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「いつか言える時が来るさ」
「うん」
それが千里と仁の小さな出会いだった。
「千里兄さん、オレ、来て良かった」
「ああ、俺もだ」
「え?」
「なんでもない」
「……?」
何気ない出会いが、千里の本当の恋の始まりだった。
傍にいた千明ですら気付かなかった、千里の恋だった。
「お前、何最近こそこそしてるんだ」
何気なく日立に聞かれ、口角を上げる。
「付き合い悪いぞ、お前」
「うん」
同意するように棗が頷く。
「なんでもない」
ここ最近、仁のいる中学を学校が終われば見に行っていた。
「千里、恋でもした?」
言われて棗を見る。
「本当の……本気の恋、した?」
「……」
棗の洞察力に千里は白旗を上げた。
「……ああ」
「実るといいな」
「サンキュ」
いままで、本気で人を好きになるなんてなかった。
その相手が女であれ男であれ。
千里は遊びの恋を終わらせた。
それから千里は一途に仁を想い続け11年。
その恋が報われ、今千里の隣に仁がいる。
仁の寝息にキスを絡ませる。
「ん……」
仁が小さくうめいて千里に身体をすり寄せる。
「仁」
名を呼んでみる。眠る仁が返事をするわけないが、仁の名を呼んだ。
仁が動いて目を開けた。
「……千里さん?」
眠そうな瞳が千里を覗く。
「あれ?」
不思議そうに仁が千里を見上げている。
「どうした?」
「……ん、なんか誰かに名前を呼ばれた気がしたから」
「そうか」
千里は心の中で微笑む。
「千里さんが呼んだの?」
「そうかもな」
仁の頭をがしがし撫でて仁を抱き込んだ。
「暑いんだけど」
「そうだな」
同意しながらも仁を離そうとしない千里を見上げる。
小さなライトの灯りの中、仁の瞳の中に千里を映し出していた。
仁はまっすぐ千里を見ていた。
「千里さんに会えて良かった」
「……」
仁にあの公園で会えたのは偶然だった。
けれど、仁が千里の手に落ちるよう画策したのは千里。
いつか仁はその策略に気付くだろう。その時、仁が自分から離れなくなるくらい好きになってくれていたら、それでいい……。
070614
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