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「大地ぃ!」
金髪のような見ようによっては薄茶色の髪をなびかせて寄ってきたホストがいた。
「名取さん」
「貴大って呼んでよ。大地」
顔を合わせる度、呼び方が変わり、名取貴大から大地と呼ばれる。
貴大から見れば兄のような感じなんだろうか。
慕われるのは嬉しい。
「どう? 支店のほう」
「本店よりいいかなー。楽しいよ」
本店から支店に移って1週間たっていた。
「あれ、篠山さんは?」
大地の相棒がいないことに貴大は気付いた。
「里香さんが勤めていたキャバクラで盗難騒ぎがあって。今回の事件と関連はないと思うけど。犯人らしき人を見た人がいて、調べてる」
「また、あったんだ」
「また?」
「あー、リカ、盗られたらしい。鏡とか口紅とか小物だと言ってた。リカから聞いただけで3度。他の子も盗られたコいたはずだよ」
「そうか」
「……事件と関係ないか。リカ、殺した犯人見つかりそう?」
「まだ、容疑者が絞り込めなくてね」
「そう」
貴大も容疑者の1人に入ることを大地は言わなかった。
貴大は誰よりも里香に近い存在だった。だが、貴大にはアリバイがある。里香が殺された時刻、貴大は本店にいた他のホストが目撃している。客も然りだ。
里香の勤めていたキャバクラの女の子達は里香がどこに住んでいるかも知らなかった。
里香を一番に知るのが貴大なのだ。
一緒に住み里香と生活を共にしていた。
里香が殺されたのはキャバクラから近い。本店からも、近い。
抜け出すのは容易い。
「そろそろ行くわ。大地、早く犯人逮捕しろよ」
「うん」
「じゃあね、大地」
手を振って、大地は支店へ向かう。
「また、あいつ?」
後ろに篠山が立っていた。
「あ、はい」
離れていく貴大の後ろ姿をじっと見据える篠山。
「怪しいな」
「……」
「今日も捜査の進展聞いてきた?」
「はい」
「怪しい」
アリバイはある。怪しくはあるが、大地には貴大が犯人だと思えなかった。
「行きましょう、篠山さん」
篠山の目を貴大から外すために大地はキャバクラの方へ歩き出した。
篠山は大地の相棒だった。刑事は2人一組で動く。篠山は29。大地より4つ年上だが、大地のほうが階級が1つ上の警部補だ。
だが刑事歴は篠山のほうが長い。経験も上だった。
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