最強男 番外編 | ナノ


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「そうだ。壱が昨日蔵の中に放ったやつ、何だっんだ?」
「気付いた? あれ、フェイクだよ。本当の目的は千鷹に盗聴器仕掛ける事だった」
「は?」
「そっちには気付かなかったんだ? あんたのズボンとベルトの間に差し込んだ。意外と気付かれないんだよ。……千鷹と時雨ってそういう関係だったんだね」
「何、お前もそういう関係になりたいのか?」
「オレが? そんなあやふやな関係いらない。盃頂戴」
「……おい」
「ヤクザって親子盃とか兄弟盃ってあるだろ。オレと千鷹だけの兄弟盃頂戴。正式なものじゃなくていいよ。俺を表に出せないし。千鷹の友達として仲間に入れてよ。……昨日あんたと喋ってて嬉しかったから」
「嬉しい?」
「戸籍がないって、わかる? 存在してるのにみんなに素通りされるんだ。学校にも行けないし、勿論友達もいない。千鷹、友達になってくれる? 年の近い奴と話せるってすげー事なんだぜ」
千鷹は黙って壱を見た。

「あんたみたいな友達が欲しいよ。盃交わせば簡単に裏切れない……だろ」
「わかった。待ってろ」
部屋から出てキッチンへ行く。本宅のキッチンは厨房といったほうがいいかもしれない。広いキッチンに藤堂がいた。

東雲組の組員兼料理人。ガタイのいい男だ。

「藤堂」
「組長」
こちらを見る藤堂の瞳は優し気だ。

「日本酒出せ」
「普段、日本酒は飲まないのに。飲むんですか?」
「ああ。盃交わす。誰にも言うなよ」
「誰と、とは聞きませんけど」
「賢明だ」
「いいんですか?」
「心配するような相手じゃないし、大丈夫だ」

酒と盃を受け取ると部屋へ引き返す。部屋では壱が千鷹のベッドに寝っ転がっていた。

「あんた、贅沢だな。こんなふかふかのベッドに寝れるんだ」
「まぁな」

壱に盃を差し出すと壱は居住まいを正し、恭しく受け取った。その盃に酒を注ぐ。

「いいのか、オレなんかと」
「言い出したのはお前だろ。俺は壱みたいな奴、ダチにいないからな。楽しくやろう」
「うん」
こくりと一口飲んだ壱が今度は千鷹に盃を渡す。千鷹は受け取り、酒を飲んだ。

「変だね。あんたとは昨日会ったばかりなのに知っていたみたいな感じがしたんだ。遠目から見た事あったせいかな」
「そうか」
「よろしく、千鷹」
壱は時雨とは違った笑みを千鷹に向けた。それは純粋に友に向けた瞳。

昨日は壱を利用しようと企んだ。それが依頼。依頼は遂行するが、昨日思っていた組長の東雲千鷹としての壱との付き合いが、ずっと深い結びつきになった気がする。

それでいいと思った。壱を知りたいと思った。

時雨と同じ顔をしている壱。だが、時雨とは違う。

千鷹が本当に壱に興味を持ったのは、この時かもしれない。

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