▼ April fool
春休みは実家に帰っていた。その間、蓮路さんとは会えない。
する事がなくてうだうだテレビを観て過ごして風呂に入ったのが11時半を回っていた。
部屋に戻ったところで着信があった。蓮路さんからだ。
「もしもし!!」
『うっわ、でかい声出すなよ』
一言、蓮路さんが文句言う。
「ごめん。だって掛けてくるって思わなくて」
蓮路さんは筆無精ならぬ、電話無精&メール無精なのだ。
『実家、どう?』
「んー、暇だよ。明日そっちに帰ろうかな」
『いや、帰って来るな。オレいないし』
「へ?」
春休みだって蓮路さんは社会人。仕事はあるはずで。
「なんでいないの? え、蓮路さん、どこいるの?」
『さぁ? どこだと思う? 黄色と赤のチューリップが庭に咲いてて、そこから小高い丘の上の桜が見える』
「まさか……」
拓海は階段を降り、庭へ続くガラス戸を開けた。
「蓮路さん!」
拓海の実家の家の庭から少し小高くなった丘が見える。春になれば桜が満開になる。
『拓海』
電話越しに蓮路さんの声。
「どこ?」
『桜、綺麗だった。拓海のお母さんに御馳走様って伝えてくれ』
「ええ? 蓮路さん?」
電話の向こうで微かに笑う声がする。
『馬鹿だね、お前。時計見ろ』
「0時24分……。あっ」
日付は変わって、今日は4月1日だ。エイプリルフール。
「なんだ」
がっかりして戸を閉める。
『ま、昼間に行ったには行ったんだけどな』
「え、ほんと?」
『ああ。神楽店長に無理矢理有給取らされたからな。びっくりさせようとお前んトコ行った。お前、留守だったけど』
拓海の母親が出て、昼間はデートしたと蓮路さんは言った。
昼間は暇でぶらぶらしてたんだ。家にいれば良かった。
母さん、一言も蓮路さんの事言わなかったな。
『拓海の育ったトコ、いいとこだな。今度は拓海と歩きたい』
「うん……」
そう言われるとジンと胸の奥が熱くなった。
いつか、蓮路さんとこの街を歩けたらいい。お気に入りの店とかよく行った本屋やカラオケ。
いつでも案内するよ、蓮路さんにそう言った。
090401
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