけまつ毛とアイラインで大きく見せるキラキラした瞳で想を見上げる。その可愛さたるやさすが、それ以上は責められなくなる。
 想は、うなだれて襟足を押さえると、藤井に『ありがとう』と告げた。

「有沢さん!誕生日おめでとね!いつもありがとねー!」

 酔っ払いが後ろから肩を抱いてくる。常連客に絡まれながら、それでも笑顔で答える。

「いや、こちらこそいつも来ていただいて」
「固い固い!ほら、飲んで飲んで!」
「うわ、ドンペリ……って書いてない?結構いいやつだし。大丈夫?」
「俺たちからですよー!安いヤツですスンマセンー!」

 カウンターに纏まっている男性従業員の仲良しコンビ、西村と清松が手を振っている。休みの筈のバイトまで姿があり、想はますます呆れた。

「暇人か……」
「でもでも、バニーガールよくね?藤井ちゃんチョー可愛い!中田さんのバニーガールも人気大好評。女性従業員増やさない?ふたりじゃ少ないよ……あ、想君、誕生日おめでとー!」

 想の隣にやってきた蔵元が満足そうに言い、想の背中を叩いた。

「これ、島津はオッケーしたの?」
「うん。『本日貸し切り』って店の前に出したの島津だから」

 ああそう……と苦笑いして想は事務所に入った。想の誕生日と言いつつ、客たちは楽しんでいる。まあ良いかと、想は微笑んだ。

「25か……」
「よ!びびったろ」
「ドン引きした。ありがと」

 ハハっ!と笑った島津に、想も口端を上げた。
 秋になり、新堂が消えて三回目の誕生日ということになる。想は変わらぬ毎日を繰り返して、新堂を待っていた。戻るかも知らない彼を。
 沈みそうになる気持ちに蓋をして、想は革手袋をはめながら島津を見た。

「さて、場所は?」
「S区の××ホテル。ビデオ持った?」
「こっちは準備バンタンだ」

 島津が黒ずくめの装いで、パーカーのフードを被った。想も黒いパーカーに袖を通す。裏口から外に出て、ホテルに向かった。

「あれぇ?有沢さんは?」
「島津と棚卸し」
「えぇー!!……勝負下着着てきたのに……」
「嘘マジで!?!」

 蔵元の答えに藤井はしょんぼりして、大きな目をうるませた。男性陣は内心で想を恨めしく思いつつ、非番の男性従業員、西村と清松が、俺たちかやりますよ!と名乗り出た。
 蔵元はお礼をしつつも、適当な理由で止めさせる。店のワインセラーから何本かワインを取り出し、バニーガール藤井に渡した。

「さささ、もっと盛り上がっちゃって!想君からお礼だよ」

 わー!と盛り上がる店内を、蔵元は笑顔で見守った。









 ウィンウィン……とモーター音がひびき、大人のおもちゃが汚い尻から顔を出している。ボコボコにされ、全裸に剥かれた男は白目をむいていた。

「次、アンタ」

 バイク用のゴーグルをした島津が部屋の隅に全裸で縛られている二人目を引っ張り立たせた。がくがくと膝を震わせる二人目の男は上手く歩けず、直ぐに転がった。
 想はハンディーカムを一旦止め、ラブホテルの販売機で一人目に突っ込んだ物と同じバイブを買う。

「白目剥くほどイイってよ」

 箱を適当に破り、三人目の方に空箱を放り投げた。次は自分だと言われていると思い、三人目は大袈裟にビクつく。その様子に想は笑って、ゴム手袋をはめると慣らしもしない二人目のアナルヘ無理矢理バイブを押し込んだ。
 二人目の絶叫が部屋に響く。

「ぐあ゙ーーっ!痛ぇよおおっ!やめ、やめてくれっ!ひぃいいいぃいっ!!」

 傷んだ茶髪が振り乱される。整った顔も、涙と鼻水と鼻血で汚れて、無様に歪んでいた。

「あぁ゙?てめーは泣いてた子に止めてって言われて止めたかよ」 

 島津がハンディーカムを再び動かし、二人目を写し始めた。

「笑え」

 もちろん笑えるわけがない。それでも島津は追い込むようにそう言った。

「笑えたら抜いてやるよ?」

 想が背中を踏みつけながら優しく言うと、二人目は無理矢理笑顔を作った。島津が鼻で笑ってその姿をビデオに収める。

「ぬ、ぬいっ……」

 想は抜いてくれと腰を揺する男のアナルからバイブを乱暴に抜いた。そして間髪入れずに奥まで押しこむ。

「ぐあーっ!あがっ……あっ!」
「ほら、早く撮影したデータ丸ごと出せ。さもないとこのイケメン君のケツにもう一本ぶっ挿す」

 三人目に向けて想が言うと、慌ててカバンを開けた。小銭入れの様な袋から、大量のSDカードがザラザラと現れた。
 『コピーは無いです!!』と声を震わせる男に、島津は怒りが爆発した。
 ハンディーカムを止めてベッドへ放り投げ、三人目の髪を掴んで頬を殴りつけた。厚い革製の手袋が顔にめり込む。
 男は薙ぎ倒され、髪がブチブチと抜けた。

「クソ野郎ッ!!こんなに大勢の撮影したのかよ!」

 島津はそのSDカードをかき集めて袋に入れた。

「その汚いタマ潰してあげようか」

 想が冷ややかに笑った。
 島津が睨みながら頷くと、三人目は土下座して床に頭を擦り付けた。

「すみませんすみませんすみません……!た、た、助けて」

 白目を剥いている一人目、未だに泣きべそをかいている二人目、島津は裸で土下座する三人目を撮影し、それを見せた。

「次はねぇぞ。ネットに流してやるからな」
「うう、くそっ親父に頼んで……おまえ等なんか……!」
「お前の親父?興味ねぇよ」

 島津が顎に一撃を追加すると、三人目は伸びてしまった。それを見て想が咎める。

「やり過ぎ。顎、イッたんじゃない?」
「本当なら鼻も殴り折ってやりてぇわ」

 たしかに……と想は頷き、無残な男三人を残して二人は一室を出た。部屋の入口に居たこのホテルの従業員の若者が中を覗く。
 眉を寄せ、怒っているような、悲しさを堪えるような顔で部屋に倒れる男たちを見た。

「ちくしょうっ……!クソヤロウ共……!俺の妹の痛みを知れ!」

 涙声の罵りを部屋の男たちに向けて放った。
 彼の妹は、この三人組に薬で訳がわからないままに輪姦された。ハイになっている最中の強引な合意姿を含めた、修正無しの本番行為の動画を流出させた。
 彼の妹は精神的に参ってしまい、入院している。
 クビ覚悟でこの時間を作った彼の目から涙が溢れた。

「ありがとうございました……。アイツらには、本当は……死んで欲しい……!!」

 島津はフードを外して、『同感だよ』とホテル従業員の肩を叩いた。





 



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