最強男 番外編 | ナノ


▼ 014

「なんだかなー、神流も。でも、そうやって千鷹に近付くために足掻く神流は、けっこういいんじゃない? 現状で満足してたら駄目だよ」
「そうかな」

時雨は千鷹の“日立”になった。目的は完了されて、時雨に望む先はない。

神流は違う。
千鷹の“日立”になれなかった。だから、日立の名があろうと幹部になろうと躍起になっている。足掻いている。少しでも千鷹に近付こうと。

「ねぇ、時雨。もし、神流が幹部になったらどうする?」
「ならないよ。なれない。日立だから」
「それでも、なる為に動いてる。今回の詩の妊娠はもしかしたら神流にはチャンスになるかもしれないよ」
「神流っていうより日立が幹部になることを是としない連中の方が多いんだよ。無理だよ」
「そうやって、やりもしないうちから諦めるのが時雨。神流はやるかもしれないよ? 神流は幹部になる気がする。結局は千鷹がなっていいなんて言えば、なれちゃうしね。全部を覆して」
「……」
「時雨はお願いしなきゃね。千鷹に。神流を幹部にしないでくれって」
「千鷹の一存でなれないし……」
「うん。でも、最後の決定権は千鷹にある」
「そ、れは……、そうだけど」
「時雨。神流は千鷹の傍に行くためならなんだってする奴だよ。幹部や東雲に幹部になりたいって、ならしてくれってお願いに行ってるの知ってる?」
「知らな……い」
初耳だった。

「神流、そんな事してるの……」
「日立がって一蹴されてるみたいだけどね」
「……」
「……神流は、幹部になる気がする。めげないもんな」
「要、俺を責めてる? 要はどっちの味方だよ」
「時雨。だからー、お前も精進しろって言ってるんだよ。でないとマジあいつ、千鷹の傍に行くぜ?」
「うん。わかった」
時雨は返事をした。

「戻れよ。長居してると千鷹、うるさいぞ」
「うん」
立ち上がって要を見る。

「まだ何すべきかわからないけど、頑張るよ」
「おお」

グリーン車に戻る道すがら神流が立っていた。

「……何かあった?」
「……いや」
神流は首を振る。

「詩、いつもよりぎこちない。どうかしたのか」
時雨は自分がばらすのは良くないと思った。
適任は千鷹か千森だろう。

「どうしたんだろうね。気を付けて見てるよ。神流も見てて」
「ああ」
「千鷹の所に戻るよ。神流、停車の度に見回ろう。今度は神流が見たところを僕がまわる。神流は僕が見たところを見て回って。すぐ新横浜だ」
「了解」
短く返事をして神流は要の所へ戻って行く。

時雨も千鷹の元へ戻る。ちょうど新横浜に着いた。新幹線が新横浜で乗客を乗せ動き出す。

「千鷹、見回り行ってくる」
「時雨、あたしも行く。見回りしなきゃ、神流が変に思う」
「詩、神流、気付いた。流石に妊娠してるとまでは思ってないみたいだけど」
「もう?」
「座ってて」
「神流ってするどーい」
「聞かれたら言えよ、詩。あいつ、本人に聞くだろ」
千鷹が詩に言う。

詩は頷いた。

「詩が妊娠かぁ。乳母役はまかせてね」
春灯がポンと詩の肩を叩く。

「来年、また賑やかになるわ。楽しみね」
神流と要のいないところで盛り上がる。

見回りから戻ると千鷹はグリーン車から出たところで時雨を待っていた。

「次、名古屋で見回りだろ」
「うん」
デッキには誰もいない。

「時雨」
千鷹が近付いてきて時雨の前で止まる。千鷹の背は高い。見上げる形になる。

「ち……」
名前を呼ぼうとした時、壁に押し付けられ千鷹の唇が重なった。

「……ふっ」
千鷹の舌が入り込み、絡まる。

「はっ……」
それだけで熱が生まれる。

もっと、もっと。

いつしか時雨が千鷹の唇を貪っていた。

「しつこい」
ぐっと頭を押されて離された。

「足りないか?」
カッと頬が熱くなる。

「落ち着いたら来いよ」
ニヤッと笑って千鷹は時雨を置いてグリーン車に入って行った。

「……ひどいよ、千鷹」
煽って、放り出されたのだ。たかがキスで熱くなれるのは千鷹のせいなのに。

ずるずると座り込み、収まるのを待つしかない。トイレにいくのは場所が場所だけに何だか恥ずかしかった。千鷹がそういう身体にしたのに。

「はぁ……」
溜息吐いて収まるのを待った。

「千鷹の馬鹿……」
神流がこの呟きを聞けば、お前でもそんな事言うんだなと笑うだろう。

神流から見ても時雨の千鷹に対する好き好きオーラは出ているからだ。

神流も十分出てるよ。ライバル心剥き出しの神流は疲れると正直、思う。

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