スピンオフPink chanmery | ナノ


▼ 3

その後ろ姿が“ヤツ”と被る。

元カレ。

貴大はバイだ。大地は元カレに似ていた。

ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような衝動。

「やっべぇ……。惚れたかも」

その呟きは大地には聞こえなかった。

ドクドク鳴る心臓に静まれと命令し、足を前に踏み出した。



蓮華は歌舞伎町に2店舗ある。

若宮聡が経営するホストクラブ、蓮華。
聡の甥が経営するボーイズバー、蓮華。

ホストがやる接客は同じ。ただボーイズバーの方が少しだけ客層が若いというだけだ。

ホストクラブのほうが本店、ボーイズバーの方が支店と呼ばれていた。

貴大は聡の経営するホストクラブのホストだった。

クラブのドアを開けるとそこに聡オーナーともう1人。

アイドル顔負けの男がいた。

「要、来た」
聡オーナーが貴大を見て、その男に告げた。

「君が飛路?」
童顔な癖に鋭く貴大を見る。

「ボーイズバー蓮華のオーナー、若宮要です」
「支店のオーナー?」
こくりと要は頷いた。

「飛路、うちに来ない?」
「え?」
「明日、月が変わる。明日からうちにおいで」
にこにこ笑いながら要は言い切る。

もうそれは決定事項なのだと悟った。

「飛路をナンバー1にしてあげる。やめるならナンバー入りしてからでも遅くないはずだ。飛路、辞めるつもり? 今は駄目。許さないよ」
有無を言わせない目をしていた。

「やめるつもりは、ねーよ」
女がいりゃ別だけどと思いながら、先程別れた大地の顔が浮かんだ。首を振る。

「良かった。明日からはうちのホストだよ」
微笑まれて、思わず頷く。

「さ、掃除しようね。新人君」
ポンと肩を叩かる。

「向こうで勉強して来い。ここに戻ってきたら、ここでもナンバー1になれる資質を持って帰って来れる。あいつの目は本物だ。要に付いて行け」
聡オーナーもポンと肩を叩くとオーナールームに入っていった。

向いてないと思っていたホスト。意外と向いてたのか、とポジティブ思考。

大地の最後の頑張れという言葉が貴大をポジティブにした。

頑張ってやるさ、と。



蓮華の夜が幕を開ける。

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