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ディスプレイには携帯の番号のみが表示されていた。
孝之はその番号にもちろん見覚えなどあるはずもなく。
電話は切れた。
ディスプレイが待受画面に変わる。
待受はどこかの風景画像だった。
チラリと尊を見て、ごめんと謝ると携帯の電話帳を開いた。
そうして驚いた。
電話帳にはたった3件しか登録されていなかった。
一人は“大和”。
もう一人は“千早”。
そして“孝之”。
「俺だ……」
番号もアドレスも孝之のに間違いなかった。
これは何を意味するのだろう。
特別、そう思っていいのだろうか。
ディスプレイの名前の大和。
孝之は大和を知っていた。
朝倉大和。
尊とよく一緒にいる1年生だ。
けれど、千早の名前に覚えはなかった。
誰なのだろう。
メールを見ればわかるだろうか?
けれど孝之は待受画面に戻すと携帯を元のズボンのポケットに戻した。
知っちゃいけない。知ってしまうと更に知りたくなる。
知らないほうがいいということだってある。
孝之はそう自分に言い聞かせた。
翌朝、孝之が目を覚ました時、尊は孝之の顔を覗き込むようにして顔を眺めていた。
覗き込まれていた孝之の頬が赤くなる。
「……おはよ」
尊からの返事はないが尊が孝之の唇にキスをした。
「孝之、孝之は俺にとって特別なんだ。それじゃあダメか?」
――特別。
あの携帯の電話帳を見てしまったから。その特別という言葉が余計に孝之は嬉しかった。
「特別、うん。俺も尊が特別な人だ」
尊はかすかに頷くとベッドを降りた。
「シャワー浴びてくる」
部屋を出て行きかけて尊は振り返った。
「昨日、俺おかしかった、よな? 記憶ねーもん」
「……戻って来たら尊、寝てたよ?」
「そっか、ならいいんだ」
言っちゃいけない、どうしてそんなこと思ったのか。
とっさに尊に嘘をついていた。
「シャワーを浴びたら出掛けよう。尊、デートしよう」
「じゃランチはイタリアンな」
「わかった」
うれしそうに尊は風呂場へ歩いて行った。
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