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冷房をかけているにもかかわらず部屋は暑かった。
「くそっ、ぶっ壊れたか」
クーラーを睨みつける。
千鷹は窓を開けた。生ぬるい風が入ってくるが、部屋の中よりましだった。
窓の向こうはネオンが瞬く歓楽街、歌舞伎町。その中に東雲組の組事務所はあった。
「千鷹」
部屋に要が入ってくる。
「暑っ、この部屋」
「壊れた」
クーラーを指差し答えると、要は千鷹の側までやって来た。
「ああ、いくらか。どっちにしろ暑いな」
「で、何か用あるんだろ」
「ん? まぁな。おもしろいものが手には入ったから、お前に見せようと思って来たんだ」
「おもしろいもの?」
要はにやりと笑う。
「見たらお前、絶対、興味持つ」
「へぇ? 見せて見ろ」
「車のトランクの中だ。人目につかないとこで開けたい。もう、仕事、上がりだろ」
「ああ。帰るだけだ」
「見せてやるよ。ただし、時雨には見せられない」
「時雨は帰す。それでいいか」
要は満足そうに頷いた。
部屋を出ると時雨が顔を上げて千鷹を見た。
「先に帰れ、時雨。要と話がある。要の“日立”もいるから大丈夫だろ」
「……わかった」
あまり納得していない顔で頷く。時雨は千鷹に付いて行きたいのだ。
「帰ったら顔を出す」
時雨が頷く。それを見て要と事務所を出た。
要が車の後部座席のドアを開ける。
ここで見せる気はないようだ。千鷹は座席に乗り込んだ。
隣に要が座ると車は発進した。運転席には要の“日立”春がいる。
数10分、都内を走り総本家の裏に止まった。
「とりあえず蔵にぶち込む」
総本家は三家の本家と言っていい。
「見られたくねぇんだ。秘密を知る者は少なければ少ないほどいい」
「確かに」
ここなら。
蔵にはほとんど人は近づかないし、母屋から離れている。
要がトランクから何かを担いだ。
春が点灯した懐中電灯で足元を照らす。
「要、それ……」
それは人だった。
「中に入れ」
蔵に入ると同時に電気が付けられる。
要は二階へと上がっていく。そして「それ」を下ろした。
「顔、見てみろ」
千鷹は息を飲んだ。
「時雨……」
トランクの中で気を失っているのは時雨と瓜二つの青年だった。
「通称、壱。情報屋」
「あの?」
情報屋の壱の名前だけは知っていた。姿無き情報屋。
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