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初めて会ったのは日付も変わろうとする頃だった。
「飛路(ヒロ)、オーナーが呼んでる」
こそりと黒服に耳打ちされる。
「行かなきゃ。ごめんね」
女の子に一声かけて飛路は立ち上がった。
ここはホストクラブ「蓮華」。
飛路は数ヶ月前から働いていた。
まだひよっこ。ナンバーさえまだつかない。
いや、順位は明確に上から月始めの1日に決まる。が、下っ端丸出しの下位だ。
50人程のホストの中で下から数えた方が早い。
廊下を歩き奥のオーナーがいる部屋のドアを叩く。
「飛路です」
オーナーからの呼び出しなんて初めてだ。面接した時に話したくらいだ。
まさか、クビを言い渡されるのか。
入って数ヶ月、順位は上がらない。
今辞めさせられるとまずいなと思った。女がいない。
「入れ」
ドアを開けるとオーナーの前に2人の若い男がいた。
知らない顔だった。
「こちら新宿署の刑事さん」
「刑事?」
座って、と物腰の良さそうな男が向かいのソファーを差した。
「僕は神谷です」
その物腰の良さそうな男が名乗る。
「篠山です」
オーナーの横に座った。
「飛路さん。本名を名取貴大(タカヒロ)さんでよろしいでしょうか」
「はい」
神谷――神谷大地、大地は聞いてきた。
「あの、刑事って……、俺何かしました?」
いえ、と大地は微笑んだ。
「そういうわけではありません。この近くで昨日、人が亡くなったのはご存じですか?」
「ああ、その捜査で俺を?」
「ええ。お話、聞かせて下さい。名取さんは彼女、亡くなった隅埜(スミノ)里香さんとは面識は?」
「ありますよ。週1、または週2で指名してくれた。リカって隅埜だったのは初めて知った」
大地が頷いた。
大地の隣に座る篠山って刑事は横で聞いてるだけだ。
「指名客だったわけですね。彼女に最後に会ったのはいつですか」
「3・4日前……、ええと、あ、3日前。指名してくれた、けど」
「けど?」
「……疑われてる?」
「形式的なものです。蓮華従業員全員に聞いてます」
「……そう、か」
疑り深い目をしていたのだろう、大地はペンを置いた。
「犯人の目星もまだ付いてません。まだ聞き込みも途中の段階です。ですが、昨日のこのお店にいた従業員のホストや従業員は誰かしらに顔を見られている。貴方も含めて。アリバイはある。そうでしょう? 名取さん」
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