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目を開けた時はもう昼過ぎだった。
リビングのテーブルに大地の書き置きがあった。
「大地、やさしー。……って冷蔵庫、何もないんだけど」
一人暮らし、しかも刑事という職業柄、あまり家に長くいないんだろうと思わせる。
この部屋を見れば大地が今、特定の誰かがいるとは思えない。
インスタントラーメンを拝借して食べた。
スーツに着替えるときに怪我した腕が目に入った。
病院に寄ってから仕事に行こうと思いながらシャツを着る。
蓮華には下っ端が集まる寮がある。そこで貴大は生活している。
男だけの共同生活。そこに東雲組長と若頭がやって来た。話を聞きに来たと。
ヤクザが相手だ。普通なら関わりのない相手。緊張だってしていた。
「なるほど、わかった。けどなー、刑事って前に見た奴らだろ。若いじゃん。仕事出来んの?」
若頭がバカにしたように言った。
むっとする。大地達が頑張ってるのは知ってた。毎日現場に来て聞き込みしたりしてるのを見てた。
確かにヤクザ、極道と警察とは相容れない仲だ。嫌煙するのはわかる。けど、なんだそれと思った。
「あんたも若いじゃん」
「は? お前誰に口きいてんだ。あ?」
「知るかよ。あの刑事は若くったってちゃんと仕事してる。あんた達と違ってね」
「はぁ? オレが仕事してないとでも? 舐めた口きくんじゃねぇよ!」
若頭が吠えた。
「やめろ、弾」
組長が息を吐いて、止めていた。
「千里は黙ってろ。バカにされて黙ってられるか」
若頭と睨み合う。
この時はどうかしてた。
言い合いがありますヒートアップする。
はっと組長が息を飲むのがやけにはっきり聞こえた。若頭がのし掛かって来たと思った時、
「弾!」
組長の声。
赤いものが広がる。それが自分の血だと認識したのは組長に頬を叩かれた時だった。
パタパタとスエットのズボンと床を汚す。ふぅっと気が遠くなりそうだった。
「名取! 聞こえるか」
目の前に組長の顔があった。
何事かと他のホストが顔を出し騒ぎ出す。
そこからの記憶は曖昧だ。気付けば病院で、治療を受けていた。
帰りの車の中、治療費は若頭が出すと言われ、頷いたのは覚えている。
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