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すぐにメールが返って来た。
『一緒に風呂入って。入らず待ってるから』
『わかった。いい子で留守番してろ』
毎日頼む弁当屋の弁当を食べ、椅子の背に寄り掛かる。
「あー」
息を吐いて顔を上げると神楽が昼休憩に来た。
「どうした、蓮路」
「んー、やぁ何でもないです」
「だれてると襲うぞ」
「冗談に聞こえません」
「冗談じゃねーよ」
蓮路は椅子ごと神楽から離れる。
「神楽さんて男いけるんですね」
「ああ、俺の童貞喪失、男だし?」
「マジですか……」
神楽は女にもてる。お持ち帰りしたのを蓮路は何度も見ていた。
「蓮路はいい男だね。オーナーに似てる」
「恭壱さんですか」
「蓮路はさ、恭壱に似てる」
「そうですか?」
アクアのオーナー、加賀恭壱を思い浮かべる。
すらりと背の高い蓮路から見てもカッコいい、スーツの似合う男。
神楽の言う、似ている要素がいまいち蓮路にはわからなかった。
「なぁ、蓮路」
「何ですか」
「蓮路はさ、拓海君のどこに惚れたわけ?」
まさかそんな事聞かれるとは思っていなかった蓮路は神楽を見た。
茶化すふうでもない神楽に蓮路は答えた。
「改めて聞かれると……。でも、そうだな、真摯なとこかな」
「そうか」
「蓮路、お前にはあいつが似合ってる。離すなよ」
「拓海は誰にもやりません」
蓮路はきっぱりと言う。
「だってさ、拓海君」
ドアから拓海が入ってくる。
「店長……」
「帰らすわけないだろー。お前に髪型見せてないのに。ど?」
拓海の髪は、拓海と出会った時の髪型だった。
蓮路が似合わないと思った無造作ヘア。
その時より若干短い髪。髪を後ろに流しながらも遊びを加え拓海によく似合っていた。
「適わねー」
神楽の腕にはまだまだほど遠いと思った。
これでも蓮路は神楽を尊敬していた。
いつか神楽を越えたい、そんな思いがある。
「勉強になったろ?」
「はい」
「よし」
ぐしゃぐしゃと蓮路の髪をかき回す。
「てんちょー」
「ははっ。蓮路も髪切るか? 前髪だけでも」
神楽がちょいちょいと手招きする。
素直に応じた。蓮路の髪は神楽にいつも切ってもらっていた。
霧吹きで髪を濡らして神楽が鋏を手にした。
蓮路が目を瞑る。
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