最強男 番外編 | ナノ


▼ ちさっちゃん

焦げ茶の髪に金茶と薄茶のメッシュの入る朱里の髪。少し、千里より長めだろうか。
対して千里は黒髪に少々遊びのある程度の髪。
これだけで人の印象は変わる。

双子と知る同級生。だが、双子と覚えているのは何人いるだろう。



「ちさっちゃん」
千里ことちさっちゃんの部屋に遊びに来た。学校では他の奴らとつるむ俺も、寮に帰ればなんとなくちさっちゃんの部屋に入り浸る。

双子は同じクラスにはならないし、同じ寮の部屋にはならない。

「安西は?」
安西っていうのは千里のルームメイトの名だ。

「平岡の部屋で勉強会という名目の飲み会」
「やるんだ。後で顔出そっかな」
「やめとけ」
「なんで」
「お前、酒乱なんだよ」
「んじゃ、ちさっちゃんも参加して俺見ててよ。そしたら飲み過ぎることない」
ね? 首をかしげてちさっちゃんを見れば笑って参加を承諾した。
ちさっちゃんは俺に甘いところがある。


千里の手が俺の髪を引っぱる。

「染め直したのか」
「おー。昨日、美容院行ってきた。ど?」
「瓜坊みたいだな」
「うりぼー…って、あーあ、ちさっちゃんに聞いた俺が間違ってたわ」
「似合ってる」
「嬉しかないな」
「そうか? かわいいじゃないか」
「マジで言ってんの、それ」
「? ああ」
俺は、にへっと笑って言った。
ちさっちゃんはたまに変なところで天然だ。

「ちさっちゃん、愛してるぜ?」
そう言うとがしがしとちさっちゃんに頭を撫でられた。

こんな兄弟のじゃれ合いは、決して嫌いではない。寧ろ好きだ。

「朱里」
「んー?」
「いるか?」
見せられたのは映画のタダ券。

「どしたの、これ」
「シンに貰った」
「シン? ああ、桐生か。何、ちさっちゃん。桐生と行かねーの?」
「……別れた」
「は?」
「別れた」
「なんで」
ちさっちゃんと桐生椎名は誰が見てもべったべったの甘々カップルだった。

「……好きな奴が出来た」
ちさっちゃんからそんな言葉が漏れた。

「ちさっちゃんもようやくホントの恋を知ったかー。初恋だな」
気になる奴は大抵同じ奴だった。だがちさっちゃん自身が恋をしているようには見えなかった。

「初恋か、そうなのかな」
小さくちさっちゃんが笑う。

「なぁ、朱里。恋は甘いし切ないし痛いな」
「ちさっちゃん……」
複雑な顔をして言うちさっちゃんは恋を知らなかった幼い少年ではなく、恋を知った少しだけ大人になった少年になっていた。


「ちさっちゃんの好きな人、どんな人?」
「中学生。千明の元同級生だな」
「え。てことはさ、中1? 名前わかってんのか」
「日下仁。千明の小学校の卒業アルバムで確認した」
「じゃあ、向こうはちさっちゃんの事……」
「知らないな」
「告んないの?」
「今したところでひかれるだけだろ。男同士だ。それに4つ年下だからな、仁が男同士の恋愛もあると認識してからでもいいかと思ってな」
「それまで片想いでいるのか?」
「それもいいかと思う。今まで恋を知らずに遊んでいた罰だ」
「ちさっちゃん、本気なんだな。仁に」
ちさっちゃんの目はまるでそこに仁がそこにいるかのような、優しい目をしていた。

「ちさっちゃんがそんなに本気になるんだ。俺、きっと仁を見たら好きになるから会わせるなよ」
ちさっちゃんがちょっと笑った。気になる相手はいつも一緒だったから。


「そういやさ、日立くふりが千明の“日立”になるって宣言したって?」
「ああ。らしいな」
「ちさっちゃん、日立くふりはちさっちゃんの“日立”にならないとかわかってたのか? ちさっちゃん、日立くふり以外の日立は自分に近づけなかったろ」
千里は、日立くふり以外の日立を自分に近づけようとはしなかった。それは、くふりの弟ですら同じだった。

「日立は最初から俺を見てはいなかった。だから反対に傍に置けたんだ。元々“日立”にいられるとうるさいだけだ。俺に“日立”はいらない。“日立”を置くなら、いつか仁が俺のとこに来た時、あいつが俺の“日立”になればいい」
「好きなんだな、仁の事」
好きだ、と素直に言葉が返ってくる。

「ちさっちゃんの恋、実るといいな」
ちさっちゃんは、俺だけにほんとの顔を見せる。多分ちさっちゃんの近くにいる日立や棗も知らない、弱いちさっちゃんを。
俺も弱い部分はちさっちゃんにしか見せない。

双子だからか、気付かれたくないことも気付いてしまう。でもどこかで気付いて欲しいと思ってる。

どちらか大切な人を傍に置くまで、それまではちさっちゃんを借りておこう。

いつか俺も弱い部分を包んでくれるそんな人と出会えればいい。そう思った。

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